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アンコール

東北でもオーケストラが活動再開~仙台フィルと山響、6年ぶりの合同演奏会を開催

優れた音響のやまぎん県民ホールで行われた山形公演。2001席のうち使用されたのは800席ほど=7月12日 提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団

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 山形交響楽団と仙台フィルハーモニー管弦楽団が、2014年以来、6年ぶりの合同演奏会を山形市内と仙台市内でそれぞれ開催した(7月12日・やまぎん県民ホール、18日・東京エレクトロンホール仙台)。新型コロナウイルスによる活動自粛により、仙台でオーケストラの音色が響くのはじつに5カ月ぶり。両公演ともに奏者と聴き手の静かな熱意に満ち、自粛後の東北における演奏会の再開を強く印象付けた。

 プログラムは当初ブルックナーの交響曲第8番を予定していたが、奏者の距離を取るために構成を変更。「東北UNITE~東北は音楽でつながっている~」をテーマに、金管セクションのみの「祈り」、弦楽のみの「未来」、そしてオーケストラによる「希望」の3部構成で新たに組み直された。もとよりこの合同公演は2012年、東日本大震災の被災者へのメッセージを込めてマーラーの「復活」を奏でたことに始まった。過去2回の指揮者もやはり、山響芸術総監督の飯森範親。コロナ禍で閉塞感の漂う地域社会を意識し、音楽で寄り添いたいというメッセージ性の強い構成は、じつに彼ららしい取り組みである。

 第1部「祈り」は両都市にゆかりのサッカーチームのファンファーレで幕を開け、ブルックナーのアンティフォナ「マリアよ、あなたはまことに美しく」など小品で構成。続く第2部「未来」ではエルガーの弦楽のための序奏とアレグロを演奏し、オーケストラと掛け合う弦楽四重奏を両楽団の〝未来〟を担う若手奏者が務めた。管弦分かれての演奏は山響が活動自粛中のライブ配信でも取り入れていたが、楽器の特性とそれを生かした響きや旋律のつくりを対比的に楽しむことができる。緩急自在に、ときに畳みかけるような音楽づくりは、特に5月に開館したばかりの山形のやまぎん県民ホールの豊かな響きとクリアな残響も相まって、ややマイナーな選曲ながらその面白さを存分に引き立てていた。

山響と仙台フィルの金管セクションのみで行われた「祈り」の部=東京エレクトロンホール宮城で18日 提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 休憩後、「希望」の部では管弦によってチャイコフスキーの交響曲第5番が演奏された。これについては、18日の仙台での演奏のほうが練られていた。弱音のひとつひとつ、裏拍の一音にもあふれる歌心は、だからこそ劇的な盛り上がりを際立たせ、終始濃密な音楽を作り上げていたように思う。また18日は各パートが旋律を丁寧に紡ぐことでそのつくりを浮き彫りにし、叙情性や劇的な表現に終始せず、より奥行きをもって感じられた。ソロを務めた山響の川上一道(クラリネット)、梅島洸立(ホルン)の両氏の活躍も特筆すべきだろう。全体としてオーケストラの演奏への熱意、聴き手へ伝えることへの貪欲な姿勢がより伝わり、生で聴くオーケストラの響きが格別のものに感じられた。

 なおこの2公演は、感染防止の点からホールの客席数は半分以下、オーケストラの規模も当初ブルックナーで予定していた16型(全体で90人以上)から12型(65人ほど)へ変更して行われた。自粛から公演再開までの道のりは両オーケストラで異なる。山響は世界への配信が可能なプラットフォームを利用し、3月14日、他のオーケストラに先駆けてライブ配信を行った。途中、花や有機EL (白色に光る有機EL は山形大学が世界で初めて開発に成功した)などの山形の特産品や見どころを織り交ぜた配信は、「目的はこの山形という街をいかに幸福にできるか。オーケストラの芸術性を使って山形の魅力を発信していくというポリシーのもと行っている」(山響、西濱秀樹氏)という。14日のライブは配信時だけで3万人、のべ12万人が視聴し、話題となった。

 一方仙台フィルは、2月の公演を最後に、緊急事態宣言が解除される5月14日までは「社会の一部としてステイホーム」(仙台フィル、磯貝純一氏)。解除の直後、「ここからが私たちが皆さんの気持ちを押し上げるとき。オーケストラが街にあることで少しでも前向きになれることがあるのだとしたら、それが存在意義につながる」(同前)とYouTubeの動画配信などを開始した。ブルーで医療従事者への感謝を示すMAKE IT BLUE を公演再開後初の定期で展開したのも、こうした方針からだった。

 彼らはアプローチの仕方こそ違うが、「オーケストラは存在そのものが目的ではなく、地域、社会に寄与する手段」という思いは共通している。いま、音楽で何ができるか、オーケストラは地域の人々にとってどのような存在であるべきか――確固たる信念のもと、東北のオーケストラは、コロナ禍での活動を模索している。(正木裕美)

公演データ

【東北UNITED 山響×仙台フィル合同演奏会2020】

7月12日(日)15:00 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)/18日(土)15:00 東京エレクトロンホール宮城

指揮:飯森範親

管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団、山形交響楽団

◆「祈り」金管セクション

早川太海:「SPIRIT OF YAMAGATA」(J2 「モンテディオ山形」公式アンセム)

内藤淳一:「闘志躍動」(J1 「ベガルタ仙台」ファンファーレ)

ブルックナー:アンティフォナ「マリアよ、あなたはまことに美しく」

ブルックナー:モテット「キリストは従順であられた」

◆「未来」弦楽セクション

エルガー:弦楽のための「序奏とアレグロ」

◆「希望」合同オーケストラ

チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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