/245止 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画
◇おわりに(3)「こうして憎い敵だったアメリカにも旅行できたし、エリーさんと何度も話ができた。みんなタケシくんのお陰よ。おかしなことをいうようだけど、今もこの…
石田衣良さんの連載小説「炎のなかへ」は、太平洋戦争末期の1945年3月10日、東京大空襲のさなか、家族を救おうと奮闘する少年の物語です。石田さんが初めて戦争に取り組むファンタジー小説。挿絵は「ドラゴンヘッド」などで知られる漫画家、望月ミネタロウさんです。
◇おわりに(3)「こうして憎い敵だったアメリカにも旅行できたし、エリーさんと何度も話ができた。みんなタケシくんのお陰よ。おかしなことをいうようだけど、今もこの…
◇おわりに(2)「戦後はそれはたいへんだった。とにかく貧乏で、たべものが足りなくてねえ。でも、うちのお父さんが帰って、よっさんも元気だったし、またメリヤス編み…
◇おわりに(1) シアトル・マリナーズの野球帽をかぶったエドワードが、テーブルに身を乗りだしてきた。待ち切れないようにいう。「それでタケシさんは、どうなったん…
◇その夜(77) タケシはコンクリートの縁に頭をもたせかけ、寝ころぶようにぬるい水に浸(つ)かった。胸まであたたかな水がやってくる。国民服は濡(ぬ)れてごわご…
◇その夜(76) よっさんが温泉でも浸(つ)かるように、頭のうえに絞った手拭いを載せていった。「なんにしても、こうしてみんな助かった。タケシ坊ちゃんのお陰です…
◇その夜(75) タケシは噴水の縁にもたれうとうとした。真夜中に空襲警報で叩(たた)き起こされ、ずっと駆け続けだった。もう朝が近いはずだが一睡もしていない。直…
◇その夜(74) 直邦が走ってくると、タケシの手を引いていった。「錦糸公園もみんな焼けちゃったね。だけど、時田の家のみんなは元気だ。やったね、タケシ兄ちゃん」…
◇その夜(73)「もうすこしだ、公園にいこう」 タケシはふらつきながら全力で立ちあがった。右肩を登美子が支えてくれる。「またタケシくんに助けられちゃったね」 …
◇その夜(72) タケシは腹の底から叫んだ。「登美ちゃん、逃げて」 つぎの瞬間さっきまで登美子が立っていた歩道には、燃える家の残骸が炎をあげるだけだった。輻射…
◇その夜(71)「どうしてなんだよー」 ミヤの頭を抱え、タケシが吠(ほ)えるように泣いていると、肩にそっと手が乗せられた。熱い目で見あげる。防空頭巾を煤(すす…
◇その夜(70) 交差点を渡ると駅前の広場だった。バスの停留所の看板が焼け焦げ、まだくすぶっている電柱から垂れさがった電線に火花が散っている。淡い煙のなかをぼ…
◇その夜(69)「北のほうへ上りましょう」 タケシは防空壕(ごう)からまっすぐに噴きあがる炎から目を引きはがし歩き始めた。B29の飛んでいない空は大火災の黒煙…
◇その夜(68) 時田家の七人はひとりも欠けることなく、なんとか四ツ目通りまでたどりついた。錦糸町駅の脇を抜けて、南北に押上と洲崎をむすぶ幹線道路である。片側…
◇その夜(67)「未来なんてわかるはずがない」 タケシは唇を噛(か)み締めた。ほんとうに時田家の家族を守れる未来がわかるのなら、苦労はなかった。自分の死によっ…
◇その夜(66) 再び塀が切れるところまで移動したとき、重い風切り音が頭上でうなりをあげた。爆音があたりを満たす直前、タケシは両耳を手でふさぎ目を閉じた。口は…
◇その夜(65) タケシはまだ新しい死の苦痛に身体(からだ)を震わせながら、先手をとっていった。「父は確かにアメリカ人です。息子さんがサイパンで戦死されたのも…
◇その夜(64) 時田家の人々のときのように避難民に爆弾の落下を警告すれば、この人たちを死の淵(ふち)から救えるかもしれない。そのためには、あの苦しく恐ろしい…
◇その夜(63) 国民学校の塀は長かった。視線を伏せて疲れた足を引きずるタケシには耐えがたい時間だった。先ほどのやりとりがきこえたのだろう。好奇と憐憫(れんび…
◇その夜(62) 直邦が両手をグーの形に握って叫んだ。「タケシ兄ちゃんはアメ公なんかじゃない。立派な日本人だ。命をかけて、みんなを守ってくれたんだ」 いきりた…
◇その夜(61)「このあたりは江東橋一丁目でやすね」 千葉街道をはさんだ錦糸町駅前の繁華街の一角で、この先をすこしいくと国民学校がある。タケシたちはまだ燃えて…
◇その夜(60) 最初にひさしを飛びだしたのはタケシと登美子だった。足を引きずる千寿子の両手を引いている。伯母の指先は冷たかった。「お先に」 意外な身の軽さで…
◇その夜(59) 交差点は横倒しの煙突になった。今は炎の通路である。火勢は強くなったり、弱くなったりした。ときに黄色い炎が絶えて、白い煙や黒い煙に替わることが…
◇その夜(58) 五メートルほど先の左手に建つ立派な写真館が、タケシの目に飛びこんできた。鉄筋コンクリート造りで頑丈そうだ。両開きのガラス扉の取っ手は真鍮(し…
◇その夜(57)「タケシ坊ちゃん、なにをなさるんで」 よっさんが驚いて叫ぶ声が背中に飛んだ。無理もない、いきなり炎の壁に走りこんだのだ。こつんと鉄兜(てつかぶ…
◇その夜(56) タケシは腹の底から叫んだ。母はゆっくりと棒のように道に倒れた。左腕を失(な)くした登美子の腕からは警防団の手押しポンプの勢いで血が噴きだして…
◇その夜(55) 最初と最後なら、交差点を渡ってもなんとか命は助かる。けれど炎の盛りなら自分たちから死地に飛びこむことになる。タケシは進退きわまった。これまで…
【あらすじ】逃げ惑いながら、家族全員を炎から逃がすと決意するタケシだった。 ◇その夜(54) 通りはまだ燃え始めたばかりだった。今ならなんとか先にすすめるだろう…
◇その夜(53) 今夜は何度も死にかけたのに、なぜか腹が引きつるほどおかしかった。焼夷(しょうい)弾とみつ豆。直邦はきょとんとしているが、タケシと登美子は腹を…
◇その夜(52) そのとき自分は再び死ぬのだろうか、そしてまた不死身の人のように甦(よみがえ)り、家族の誰かを助けることができるのか。二度あることは三度あると…
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