メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

#最後の1年

病の先に夢見た甲子園 道は途絶えても色あせぬ白球追った日々 豊橋西高主将

チームになくてはならない存在となった背番号「5」。谷町源は集大成の舞台を待ち望んでいる=家族提供

[PR]

 愛知県豊橋市の自宅の部屋で一人、スエット姿でスマートフォンを手にしていた。「夏の甲子園、中止決定」。病と闘いながら白球を追ってきた県立豊橋西高3年で野球部主将、谷町源(はじめ)(18)の目にニュース速報が飛び込んできた。20日午後、日本高校野球連盟は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、夏の全国高校野球選手権大会の中止を決めた。何も手につかず、気づけば1時間以上、ぼんやりとしていた。

ペルテス病で2度の手術を乗り越え

愛知県豊橋市出身のプロ野球・中日の藤井淳志選手(中央)と松葉づえ姿で記念撮影する谷町源(左)。右は弟の基(もとき)さん=豊橋市民球場で2012年1月7日(家族提供)

 思えば、一度は諦めたはずの野球だった。小学3年の時、右足のペルテス病と診断された。大腿(だいたい)骨の先端が壊死(えし)し、変形する病で、6歳ごろから痛みを感じていたが、検査を繰り返しても病名がつかないでいた。プロ野球の中日ファンで、スポーツ少年団で野球を始めたばかりだったが、治療実績が多い滋賀県の病院で手術し、約2カ月入院した。野球を続けながら定期的に検査を受けたが、状態が思わしくなく、中学2年時にも再び手術した。しばらく松葉づえ生活を強いられ、卒業と同時に競技から離れるつもりでいた。

 高校に入学した春、教室で不意に声を掛けられた。赴任したての林泰盛監督(39)だった。前任の県立豊橋工高で2015年、21世紀枠でセンバツ出場を果たしていた熱血漢。弱小チームの強化に乗り出そうと、中学時代に野球をしていた生徒の名前を書き出したファイルを手にしていた。熱烈な勧誘を受けた。思うように走れないことから気後れしたが「大丈夫だ」と背を押された。

 再びユニホームに袖を通したが、やはり疲れがたまると痛みが出た。練習試合で打球が外野に抜けても一塁に駆け込めず、アウトになった。皆と同じ練習メニューはこなせなかった。監督から専門のトレーナーを紹介され、患部周辺の筋肉を鍛えるトレーニングを地道に続けた。

右足患部に入れたボルトを除去する手術を受けた直後の谷町源=滋賀県守山市の県立小児保健医療センターで2012年(家族提供)

 努力は実り、1年の冬ごろから動きが劇的に改善した。内野の守備で強い打球にも飛びつけるようになった。昨夏、愛知県大会3回戦で敗れ、代替わりすると、林監督から主将に指名された。引退する3年生が「次は谷町しかいない」と口をそろえたからだった。苦難に立ち向かう姿を先輩たちは見ていた。

師に問うた「僕は泣けなかった」

 迎えた最高学年。林監督の情熱でチームは力を蓄え、谷町も「いい戦いをする自信はあった」。ただコロナ禍で2月末から部は活動自粛を繰り返した。自宅のそばで一人、マスクをしてランニングを重ね、素振りや筋力トレーニングに励んだ。「病気や自分の状況を恨むような言葉を口にしたことがない」と母の緑さん(44)が言う谷町だが、今回ばかりはこたえた。

ガッツあふれる守備が身上の谷町源=家族提供

 20日の夏の甲子園中止発表後、自宅でテレビを見ていると、私立の強豪校の選手たちが泣いていた。だが自身は涙が出なかった。登校日だった翌日、グラウンドで観覧席に緑色のペンキを塗っている林監督の姿を見つけた。歩み寄って尋ねた。「僕は泣けませんでした。あの人たちと違って、一生懸命やってなかったんですかね」。林監督は言った。「彼らにとって甲子園は現実的な目標だが、俺たちにとっては確かに遠い存在だった。そこは違う。でも、お前たちが一生懸命頑張ってきたのは間違いない」。甲子園への挑戦が終わっても野球に投じてきた日々が色あせることはない。

 緊急事態宣言が解除され、学校は25日から再開される。間もなく全体練習も始められそうだ。愛知県高野連は代替大会の開催を検討しており、実現を信じて谷町は努力を続ける。「大会を開いてほしい。やってきたことを試合で出したい」。何より今は仲間たちと泥にまみれたい。(選手は敬称略)【岸本悠】

     ◇

 新型コロナウイルスの影響で、スポーツ大会は相次いで延期、中止となり、いつ日常が取り戻せるか不透明な状況だ。学生スポーツの最高学年の選手たちにとって、二度と戻ってこない「最後の1年」。無念、戸惑い、焦りを抱えながらも光を求めて歩む背中を追い、その胸中に迫る。

あなたの体験募集します

 「#最後の1年」では、コロナ禍に揺れる学生スポーツ界で最高学年を迎えられた選手や保護者、関係者の皆さんから、逆境に立ち向かう今の思いや励ましの声を募集しています。住所、氏名、年齢、連絡先を明記し、郵送、メールでお寄せください。宛先は〒100―8051 東京都千代田区一ツ橋1の1の1 毎日新聞運動部「#最後の1年」係。メールはt.undoubu@mainichi.co.jpへ。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. ブルーインパルス飛行「プロセスはどうでもいい」 経緯明かさぬ河野防衛相に疑問の声

  2. 小学校でクラスター発生か クラスメート5人感染 北九州・新型コロナ「第2波」

  3. 「アベノマスク」事業費約260億円 配布は37%どまり 菅官房長官表明

  4. 「桜を見る会」招待者内訳の調査記録作成せず 菅氏「対象者少数だったので」

  5. 政府、マイナンバー「全口座ひも付け」義務化検討 来年の法改正目指す

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです