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アンコール

若手指揮者のカーチュン・ウォン、仙台フィルの特別公演へ客演

カーチュン・ウォンは来シーズンの仙台フィルの9月定期公演でラフマニノフの交響曲第2番ほかを振ることが決まっている

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 仙台フィルハーモニー管弦楽団が12月19日、「レガシー」と題して例年の「第九」公演に代わる特別演奏会を開催した(東京エレクトロンホール宮城)。プログラムは前半にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ニ長調、後半にはワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第1幕への前奏曲と「タンホイザー」序曲。ヴァイオリンに宮城県出身の郷古廉、指揮は病気のため出演できなくなった飯守泰次郎に代わってカーチュン・ウォンが出演し、今年の締めくくりにふさわしい快演を響かせた。

 1986年、シンガポール生まれのカーチュン・ウォンは、2016年にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝して以来海外で活躍の場を広げている。2018年よりニュルンベルク交響楽団の首席指揮者を務めるほか、日本でもすでに東京交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団や兵庫芸術文化センター管弦楽団ほかと共演してきた。残念ながらコロナ禍で中止になってしまったが、今年3月の日本フィルハーモニー管弦楽団の定期や読売日本交響楽団の名曲シリーズへの出演が決まっていたほか、来シーズンの仙台フィルの定期公演への出演が予定されていることからも、国内でも期待と熱い視線が向けられているのがわかる。

 その期待にふさわしく、今回の初の仙台フィルとの公演は、私見ではコロナ禍以降の仙台フィルの演奏会で一番の熱演と言えるものだった。ワーグナーの前奏曲と序曲では、モティーフを丁寧に紡いでその連続性や関連性を浮かび上がらせるだけでなく、対旋律を丁寧に歌わせることで各声部の絡み合いや調性の移り変わりを表出させる。音量や勢いに任せて情感に訴えかけようとせず、むしろときにそれらを抑制しつつ、細かいデュナーミクと丁寧な旋律の扱いを重ねて音楽の大きなうねりを作り上げていた。また若手の指揮者が仙台フィルに客演する際に時折感じられる何か遠慮や距離感のようなものは感じられず、オーケストラも高い集中力で機微良く応え、スッと旋律が立つような知的な音楽があふれ出ていた。コロナ禍以後、同フィルとしては初めてほぼ100パーセントの客席を使用しての公演だったとはいえ、聴衆の拍手はひときわ大きく、また何より演奏後の楽員たちの表情がその充実度を物語っていたように思う。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でソリストを務めた郷古廉。郷古もまた2022年2月の同フィル定期に出演予定

 また、ベートーヴェンの協奏曲でソロを務めた郷古廉も、抒情性にあふれる作品を持ち前の豊かな音色とともに知的に作り上げ、みずからの音楽性を存分に発揮していた。特に第2楽章や第3楽章は変奏曲にロンド形式と続き、同じ主題が繰り返されるわけだが、音色やフレーズの終わりまで神経を使った細やかなデュナーミクによって常に音楽が新鮮なものに感じられた。またその変化を聴き逃すまいとホール全体が音色に集中していたのも印象深い。郷古は弓の返しなど感じられぬ滑らかなレガート、かつ豊かで柔らかな音色を奏でることができる稀有(けう)なヴァイオリニストだが、その美点がベートーヴェンのこの作品で一層際立っていたように思う。加えてカデンツァにも郷古らしさが表れ、第1楽章ではブゾーニのカデンツァ、第2、3楽章では和音の進行が特徴的な自作のカデンツァを採用。ベートーヴェンの旋律とは対照的な和声進行や技巧的な要素をはさむことで、作品の本質を表現すべき部分と演奏家に委ねられた部分を緩急巧みに弾き分けていた。

 ウォンと郷古は、東京交響楽団との公演でも共演しているが、音楽づくりの点で共通した部分があるように思う。彼らのように〝若い〟世代でも、音楽の解釈や音色の追求によって、若手ならではのみずみずしさから一歩進んだ音楽をオーケストラとともにつくることができる。パワーや虚飾から離れた知的な音楽をこの日聴いて、その思いを一層強くし、うれしくなった。(正木裕美)

公演データ

【仙台フィルハーモニー管弦楽団 名曲コレクション「レガシー」】

12月19日(土)15:00 東京エレクトロンホール宮城(仙台市)

指揮:カーチュン・ウォン

ヴァイオリン:郷古 廉

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲二長調Op.61

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材、CD解説やインタビュー記事の執筆などを行う。

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