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アンコール

ウィーン・フィル ウィーク イン ジャパン2020

サントリーホールで追加公演を含む5公演とマスタークラスほかを行ったゲルギエフとウィーン・フィル (C)サントリーホール

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 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2020」(主催サントリーホール)が11月14日までにすべての予定をこなし、無事終了した。新型コロナウイルスの感染が拡大した今年春以降、海外オーケストラが来日公演を行ったのは初めて。ウィーン・フィルにとっても今年3月のドイツ以来の海外公演だけに、その成功は世界中の音楽関係者を勇気づけることになったであろうし、今後の演奏会やオーケストラのツアーのあり方に一定の方向性を示した格好だ。

 23回目となる今年の「ウィーン・フィル ウィーク」、指揮者はロシアの名匠ヴァレリー(主催者表記ワレリー)・ゲルギエフで、ソリストに人気ピアニスト、デニス・マツーエフ、日本の大御所チェリスト、堤剛(サントリーホール館長)を迎え、ロシアものからとドイツ、フランス作品と多彩なプログラムが披露された。取材した9日のオープニング・スペシャル・プログラムと今回唯一ドイツものを取り上げた13日の公演について報告する。

 両公演で一番印象に残ったのは13日に演奏されたリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」である。高音が際立つウィーン・フィル独特のサウンドはこの作曲家の精緻なオーケストレーションに一層の輝きをもたらす。この日もウィーン・フィルでしか聴くことができない華やかながらもどこか陰りを感じさせる独特の響きが音楽に一層の雄弁さをもたらしていた。

 「英雄の生涯」といえば、コンサートマスターに難易度の高い長大なソロがあることでも知られる。コンマスの腕の見せどころであり、そのオケの技術的、音楽的水準を端的に示すものでもあることから海外オケの来日公演でこの曲が取り上げられることも多い。今回、そのソロを弾いたのはウィーン・フィル初の女性コンマス、アルベナ・ダナイローヴァである。音程が外れやすい速いパッセージにおける高音への跳躍も難なくこなすなど抜群のテクニックとしなやかな表現で実に見事なソロを聴かせてくれた。終演後、彼女はゲルギエフに促されて何度も立たされ万雷の拍手を浴びていた。 

 1曲目、ベートーヴェンの序曲「コリオラン」はやや遅めのテンポでひとつひとつのフレーズを力強いタッチで紡いでいくどっしりとした演奏。公演全体のアンコールはヨハン・シュトラウス2世の「皇帝円舞曲」で、ウィーン・フィルの美点がいかんなく発揮されるコンサートとなり、オーケストラが退場しても拍手が鳴りやまず、ゲルギエフが舞台に呼び戻される盛り上がりであった。

2011年よりウィーン・フィルのコンサートマスターを務めるダナイローヴァ(右上)も来日 (C)サントリーホール

 一方、初日のスペシャル・プログラムはゲルギエフ得意のオール・ロシアもの。マツーエフをソリストに演奏されたプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番はこのオケとの共演による〝化学反応〟なのか、鋭い切れ込みを感じさせる音楽運びの中に優美さを感じさせる秀演。マツーエフのダイナミックな演奏ぶりは相変わらずで第4楽章のラストでは立ち上がって最強音を響かせ聴衆を圧倒した。

 堤の独奏によるチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」はプロコフィエフから一転、穏やかで温かみを感じさせる音楽に仕上げられていた。

 メインのストラヴィンスキーの「火の鳥」1910年版全曲は、荒々しさと優美さが交互に現れるような面白い演奏。ウィーン・フィルならではの管・打楽器のサウンドが、この作品に別の角度から光を当てるような効果をもたらした。アンコールはヨハン・シュトラウス2世のワルツ「ウィーン気質」。第1ワルツが始まった瞬間、あのウィーン・フィルが目の前で本当に演奏しているのだということが実感させられ、何ともいえない感慨を覚えた。

初日にソリストを務め、ダイナミックな響きで魅了したマツーエフ (C)サントリーホール

 今回の弦楽器編成は両公演とも第1ヴァイオリンから順に15・13・9・10・8という変則的なものであった。(通常は16・14・12・10・8)これはもちろん、コロナ禍の影響で来日メンバーの調整が万全に行われる状態でなかったことが原因で、関係者によるとヴァイオリン・セクションからヴィオラ・パートの応援に回った楽員もいたのだという。さまざまな困難を乗り越えての来日実現だったことはこうしたところにも垣間見ることができた。

 とにかくコロナ禍の困難な状況にもかかわらず、あのウィーン・フィルが本当に来日し、このオケならではの演奏が聴けたことは何よりであった。楽団はもとより主催のサントリーホール関係者の苦労と努力に賛辞を贈りたい。

(宮嶋 極)

  

公演データ

【ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2020】 

指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ

ピアノ:デニス・マツーエフ

チェロ:堤 剛

※会場はいずれもサントリーホール

◎11月9日(月)19:00

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番ト短調Op.16

チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲イ長調Op.33

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(1910年版、全曲)

◎11月10日(火)19:00

プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」Op.64(抜粋)

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番ト短調Op.16

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」

◎11月12日(水)19:00 追加公演

ドビュッシー:「牧神の午後への前奏曲」

ドビュッシー:交響詩「海」

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(1910年版、全曲)

◎11月13日(金)19:00

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」Op.62

チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲イ長調Op.33

リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40

◎11月14日(土)16:00

ドビュッシー:「牧神の午後への前奏曲」

ドビュッシー:交響詩「海」

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(1910年版、全曲)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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