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アンコール

コロナ禍におけるブルックナーの交響曲~読響11月&12月の公演から

1年3カ月ぶりに読響とのステージに臨み、終演後聴き手の歓迎を受けるセバスティアン・ヴァイグレ (C)読売日本交響楽団=12月9日、サントリーホール

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 読売日本交響楽団が昨年末、ブルックナーの交響曲を相次いで取り上げた。11月の「土曜・日曜マチネ」(11月28・29日、東京芸術劇場コンサートホール)で井上道義の指揮による第7番と、常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレが登場した「12月定期演奏会」(9日、サントリーホール)での第6番である。コロナ禍以降において在京オーケストラが重厚長大なブルックナーの作品を演奏したのは初めて。新しい日常における後期ロマン派作品演奏の指標のひとつになりそうだ。両公演の模様を報告する。

(宮嶋 極)

 

 

【読売日本交響楽団11月土曜・日曜マチネ】

 取材したのは11月29日の公演。前半に16歳の若手チェリスト北村陽を迎えてハイドンのチェロ協奏曲第1番が演奏された。コロナ禍に見舞われた昨年、海外アーティストの来日が困難になったこともあり、日本人の若手音楽家の素晴らしい才能に出会う機会が多かった。北村もそのひとりである。2017年には若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクールで優勝するなど早くからその才能を開花させているが、この若さでプロのオーケストラを相手に作品に対する自らの思いを伸びやかに表現する様は実に見事であった。芸劇&読響ジュニア・アンサンブル・アカデミーの修了生ということもあり、オケも温かいまなざしで若きチェリストのソロを支えていた。

 メインのブルックナー7番である。井上といえばショスタコーヴィチのスペシャリスト的なイメージが先行するが、ここ数年の好調ぶりを見るにつけその対局にあるようなブルックナーの作品に対してどのようなアプローチで臨むのか興味深かった。19年7月に同じく読響と第8番を演奏し成功を収めたことは聞いていたが、実演に接してみると少々驚かされた。終始〝静的〟な雰囲気を崩さず、ゆっくりとしたテンポでひとつひとつの表現を掘り下げていく。これまでの井上の〝動的〟な音楽作りから異なるアプローチに彼の芸術家としての深化がうかがえた。

 弦楽器の編成は14型。物理的な音量に不足はないのだが、金管楽器が最強音で鳴り続けるのを弦楽器がトレモロで支える箇所で幾分その質感に本来の16型との差異が感じられた。弦5パートで合計10人も少ないのだから仕方がないのだが、これもコロナ禍におけるブルックナー演奏に突き付けられた課題なのかもしれない。とはいえ、読響の透明感あふれる響きは美しく、井上が目指す荘厳な雰囲気は十分表現されていた。

井上道義と読響。両者は19年7月にもブルックナーの8番で好評を博している (C)読売日本交響楽団

【読売日本交響楽団12月定期演奏会】

 常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレが2週間の経過観察を経て1年3カ月ぶりに臨んだ読響とのステージ。ヴァイグレが姿を現すと客席からは歓迎の意を込めて盛大な拍手が沸き起こった。

 ブルックナーに先立って岡田奏の独奏でモーツァルトのピアノ協奏曲第25番が演奏された。弦楽器は10型の小編成でヴィブラートを最小限にし、バロック・ティンパニを使用するなど、ピリオド(時代)奏法の要素を取り入れたスタイル。引き締まったアンサンブルが作品の骨格をくっきりと浮かび上がらせ、みずみずしいモーツァルト像が描き出された。

 ブルックナーの6番は弦楽器12型の編成。小編成を逆手に取るかのようなヴァイグレの音作りが面白かった。それはこの作曲家ならではのパイプ・オルガンを連想させる厚い響きを目指すのではなく、木管楽器の内声部がはっきりと聞き取れるほど見通しのよいものであった。特に繊細な弱音が際立っており、その対比で最強音も刺激的に響いた。前述の7番に比べて6番はブラスのフォルティシモを弦のトレモロが支えるような箇所が少ないこともあって音質の面での過不足は一切感じなかった。強弱、緩急のメリハリが効いた現代感覚に富んだブルックナーはヴァイグレの才能を感じさせてくれる好演であった。オーケストラ・メンバーが退場後も拍手は鳴りやまず、ヴァイグレがステージに呼び戻されていた。なお、両公演ともコンサートマスターは長原幸太が務めた。

公演データ

【読売日本交響楽団11月土曜・日曜マチネ】

11月28日(土)14:00 、29日(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:井上 道義

チェロ:北村 陽

ハイドン:チェロ協奏曲第1番ハ長調

ブルックナー:交響曲第7番ホ長調WAB.107(ノヴァーク版)

【読売日本交響楽団12月定期演奏会】

12月9日(水)19:00 サントリーホール

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

ピアノ:岡田 奏

モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503

ブルックナー:交響曲第6番イ長調WAB.106

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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