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アンコール

NHK交響楽団の9月公演から

聴衆の拍手に応える指揮者の山田とN響のメンバーら=9月12日・NHKホール 写真提供:NHK交響楽団

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【N響9月公演 NHKホール】

 N響が今月から定期公演に代わる「◎月公演」をスタートさせた。定期で予定されていたNHKホール、サントリーホール、東京芸術劇場の3会場を使い、ロビーなどでの密集を避けるために休憩なしの正味1時間のコンサート。公演再開にあたっての基本方針については、当サイトの短期連載「ウィズ・コロナのオーケストラ」第1回で同団の西川彰一・演奏制作部長が詳しく語っているのでぜひ、ご参照いただきたい。 

 取材したのは再開初日の12日。客席はソーシャルディスタンス確保のために3割から3割5分くらいの収容人数で広いNHKホールがガランとして見える。他の楽団と同じく入館時の検温、手指消毒、チケットのもぎり廃止などの感染対策が十分に施されていた。ステージ上は弦楽器が12型(弦楽器奏者合計40人、通常は16型60人)でプレーヤーのいすの配置をやや広めにし、マスクを装着している弦楽器奏者の姿もあった。

 指揮は予定されていた首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが日本への入国制限が緩和されなかったことにより山田和樹に交代。武満徹の弦楽器のためのレクイエム、モーツァルトの交響曲第29番イ長調、ブラームスのセレナード第2番イ長調の3曲が演奏された。

 武満は山田の発案でパーヴォが考えていた曲目に追加されたのだという。山田はNHK・Eテレのインタビューの中で日本を代表する老舗オケの活動再開にあたって日本の作曲家の作品を取り上げたかったと説明していた。N響弦セクションの重厚で深い響きは新型コロナウイルスによる感染症で命を落とした犠牲者への鎮魂と多大な影響を被った世界中の人々への慰めの調べのように心に染みわたった。

 ところで編成を絞った12型でもN響ならではの重心が低く深い響きが広いホールを満たしたのには驚かされた。それはヴァイオリンがいないブラームスのセレナードで、一層顕著に感じられた。ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス4に管楽器が11人、合計29人という室内楽用のホールで演奏するのにちょうどよい規模の小編成オーケストラが芳醇(ほうじゅん)なハーモニーを紡ぎ出す。これはプレーヤーひとりひとりの技量が高いことはもちろんであるが、伝統の中で培われたN響ならではの演奏スタイルが楽員全員に浸透し実践されていることの表れでもあろう。小編成だからこそ、普段は何気なく聴き逃し、見過ごしてしまっていることがはっきりと伝わってくるのかもしれない。そもそもブラームスのこの作品自体、平常時にはオーケストラのプログラムとして取り上げられる機会は少ないのではないだろうか。コロナ禍でさまざまな困難に見舞われているが、逆にこうした時だからこそ体験できる特別のことと位置付けることができよう。

 モーツァルトは山田の個性が全開となる生命感にあふれた演奏。軽快な音楽運びながら勢いに任せることなく、音楽がフレーズ単位で丁寧に構築され、活気に満ちた流れが形成されていく。客席から見る限り山田とN響との相性は悪くないようで、プレーヤーは彼の指示に時折、微笑を浮かべて応えていたのが印象に残った。

 N響の定期公演は今年2月までに1935回を数える。数多の名指揮者とともに積み重ねてきた伝統の公演を一時的とはいえ中断することは苦渋の選択であっただろうが、現在直面している特別な機会もこのオーケストラの歴史の中に重要な意味を持つ1ページを加えるであろうことが、レギュラー公演再開第1弾のステージから感じ取ることができた。

(宮嶋 極)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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