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アンコール

読売日本交響楽団の9月の公演から

9月3日の読響アンサンブル・シリーズより (C) 読売日本交響楽団

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【第635回 名曲シリーズ】

 読売日本交響楽団による9月の演奏会第1弾は今年80歳を迎えた同団特別客演指揮者の小林研一郎の指揮、若手実力チェリスト・宮田大をソリストに迎えての名曲シリーズ(2日、サントリーホール)でドヴォルザークのチェロ協奏曲とリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」というプログラム。

 使用が認められた座席はほぼ埋まっていたが、それでもサントリーホールの定員約2000人の半分に満たない。コロナ禍が長期化し各オーケストラの経営も厳しい状況に直面しているであろうことがうかがえる。

 この日も奏者間の間隔を保つために弦楽器は12型の小ぶりな編成で譜面台を1人に1台ずつとすることで縦横のスペースをしっかり確保。プレーヤーの入退場時はマスクを着用するなど感染防止対策が徹底されていた。コンサートマスターの日下紗矢子以下、団員がステージに登場すると客席から拍手が起こる。普段の在京オーケストラの公演では見られない光景であるが、観客・聴衆もそれだけ演奏会の再開を待ちわび、歓迎していることの表れであろう。ちなみに読響は通常、全団員が着席し終えた後、おもむろにコンマスが入場してくるスタイルをとっているが、この日の日下のように他の団員と一緒に入場してくる方が今の時節に合っているように思える。(理由を記すと長くなるので、それはまた別の機会に)

9月2日の公演でタクトを執った小林=写真は7月21日、サントリーホールでの公演 (C)読売日本交響楽団

 さて、ドヴォルザークのチェロ協奏曲では、小林のやや遅めのテンポで情感をたっぷりと歌い込めた演奏に乗って宮田は深い息遣いを感じさせるソロを聴かせてくれた。ソロ・パートの中のちょっとした休符など音がない部分の音楽的意味合いまでも聴き手に伝えようとしているかのような宮田の演奏に彼の成長ぶりが感じられた。

 第3楽章終盤、宮田のチェロにコンマスのソロが絡むところでは、日下が鮮やかな彩りを添えた。約30分にわたってチェロの低音に耳を傾け続けたところにヴァイオリンのソロが加わると音楽全体に輝きが増すような印象を与える箇所である。日下の華やかな音色はドヴォルザークの狙いを見事に具現化するものであった。それは協奏曲のごとくコンマスのソロが何度も現れる後半の「シェエラザード」への聴衆の期待を一層膨らませることにつながった。

 日下はそんな期待に違わず「シェエラザード」でも抜群のテクニックとしなやかな表現で素晴らしいソロを披露した。彼女は読響のコンマスとして2015年にも「シェエラザード」を演奏している(ユーリ・テミルカーノフ指揮)。この時に比べると一層確信を深めたような雰囲気を漂わせているように感じた。

 さらに各パートに目立つソロが多い曲だけに日下だけではなく読響プレーヤーのレベルの高さも際立っていた。例えば「シェラザード」第1曲目、ヴァイオリンのソロに呼応するかのようなチェロのトップ、遠藤真理の独奏も雄弁で、それを受け継いでいく管楽器とともに繰り広げられる音楽的対話は実に生き生きとしていた。

 編成を絞り、客席の収容人数を減らしていることにより奏者ひとりひとりの音がクリアに伝わってくることで、このオーケストラの技術的水準の高さを改めて認識させられる。

 弦楽器の1プルトを見渡しただけでも日下(パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール2位、日本音楽コンクール1位、東京芸術大学首席卒業)を筆頭に、第2ヴァイオリン首席奏者・瀧村依里(日本音楽コンクール1位、東京芸大首席卒業)、ソロ・ヴィオラ鈴木康浩(全日本学生音楽コンクール東京大会高校の部ヴァイオリン部門第1位、日本クラシック音楽コンクール全国大会ヴィオラ部門最高位)、ソロ・チェロの遠藤(プラハの春国際コンクール3位、日本音楽コンクール第1位、東京芸大首席卒業)と国内外のコンクール上位入賞者がズラリと並ぶ。この日は降り番であったコンマスの長原幸太は17歳の時、最年少で日本音楽コンクールの1位に輝いているし、同じく小森谷巧も英国王立音大の演奏家ディプロマを首席で獲得し、複数の国際コンクールで入賞を果たしている。ソリスト顔負けの腕利きプレーヤーがアンサンブルを織りなしているのだからうまいわけだ。20世紀の終わりくらいまではコンクールの上位入賞者はソリストへの道を目指すのが当たり前であったが、今はオーケストラ・プレーヤーに進む音楽家も多くなった。こうした変化が日本のオーケストラのレベルアップにつながっていることをコロナ禍における小編成の演奏によって目の当たりにする思いがした。

【第26回読響アンサンブル・シリーズ 日下紗矢子リーダーによる室内合奏団】

 翌3日、日下は自らがリーダーを務める読響の弦楽アンサンブルの公演をよみうり大手町ホールで開催した。読響弦楽器セクションの主要メンバー19人と同団クリエイティヴ・パートナーの鈴木優人がチェンバロを担当し、ヘンデルの合奏協奏曲ニ長調、ブリテンのシンプル・シンフォニー、パーセルの「アブデラザール組曲」、ブリテンの「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」という凝ったプログラム。日下自身の説明によると英国及び英国に関係の深い作曲家の作品を集めたそうで、特にメインのブリテンの変奏曲は以前、海外で思うような演奏ができなかったため、読響メンバーと〝リベンジ〟を果たしたかったのだという。

フランク・ブリッジの主題による変奏曲を演奏する弦楽アンサンブル。一番左がリーダーの日下 (C) 読売日本交響楽団

 前夜、あれだけのソロを弾いた後にもかかわらず日下のヴァイオリンはこの日もさえわたっていた。テクニックは安定しており、表現の切れ込みもシャープである。また、アンサンブルのメンバーには前夜出演していた奏者も多く、ここでも彼らのキャパシティーに驚かされる。

 ヘンデルとパーセルはヴィブラートをかけないなどピリオド・スタイルの演奏。ブリテンでは逆に起伏に富んだアンサンブルを繰り広げて、近現代の作品にふさわしい先鋭さを感じさせる音楽に仕上げるなど彼らの表現の幅をいかんなく示してくれた。

 日下は同じくコンマスを務めるベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のメンバーともこうした室内アンサンブルを組んで活動しているせいか弾き振りも慣れた様子で、メンバー全体を引っ張っていく姿に余裕すら感じられた。まさに彼女が主役の2日間であったといえよう。

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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