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アンコール

「せんくら」にかわる「クラシックエール仙台」2日間で15公演を開催

最終公演より、上原彩子(ピアノ)と渡邊一正率いる仙台フィルハーモニー管弦楽団=10月4日、日立システムズホール仙台コンサートホール

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 コロナ禍以降、全国でクラシック音楽の音楽祭が中止になる中、仙台の秋の風物詩として親しまれる「仙台クラシックフェスティバル」も開催を取りやめることになった。昨年の延べ人数で3万7600人もの人々が、120公演をときに地下鉄で移動しつつ複数の会場で楽しんだことを考えると、昨今のさまざまな状況から開催が難しいのだろう。

 しかしせっかく根付いた音楽文化の灯を消さないようにと、ホールでの公演数を15に減らして、これに代わる音楽イベント「クラシックエール仙台」が10月3~4日の2日間で開催された(会場は日立システムズホール仙台)。座席は前後左右で1席空け、プレスは受け付け時に検温と健康チェック表を提出、さらには公演ごとに手指の消毒と検温を行い、大ホールに至ってはトイレに入る前にも消毒を奨励。感染対策の徹底ぶりは、安全と開催を両立させるべく奮闘する、主催者側の熱意の表れにも感じられた。

 なお、ベートーヴェンを中心に構成された全15公演のうち、今回取材したのは9公演。中でも「これは!」と感じた五つの演奏についてリポートしよう。

 まず、ベテラン勢の渡辺玲子(ヴァイオリン)、長谷川陽子(チェロ)、青柳晋(ピアノ)らによるベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」(公演日:3日)と、若手のカルテット・アマービレによる弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」(同:4日)は真っ先に挙げたい。前者は「せんくら」でもおなじみの組み合わせだが、渡辺と長谷川は同質の音色で力強くたっぷりと歌い合い、よく練られ、聴いているこちらも熱を帯びるようなスケールの大きなアンサンブルを展開。ベテランの彼らが全力でぶつかり合い掛け合う渾身(こんしん)の演奏に、情感を揺さぶられるような感覚を覚えた。

渡辺玲子(ヴァイオリン)、長谷川陽子(チェロ)、青柳晋(ピアノ)によるトリオ=10月3日、日立システムズホール仙台コンサートホール

 対するカルテット・アマービレは、篠原悠那と北田千尋(ヴァイオリン)、中惠菜(ヴィオラ)、笹沼樹(チェロ)ら若手奏者による弦楽四重奏だ。彼らは難関、ARDミュンヘン国際音楽コンクールで第3位に入賞しており、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの藤倉大のアルバム「ざわざわ」(2019年リリース)にも参加。さらには今年1月にHakuju Hallで室内楽シリーズを始動しており、高い評価を得ている。今回は3曲を演奏したが、特に「セリオーソ」での息もつかせぬほど緊張感のある演奏は、きわめて高い技術力とアンサンブル力がなければ表現し得ないものだろう。それでいてしなやかさも失わず、がっちりと曲の構成を捉えて、作品の魅力を最大限に引き出していた。またアンコールで奏でたピアソラの「リベルタンゴ」は弓を隅々まで大きく使ってスピード感に満ち、そのダイナミックな演奏に、客席からもひときわ大きな拍手が響いた。筆者が今回ぜひ彼らの演奏を聴きたいと願ったのは、第2ヴァイオリンの北田の演奏を昨年の仙台国際音楽コンクール(1位なし、第4位入賞)で聴いたのがきっかけだった。北田は、本選のメンデルスゾーンの協奏曲で出し切れなかった部分や修正すべき問題点を、翌日のガラコンサートで見事に修正。入賞者の中でもひときわのびのびとオーケストラとのアンサンブルを楽しみ、輝いていた。今回のカルテットでの演奏を聴いて、なるほど、納得である。

カルテット・アマービレの篠原悠那(ヴァイオリン・左)、笹沼樹(チェロ)、中惠菜(ヴィオラ)、北田千尋(ヴァイオリン・手前)=10月4日、日立システムズホール仙台シアターホール

