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アンコール

N響12月公演&都響スペシャル

ポテンシャル全開の熱演で聴き手を魅了した井上道義とN響=12月16日、サントリーホール 写真提供:NHK交響楽団

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 井上道義と秋山和慶という2人のベテラン指揮者が登場したNHK交響楽団の「12月公演」から16日にサントリーホールで行われた井上指揮による演奏会と、小泉和裕が登場した東京都交響楽団の「都響スペシャル 2020」(12月17日、東京文化会館)について報告する。(宮嶋 極)

【NHK交響楽団12月公演】

 取材した16日の公演はプロコフィエフのバレエ音楽「シンデレラ」Op.87の抜粋とチャイコフスキーの交響曲第4番ヘ短調Op.36というプログラム。このところ井上とN響の相性はとても良いようで、ショスタコーヴィチの交響曲第11番などを指揮した昨年10月の定期公演が聴衆による投票で「最も心に残ったN響コンサート2019」に選出されている。この日も終演後、オーケストラ・メンバーが退場しても拍手は鳴りやまず、井上がステージに呼び戻されるほど、聴衆の心を動かす熱演が繰り広げられた。

 その身ぶりが一見トリッキーにも映る井上の指揮だが、つぶさに観察するとロシア音楽ならではの旋律を深い呼吸感をもって歌わせるのと並行して対旋律や内声部にもこまやかに気を配って指示を出していることが分かる。そうした姿勢がN響のキャラクターともうまくマッチするのであろう、とりわけチャイコフスキーでは作品に内在するメランコリックな情感を深く掘り下げた表現が説得力をもって聴く者に迫ってきた。

 プロコフィエフの「シンデレラ」は創作当時(1941~44年)、第二次世界大戦のまっただ中という時代背景もあるのだろうか、童話を題材にしたバレエ音楽にしてはシニカルな雰囲気をたたえた作品である。井上とN響は時に切れ込みの鋭い演奏で、この作品の面白さを浮き彫りにして聴かせてくれた。

 密を避ける感染防止対策の一環でこの日も弦楽器の編成は第1ヴァイオリンから12・10・8・6・6という小さなもの。通常の16型に比べて18人も少ないのだが音量の不足や管・打楽器に対してアンバランスを感じることはなかった。それどころかチャイコフスキーの第4楽章コーダではホールの隅々にまで豊かな響きがこだまするなど、N響のポテンシャルの高さを実感させられる演奏であった。指揮者とうまくかみ合った時のN響はよく鳴る。その意味で井上はN響の高い能力をうまく引き出すことのできるマエストロのひとりなのかもしれない。なお、コンサートマスターは第1コンマスの篠崎史紀が務めた。

【都響スペシャル 2020(12/17)】

 オーケストラの能力がフルに発揮される相性という点では小泉和裕が指揮台に立った時の東京都交響楽団も特筆すべきものがある。こちらも終演後、オケ・メンバーがステージを降りても拍手が鳴りやまず、小泉はコンサートマスターの山本友重を伴って再登場し、聴衆の熱い〝賛辞〟に応えていた。コロナ禍の特殊な状況であるこの日だけでなく、通常時においても小泉指揮・都響の演奏会でこうした光景が展開されることは多い。

都響ならではのサウンドを響かせ、聴衆の賛辞を浴びた小泉とオーケストラ=12月17日、東京文化会館 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

 当夜のプログラムはブラームスのピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15とベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」の2曲。オケの弦編成は久しぶりの16型。都響ならではの厚く温かみを感じさせるサウンドが全開となり、ブラームスのソリスト、ゲルハルト・オピッツの正攻法ともいえるピアノに雄弁に呼応し、派手さこそないものの、滋味にあふれた聴き応えのある演奏に仕上がっていた。

 後半のベートーヴェンも16型。モダン・オケにおいてもピリオド(時代)奏法の要素を取り入れるスタイルが全盛の昨今、第5番を16型で演奏するのは珍しい。それでも小泉と都響は古さを感じさせることなく、推進力と力感を兼ね備えた演奏で骨太のベートーヴェン像を見事に描き出してみせた。時代考証を基にして演奏スタイルを見直し新たな境地を開拓していくことは確かに興味深いテーマである。その一方で演奏者たちの気迫やそれを導き出す指揮者の解釈への共感が、200年以上前に作られた音楽に新鮮な息吹をもたらすことをこの日の演奏が示していたように感じた。

公演データ

【NHK交響楽団11月公演】

指揮:井上道義

12月16日(水)、17日(木)19:00 サントリーホール

プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」Op.87(抜粋)

チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調Op.36

【都響スペシャル2020(12/17)】

12月17日(木)19:00 東京文化会館

指揮:小泉和裕

ピアノ:ゲルハルト・オピッツ

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15

ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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