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ウィズ・コロナのオーケストラ

(1)NHK交響楽団 定期公演に代わる演奏会「予定していた出演者 なるべく残していく」

パーヴォ・ヤルヴィとN響=2020年2月の定期公演より (C)NHK Symphony Orchestra,Tokyo

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 コロナ禍で日本のオーケストラ界も深刻な影響を受けている。在京のオーケストラではさまざまな感染防止対策を施しながら、演奏会を再開し始めているが、3密を避けるために客席だけではなく、ステージ上の人数を絞るなど音楽面はもちろん、採算面からも〝平時〟とは程遠い状況が続いている。そこで在京オケの幹部にウィズ・コロナにおける演奏会のあり方や楽団の運営について聞いていく。そのシリーズ第1弾は今月、定期公演に代わる「9月公演」をスタートさせたNHK交響楽団演奏制作部の西川彰一部長。指揮者をはじめとする海外アーティストの招へいの見通しなどについても語ってもらった。

(宮嶋 極)

NHK交響楽団演奏制作部の西川彰一部長

――コロナ禍が続く中、在京の各オーケストラは感染対策を徹底しながら演奏会を徐々再開し始めています。NHK交響楽団も今月から定期公演に代わる「9月公演」を開催します。開催にあたっての基本方針をお聞かせください。

西川(以下、N) N響のシーズン(楽季)は9月から翌年6月までで、定期公演開催の可否を判断する時期が新型コロナウイルスの感染が拡大している頃でした。N響は定期会員の数が多いので、収容人数を減らして開催する場合は影響が非常に大きいということで早い時期に中止を判断して発表しました。その一方でスケジュールやプログラム、出演者も定期公演全体で押さえていたので、それをすべて白紙に戻すというのも現実的ではありません。そこで1回ごとのバラ売り公演にしつつも、元々予定していた出演者はなるべく残していく方針は貫きたいと考えています。特に首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィは大事にしていかなくてはいけない存在ですから(日本への)入国制限が解除されるかどうか、ギリギリまで待ちました。それと並行して制限が解除されなかった場合に備えて代役の指揮者の準備も進めてきました。プログラムについては当初、マーラーなどが予定されていましたが、それはやはり難しいということで、編成を小さな曲に変更し休憩を取らないことで感染リスクを軽減し、正味1時間程度の公演に組み換えました。結局、制限解除の見通しが立たなかったことから代役の指揮者による9月公演の詳細を発表しました。

――その方針は10月以降も継続されるのですか?

N 10月はヘルベルト・ブロムシュテットさん、そして11月はマイケル・ティルソン・トーマスさんとの初共演と多くのファンの期待を集めていましたので、早い段階であきらめてしまわずに招へいに向けてギリギリまで努力をしていきたいと考えています。ありがたいことにブロムシュテットさんは「どうしても行きたい。リスクを冒すのも音楽家の使命だ」とおっしゃってくださり、そのお気持ちに応える意味でも私たちは飛行機の予約をキャンセルせずに、空港で安全にお迎えする態勢も整えていました。

ブロムシュテットとN響=2019年11月の定期公演より (C)NHK Symphony Orchestra,Tokyo

(編注) インタビュー取材を行ったのは9月1日で、その後も入国制限解除の見通しが立たなかったことからブロムシュテットの来日は残念ながら中止となり、代わって鈴木雅明が指揮台に立つことが7日までに発表された。古楽の分野を中心に世界的な評価も高い鈴木雅明とN響の共演は初めてとなる。(詳細は文末の公演データをご参照ください)

――仮に入国制限が緩和された場合、海外アーティストにPCR検査を行ったり、定められた期間、待機を要請したりするのですか?

N そうですね。待機については政府の新たな方針次第です。永住者や留学生の方が一度、海外に出た後、再入国するのは認める方針が示されました。その場合は入国前と入国後のPCR検査と2週間の待機が義務付けられる方向のようなので招へい指揮者やアーティストに対しても同様の制約が課されるのではないかと予想しています。多忙なアーティストに実際2週間も待機していただくのは現実的ではないのではないかとも考えています。

――この夏以降、各オーケストラが徐々に演奏会を再開し始めていますが、感染防止対策については、ステージ上での楽員の配置や観客・聴衆の収容人数等、団によって若干の違いが見受けられます。N響はどのような方針で臨んでいますか?

