精神科医の香山リカさんのコラム。06年から続く長寿連載。診察室から、現代人の“心の病”についての洞察します。
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「スターの話題」内輪で /東京
2022/6/21 02:00 974文字スターはつらいよ。 最近、そう思うことが多い。もちろん、私がスターだという話ではない。 高齢の患者さんを診察して生活の様子をきいている中で、ときどき登場するのがテレビの話題。スポーツや歌番組が好きなどと話しているうちに、「あの選手、今年はぜんぜんダメだね」「好きだった歌手が結婚したんだけど、イメー
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「楽しいからやる」でいい /東京
2022/6/14 02:02 968文字ネットでニュース記事の見出しを眺めていたら、「話題のレースの仕掛け人が来社 全国で好評も『志は低く…』なぜ?」(山陰中央新報デジタル)という文字が目に入った。「志は高く」の間違いではないか、と記事をじっくり読んだ。 「話題のレース」とは、4月に鳥取県で行われたもの。約100人の参加者は、市販されて
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心の中で応援団になって /東京
2022/6/7 02:01 967文字最近、あちこちで“推し”という単語を目にする。「おし」と読み、「大好きで応援している人」を意味するのだそうだ。学生に「ファンとどう違うの?」と聞くと、「ファンは自分ひとりが好きな人、“推し”は周りにも勧めたいくらい好きな人」という分かりやすい答えが返ってきた。 最近、医療現場で高齢者の方を多く診察
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お金よりも大切なこと /東京
2022/5/31 02:00 959文字知り合いの旅行雑誌編集者から連絡が来た。「今度あなたの職場のある地域の特集をするから、おすすめのお店があったら教えて」 私の頭に最初に浮かんだのは、ときどき立ち寄るお菓子屋さんだ。ケーキやクッキーだけでなく、ようかんなどの和菓子もおいしい。地域の果物や野菜を使った創作菓子もある。私は張りきってその
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匿名、匿名じゃない 好みは /東京
2022/5/24 02:00 973文字この4月から都市と地方、二つの地域で医療の仕事をしている。いろいろな違いがあるが、一番感じるのは「都市では匿名でいられる、地方では匿名ではいられない」ということだ。 例えば、都市では病院を一歩出ると、コンビニに行ってもファミレスに行っても、誰も話しかけてこない。もちろん私の名前を知る人もいない。自
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土に触れてみませんか /東京
2022/5/17 02:01 935文字この4月から地域医療の現場で仕事を始め、高齢の患者さんを多く診察するようになった。交通の便が悪く店も少ない地域だと教えると、東京の知人たちは「それはお気の毒に」と言う。 ところが、実際は全く違う。都会から遠く離れた小さな地区で暮らす高齢者たちは、みな元気なのだ。いや、薬や検査のために診療所に来るの
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イライラとバイバイ /東京
2022/5/10 02:02 953文字イライラほど体に悪いものはない。自分の経験からもそう実感している。 「へえ、精神科医でもイライラするの」と驚かれそうだが、精神科医ももちろん落ち込むこと、焦ること、そしてイライラすることがある。私の場合、予定外の仕事や用事が飛び込んでくると、「時間がないのにどうしよう」と慌てて、イライラすることが
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いつもと違うスタイルを /東京
2022/4/26 02:00 939文字4月は新入学のシーズンということで、テレビや雑誌は芸能人の“入学式ファッション”をさかんに取り上げている。わが子の入学式に出席する俳優やミュージシャンの私服姿が写真や映像に撮られているが、おめでたい行事なので芸能人たちもニッコリ。ファンとしては興味津々だろう。 ただ、ちょっと気の毒なのは、時々、フ
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「ゆるゆるダイエット」 /東京
2022/4/19 02:00 997文字体重増加に悩んでいた芸能人の女性が大幅な減量に成功、というニュースをネットで見た。約4カ月で25キロも体重を落としたのだという。それはすごいが、その前にはSNSに「ふらつき、めまいがひどいです」という心配な投稿もしていた。 体重の増えすぎは、世界中の多くの人にとって深刻な問題だ。特に中年期以降の体
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恐怖を和らげる伝え方 /東京
2022/4/12 02:01 849文字これまで何度か新型コロナウイルスの検査をして、陽性だった患者さんに電話で連絡をした。検査結果が確定するまで時間がかかるので、帰宅してからしばらく待ってもらうのだ。 伝えるべきことは決まっているので迷うことはないが、いつも戸惑うのは声のトーンや口調だ。「今朝の検査結果ですが、実は……」と深刻すぎるの
