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アンコール

小曽根真のピアノ協奏曲「もがみ」 初演の地、山形で16年ぶりに再演

「もがみ」を演奏する小曽根真と山形交響楽団 写真提供:山形交響楽団

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 10月10日、山形市に今年5月13日に開館した山形県総合文化芸術館(やまぎん県民ホール)で「やまがた芸術の森音楽祭2020」が行われ、小曽根真のピアノ協奏曲「もがみ」が初演とその翌年の再演以来、当地ではじつに16年ぶりに再演された。

 小曽根と太田弦率いる山形交響楽団による、この「もがみ」再演は、もとは3月29日に同ホールの開館記念コンサートの目玉として予定されていた。ところがその2日前の27日、リハーサルの最中に公演の中止が決まり、幻の公演と化してしまう。3月は新型コロナウイルスの感染拡大により、東北だけでなく全国各地で演奏会が相次いで中止になり始めたころである。まさかその後ホールで演奏会ができない状況が数カ月続き、さらに日々の日常生活までが不自由な状況に追い込まれるとは、当時誰が想像できようか。およそ半年の月日を経て行われた公演の、終演後のスタンディングオベーションや割れんばかりの拍手は、この公演が当地で待ち望まれていたであろうことを強く印象づけるものだった。

 このピアノ協奏曲「もがみ」は、2003年の「第18回国民文化祭・やまがた2003」の特別プロデューサー、井上ひさしが開会式のために小曽根真に依頼したもの(※)。最上川の船頭らの掛け声に始まる「最上川舟唄」をモチーフに、小曽根自身が訪れた最上川や山形の風景から着想を得ている。通常は「水 はじまり」と題してピアノで始まる第1楽章、厳しい「冬」を描いた第2楽章、そして雪解け水や新しい命の息吹を描いた「春」で構成されるが、今回は、冒頭で「最上川舟唄」原曲が民謡(遠藤憲一)と尺八(高橋兼一)により演奏された。これは今回の公演のために特別に演出されたものだそうで、最上川の舟上から、川を経て季節が移ろいゆく山形の情景へと広がるような音楽的効果をもたらしていた。また原曲が冒頭で示されることで、随所に現れる同曲のモチーフがより関連付いて聞こえ、民謡、ジャズ、そしてクラシックと一見異なる三つの要素がモチーフを通じて違和感なく一つの音楽へ昇華されていた。

 小曽根ならではのジャズの要素は、特に第1楽章や第3楽章のいわゆるカデンツァでふんだんに盛り込まれている。小曽根によると、これらはすべて即興で、リハーサルとはまったく違う音楽を作り上げたのだという。

  「例えばリハーサルでうまくいったからと本番で同じことをしても絶対壊れてしまう。即興は〝柳の下にいつもどじょうはいない〟というのが極意なんですよ」

 また今回の演奏では、第3楽章の合唱に代わってハモンドオルガンが導入された。電気(電子)楽器でありながら暖かな音色が特徴の小型のオルガンである。

  「もともと合唱は市民の方にお願いしようということでしたから、あまり複雑なことはオリジナル(原曲)にも書いていなかったんですね。このコンサートをやるために80人の合唱団を連れてくるというのは非常に難しい。というのは舞台上の配置の問題もありますし、最後の3分間のためだけに皆さんに30分近く待っていただくのも……。代用の楽器としてパイプオルガンを試したことがあるのですが、そうだ、ハモンドオルガンがあった!と思ってね。ハモンドオルガンは僕のルーツの楽器なのです。父親(※小曽根実氏)がハモンドオルガンを広げた人と言っても良いくらいの人ですから」

 ピアノとオーケストラは掛け合いを越えて緻密に絡み合い、あるいは一体となり第3楽章のクライマックスを迎えるが、オーケストラの集中力と気迫はすさまじいものがあった。弦は見たところ12型に近く、管楽器は3管~4管編成を軸にしていただろうか、舞台上はぎっしりといった感で最近では大きな編成である。それでも大味にならずに小曽根の即興的な要素や微細な表現に機微敏(ざと)く応じており、技術面の高さはもとよりその熱意が聴き手にもダイレクトに伝わる演奏だった。

公演前半、大河ドラマのオープニング作品とともに舞台を盛り上げる「やまがた愛の武将隊」 写真提供:山形交響楽団

 なお公演の前半では、「風林火山」や「天地人」など山形に縁のあるNHK大河ドラマのオープニングテーマや、伊福部昭のSF交響ファンタジー第1番が演奏された。大河ドラマのテーマ曲では、特別ゲストとして甲冑(かっちゅう)を身につけた「やまがた愛の武将隊」から最上義光、上杉景勝、直江兼続らが登場するなど、地元色あふれる演出も。「もがみ」をはじめ、ゆかりの音楽で組まれたこれらのプログラムは、山形と映像や音楽文化の意外なつながりを楽しむ好機にもなった。(正木裕美)

公演データ

【やまがた芸術の森音楽祭2020「山形ゆかりの音楽と"もがみ"」】

10月10日14:00 やまぎん県民ホール

ピアノ:小曽根 真

チェロ:矢口里菜子(山響首席)

琵琶:久保田晶子

指揮:太田 弦

管弦楽:山形交響楽団

特別出演:やまがた愛の武将隊

ナビゲーター:佐藤博子

~NHK大河ドラマオープニングテーマ集~

(大島ミチル:「天地人」/池辺晋一郎:「独眼竜政宗」/千住 明:「風林火山」ほか)

久石 譲:おくりびと

伊福部 昭:SF交響ファンタジー第1番

小曽根 真:ピアノ協奏曲「もがみ」

※本文中の作品の成立については柴田克彦氏の解説を一部参考にさせて頂きました。

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材、CD解説やインタビュー記事の執筆などを行う。

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