N N響はNHKとの関係もあり、より慎重な対応が求められます。これまではシャリテー・ベルリン医科大学が5月に発表したリポートに準じて弦・打楽器は各奏者間を1.5メートル、管楽器は2メートル空けるようにしていました。現在は長野県茅野市で行われた(飛沫等に関する科学的)検証の結果を踏まえて団独自のガイドラインを作成し、今後はそれに沿って対応します。検証結果から奏者間の距離を縮めていくことが可能となりますが、いきなり従来通りに戻すと客席からの見た目や奏者の安心感を損ねる恐れもあることから、当面は通常より少し広めの距離を取っての配置となる見込みです。弦楽器は2人で1台の譜面台を何とか見ることができる間隔ぐらいになるのではないでしょうか。客席について当初はホール定員の3分の1くらいに制限していましたが、9月以降は定員の30~35%の範囲での収容となります。あとは国や都による大規模イベント収容人数の上限制限が今後どうなっていくかも注視していく必要があります。

(編注) 政府は11日、新型コロナウイルス感染症対策分科会を開き、クラシック音楽のコンサートや歌舞伎などの古典芸能に関して、観客が大声を出し飛沫を発生させるリスクが低いと判断し、収容率を定員の100%に緩和する方針を決定した。今月19日から11月末までの間実施するもので、その後の扱いは感染状況などを見て判断する。なお、ロックコンサートや大規模なスポーツイベントは大きな歓声が上がることでの飛沫が発生する危険性を考慮し、当面、収容定員の50%を上限としている。

――当面は小編成の作品のプログラムとなりそうですが、どこかの時点でマーラーやリヒャルト・シュトラウスらの大編成の曲も取り上げていくことになりますか?

N N響に対してはそうした大規模な作品に対する期待も多いと思いますので、どこか戻せる時点で、戻したいとは考えています。

――その具体的なタイミングは?

N ひとつには(年末の)ベートーヴェンの第9公演ができるかどうかでしょう。早ければ12月の時点でフル編成、(弦楽器編成を)16型に戻せるかどうかでしょう。希望的観測かもしれませんが。

――第9に限らずソリストはいいとしても大人数の合唱を伴う作品については、飛沫等、依然、クリアしなくてはいけない問題が残されているのではないでしょうか?

N その通りですね。合唱については慎重にならざるを得ない面があります。もう少し社会全体の流れや、検証のデータ、他の楽団や合唱団の動向も見極めた上で判断する必要があります。第9公演の可否も判断の時期が近づいてきていますね。

――収容人数を減らしての公演となると収入面でも大きな影響が出ると思いますが、公演1回あたり通常に比べてどのくらいの減収が見込まれますか?

N 収容人数を減らせば当然、チケット収入は減り、チケット価格も全体的に下げているので影響はありますが、実際、9月公演をすべて終えてみないと確かな数字は分かりません。ただ、海外アーティストの招へいが行えない等での経費減もあるので、軽々には言えませんが収支という面でいうとそこまで甚大な影響が出ることはないのではないか、と見ています。

――最後にN響のファンへのメッセージをお願いします。

N 定期公演中止は本当に苦渋の決断でしたが、とはいえこれに代わる公演も1回1回、定期公演と変わらぬ情熱を傾けて楽員も事務局も臨んでいきますので、ぜひ、足を運んでください。私たちもこの機会でしかできない作品、小編成ならではの曲を模索し工夫を凝らしていきますので、今でしか味わえないN響を楽しんでいただければ、と思います。

公演データ

「NHK交響楽団10月公演」

指揮:鈴木 雅明

◎10月17日(土)18:00 、18日(日) NHKホール

ハイドン:交響曲 第101番 ニ長調 Hob. I-101「時計」

モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K. 543

◎10月22日(木)19:00、23日(金)19:00 東京芸術劇場コンサートホール

サクソフォーン:須川展也

武満徹:デイ・シグナル

武満徹:ガーデン・レイン

武満徹:ナイト・シグナル

ラーション:サクソフォーン協奏曲 作品14

ベルワルド:交響曲 第4番 変ホ長調「ナイーヴ」

◎10月28日(水)19:00、29日(木)19:00 サントリーホール

シューベルト:交響曲 第2番 変ロ長調 D. 125

シューベルト:交響曲 第4番 ハ短調 D. 417「悲劇的」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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