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大人への一歩、自信持って /東京
2022/4/5 02:01 845文字1日に改正民法が施行されて、成人年齢が18歳に引き下げられた。ただし、「成人」といえばすぐ思い浮かぶお酒やたばこは、引き続き20歳未満では禁止だ。では何が可能なのかといえば、親の同意なしで携帯電話やクレジットカード、ローンを組むなどの契約が18歳から可能となるという。 たしかに18歳といえば高校を
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ときには待つ余裕も /東京
2022/3/29 02:00 989文字東北で大きな地震があり、東京でもかなりの揺れを感じた。とはいえそれほどの被害はなく、東北の無事を祈りながら眠りについた。 その翌日、病院での仕事が一段落して「さて原稿を書いて送ろうか」と思ったが、メールの送受信ができない。何度かやり直してみたが、それでもうまくいかない。 私はパソコンがあまり得意で
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病に偏見はいらない /東京
2022/3/22 02:00 998文字医師向けの情報サイトに、病気や自分の専門科目への差別や偏見についての意識調査が載っていた。いろいろ興味深い結果があったのだが、とくに目をひいたのが「性病しかみていない」と思われたり笑われたりする、という泌尿器科医の回答だった。ほかにもいくつかの科の医者が「誤解されている」「からかわれる」と答えてい
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逃げられない怖さ /東京
2022/3/15 02:01 1001文字大震災のあと、人工透析をしている患者さんに言われたことがあった。 「私、週3回は透析を受けないと尿毒症になって命が危なくなるんです。だから、もしこの場所で大地震や津波が来ても避難所に逃げられません。ひたすら恐ろしいです」 台風などで避難勧告が出るたび、この人の言葉を思い出す。もちろん人工透析を受け
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つらいままでいい /東京
2022/3/8 02:02 941文字東日本大震災から間もなく11年となる。いまだに避難生活を送る人もいれば、行方不明のままの家族を捜す人もいる。 「ときぐすり」という言葉がある。「どんなに悲しくつらい記憶も、時間が薬のようになって癒やしてくれる」との意味だ。たしかに若いときには失恋すると「このつらさは一生、消えない」と涙を流したが、
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立場違えど語り合おう /東京
2022/3/1 02:00 993文字若いときは、診察室で自分のことを語るのは避けてきた。医者の私的な情報は治療にプラスにならない、と考えたからだ。「先生、年はいくつ?」ときかれると、「気になりますか?」などとだけ返してすませていた。しかし最近は、少し自分にも余裕が出てきたのか、「今なら治療にさわりはないな」と思ったら、「あなたよりは
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表情豊かに話そう /東京
2022/2/22 02:01 1009文字ある病院に診療の手伝いに行ったときのことだ。久しぶりだったので、ドクターも看護師さんたちも私の顔を見ると「あ!」とちょっと驚き、それから笑顔になって「よろしくね」などと言ってくれた。それだけでこちらもうれしい気持ちになり、やる気が出た。 そのまま良い気分で仕事をしながら、気づいたことがあった。コロ
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緊張のゆるめ方 /東京
2022/2/15 02:01 965文字熱戦が続く北京オリンピック。こういった国際大会に出場できるのは、実力、成績ともばつぐんの選手だからなのだが、その人たちが晴れ舞台で実力を発揮できるのもすごい。 比べるのもおかしいが、私はふだんはいつもリラックスしているのに、「ここ一番」となるといつも緊張してしまう。いわゆる「頭が真っ白」という状態
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人生後半で夢を実現 /東京
2022/2/8 02:00 967文字毎日新聞に歌手・橋幸夫さんのインタビュー記事が載っていた。橋さんは、80歳を迎える2023年5月を節目に歌手を引退すると公表し、最後の全国ツアーを開始したのだという。 以前、別の記事で読んだ際には、引退の理由について「思うような声を出せなくなったから」と書かれていた。さぞさびしい気持ちだろうと勝手
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厳しさ併せ持つ「相棒」 /東京
2022/2/1 02:00 1002文字いまは多くの病院で、紙のカルテではなくてパソコンで操作する電子カルテが使われている。「医者が患者ではなくてパソコン画面ばかり見ている」などと患者側からはあまり評判がよくない電子カルテだが、実は便利さ以外の長所もある。 それは、診察待ちの人たちのカルテを医者のデスクにどさっと積み上げなくてもよくなっ
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