 従来の「せんくら」も非常設・常設にかかわらずアンサンブルの占める割合は大きいが、今年は、デュオ以上の室内楽公演が15公演中8公演を占めた。上記2公演のほかに、「7人のサムライによる七重奏曲」と銘打ったベートーヴェンの七重奏曲、若手とベテランが組み上げた精緻なアンサンブルも忘れ難い。奏者は反田恭平率いるMLMナショナル管弦楽団で活躍する若手の2人、大江馨(ヴァイオリン)と庄司雄大(ホルン)、そして仙台フィルのソロ首席や首席の井野邉大輔(ヴィオラ)、助川龍(コントラバス)、水野一英(ファゴット)、元同フィル首席の原田哲男(チェロ)、NHK交響楽団で首席を務める伊藤圭(クラリネット)。意図したものかはわからないが、大江は他の奏者に比べてヴィブラートが控えめだったように思う。しかしその分、他のベテラン陣の豊かな響きの上でヴァイオリンの旋律がスッと立ち上がり、アンサンブルを引き締めていた。庄司のホルンの音色ものびやかで美しく、7人の「サムライ」ならぬ「名手」のアンサンブルは、非常に聴き応えがあった。

ベートーヴェンの七重奏曲を演奏した(左から)大江馨(ヴァイオリン)、井野邉大輔(ヴィオラ)、原田哲男(チェロ)、助川龍(コントラバス)、庄司雄大(ホルン)、水野一英(ファゴット)、伊藤圭(クラリネット)=10月4日、日立システムズホール仙台コンサートホール

 このほか、津田裕也(ピアノ)によるリサイタルは、ベートーヴェンの後期のソナタ第31番とシューベルトの即興曲を抜粋で演奏。嘆きの様相からフーガを経て光を得たかのようにシューベルトへと続くプログラム構成も素晴らしいが、津田はこの世界観を見事に音で結実させ、ピアニストとしての表現力の高さを存分に聴かせてくれた。

 ただひとつ惜しむらくは、これは演奏とは無関係だが、演奏中に客席後ろや真横で音楽祭ボランティアのカメラマンによるシャッター音や機械音、時計のアラーム音が鳴ってしまうことだった。これらはプレス向けの注意事情では禁止されており、たまたまだったのかもしれないが、津田の演奏がことさら素晴らしかっただけに、残念でならない。

 通常であれば「せんくら」のフィナーレはベートーヴェンの第九から第4楽章で締めくくるのが常だが、大人数が舞台上に集まるリスクに考慮したためか、今年はプレミアムコンサートと題して大江、上原彩子(ピアノ)、川久保賜紀(ヴァイオリン)をソリストに3曲のベートーヴェンの協奏的な作品が演奏された(管弦楽は渡邊一正指揮、仙台フィルハーモニー管弦楽団)。中でも上原による協奏曲5番「皇帝」は、持ち前の圧倒的なテクニックと強靭(きょうじん)な打鍵によるパワフルな音色はもちろん、繊細さとのびやかさで絶妙なコントラストを織りなし大団円にふさわしい演奏。当時飛躍的に発展したピアノでベートーヴェンが追及したであろう楽器の可能性が、いかんなく発揮されたかのような演奏だった。

 主催者の速報値によると、来場者は関連公演も含めて延べ3430人にのぼったそうだ。出場者は仙台フィルのメンバーやコンクールの入賞者、また仙台ゆかりの演奏家を中心に、本公演だけで92人が集った。「クラシックエール」という今回の名称には〝音楽でエールを〟という願いが込められているそうだが、地元に根差した音楽祭がこのコロナ禍で無事に開催できたことは、東北地方のクラシック音楽界にとっても、大きな励みになったに違いない。(正木裕美)

公演データ

【クラシックエール仙台】

10月3日(土)、4日(日)日立システムズホール仙台

https://sencla.com/yell/

※以下記事内で触れた公演の詳細

渡辺玲子(ヴァイオリン)/長谷川陽子(チェロ)/青柳 晋(ピアノ)

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 「スプリング」より第1楽章/チェロ・ソナタ第4番より第1楽章/ピアノ三重奏曲第7番「大公」

津田裕也(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番/シューベルト:即興曲Op.90より第2、3、4番

大江 馨(ヴァイオリン)/井野邉大輔(ヴィオラ)/原田哲男(チェロ)/助川 龍(コントラバス)/伊藤 圭(クラリネット)/水野一英(ファゴット)/庄司雄大(ホルン)

ベートーヴェン:七重奏曲

カルテット・アマービレ(ヴァイオリン:篠原 悠那、北田 千尋、ヴィオラ:中 恵菜、チェロ:笹沼 樹)

モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジークより第1楽章/ハイドン:弦楽四重奏曲 第67番「ひばり」より第1、4楽章/ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」

大江 馨(ヴァイオリン)/上原彩子(ピアノ)/川久保賜紀(ヴァイオリン)/渡邊一正(指揮)/仙台フィルハーモニー管弦楽団

ベートーヴェン:ロマンス 第2番(大江)/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/ヴァイオリン協奏曲(川久保)

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材、CD解説やインタビュー記事の執筆などを行う。

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