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アンコール

NHK交響楽団10月公演~鈴木雅明とともに古楽から近現代曲までを披露

鈴木雅明とNHK交響楽団=10月28日、サントリーホール 提供:NHK交響楽団

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 NHK交響楽団の定期公演に代わる「10月公演」は3プログラムともにわが国における古楽演奏の第一人者である鈴木雅明が指揮を担当。ハイドン、モーツァルト、シューベルトから武満徹、スウェーデンで近現代に活躍したラーションとベルワルドの作品を披露した。取材した18日(NHKホール)、28日(サントリーホール)の公演について報告する。

(宮嶋 極)

 自らが結成したバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)との活動などを通じて世界的にも注目を集める鈴木だけに、ハイドンの交響曲第101番とモーツァルトの交響曲第39番を取り上げた17、18日はその持ち味を発揮しやすい公演であった。ピリオド(時代)と呼ばれる作曲家在世当時の楽器や演奏法を再現、尊重するスタイルは21世紀の今、モダン・オーケストラでも古典派作品でその要素を取り入れた演奏が日常的に行われるようになった。N響では2011年4月からロジャー・ノリントンと行ったベートーヴェン・シリーズをはじめ、クリストファー・ホグウッド、鈴木と関係の深いトン・コープマンといったこの分野における世界的大家と共演を重ね高い評価を得ている。加えて首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ、桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットも古典派作品を演奏する際はピリオドの要素を取り入れるスタイルを取っており、そうした意味では日本のオーケストラの中でN響はこうしたスタイルに最も先進的に取り組み、成果を挙げている団体と位置付けることができる。それだけに鈴木との初共演で、どのような演奏が行われるのか、興味深かった。

 実際の演奏はというと、意外にもピリオド・スタイルを隅々にまで徹底したものではなく、その要素の多くを取り入れてはいるものの伝統的な古典派作品演奏の特徴、例えばモーツァルトの優美さや柔らかさなどを残しつつ両スタイルの美点をうまく組み合わせた折衷型のような印象を受けた。モーツァルトの39番は2006年11月のノリントンとの演奏に比べると、全体的に温和な感じで、アーティキュレーション(音と音のつなげ方)にも少し違いがみられた。また、弦楽器(特にチェロ)がヴィブラートをかける箇所が多く、ほぼ完全ノー・ヴィブラートであったノリントンやコープマンとの演奏に比べると、ヴィブラートをかけたふくよかな響きが何度も現れることに少なからず驚かされた。もちろん、ヴィブラートやアーティキュレーションの見直しだけがピリオド演奏の要点ではないわけで、古典派作品演奏におけるこうしたスタイルの反映はそのベースの部分でまだ、研究や試行錯誤の途上にあることをうかがい知ることができた。

 弦楽器の編成は第1ヴァイオリンから12、12、8、6、4で対向配置が取られ、管楽器は譜面の指定通りの数、ティンパニは口径の小さなバロック型の楽器を使用していた。

10月17日、NHKホール公演より 提供:NHK交響楽団

 一方、シューベルトの交響曲第2番、第4番を取り上げた28日の公演は、前述した鈴木の穏やかなアプローチがより効果を発揮しているように思えた。古典派からロマン派へと移行していく時期にあたる作品だけにピリオドの要素の反映具合が程よく感じられ、作品の構造が明快に示された一方で、シューベルトが旋律に込めた情感が、美しく表現されていた。客席の反応もこの公演の方が熱く、楽員が退場しても拍手が鳴りやまず、鈴木がステージに呼び戻されていた。オーケストラの編成は17、18日と同じで、いずれもゲスト・コンサートマスターの白井圭がコンマスを務めた。

 そしてハイドン、シューベルトを取り上げた今回のプログラムについても触れておきたい。N響では近年定期公演のプログラムが多様化し、近現代の作品を中心に20世紀にはほとんど演奏されることのなかった曲が頻繁に取り上げられるようになった。未知の作品の魅力を知ることができるのは歓迎すべきことではあるが、そのぶんハイドンやシューベルトを聴ける機会が減ってしまった感も否めない。かつてはヴォルフガング・サヴァリッシュがオール・シューベルトの公演も行ったりしたが、N響だけではなく他のオケも取り上げる機会が減っている。ちなみに調べてみるとN響定期公演18/19シーズンではハイドンを取り上げたのは2回、シューベルト1回、同17/18シーズンではハイドン1回、シューベルト0、同16/17シーズンはハイドン0、シューベルト2(いずれも交響曲)であった。これは多少の違いがあるが他のオケでも状況はさほど変わらない。ところが今はステージ上での密を避ける意味から大編成の曲を演奏しにくいため各オケともにハイドンやシューベルトらの小編成の作品の演奏機会が増えている。コロナ禍の今、これらの曲を一流の生演奏で楽しむことができる良い機会であることを実感した。

公演データ

【NHK交響楽団10月公演17、18日 NHKホール】

指揮:鈴木雅明

ハイドン:交響曲第101番ニ長調Hob.I-101「時計」

モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調K.543

【NHK交響楽団10月公演22、23日 東京芸術劇場】

指揮:鈴木雅明

サクソフォーン:須川展也

武満 徹:デイ・シグナル

武満 徹:ガーデン・レイン

武満 徹:ナイト・シグナル

ラーション:サクソフォーン協奏曲 作品14

ベルワルド:交響曲第4番変ホ長調「ナイーヴ」

【NHK交響楽団10月公演28、29日 サントリーホール】

指揮:鈴木雅明

シューベルト:交響曲第2番変ロ長調D.125

シューベルト:交響曲第4番ハ短調D.417「悲劇的」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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