センバツ90/上 成長へエンジョイ

毎日新聞

試合中、笑顔でグラウンドを駆け回る慶応ナイン=高知市の春野総合運動公園野球場で2018年3月11日、畠山哲郎撮影

 <第90回記念選抜高校野球>

 「次の回から新しい試合と思って締めていこう!」「走者が出てもいつも通りで!」。11日、合宿地の高知市で、練習試合をリードで折り返した慶応(神奈川)ナインの掛け声が、春風の舞うグラウンドに響いた。ミーティングの円陣に監督やコーチはいない。下山悠介主将(2年)は「選手自ら気づいた点を言い合う。楽しい雰囲気をつくる伝統です」と言い切る。

 エンジョイベースボール--。厳しさに耐えるイメージがある高校野球だが、慶応はこの独自方針を貫き、長い歴史の中で実績も残してきた。森林貴彦監督(44)は「自分で考えて練習し、高いレベルで楽しむのを目指している」と話す。

 源流は、大正から昭和初期に慶大で監督を務め、後に野球殿堂入りするハワイ出身の腰本寿(ひさし)氏(1894~1935年)の米国流野球。軍隊式の練習を否定し、合理的に考え、それぞれ目標に向かって自分のプレーを追求する。

 「スイング各自」「各自アップ」。メニューを書き込んだ横浜市の日吉台球場の白板にも、選手個人に任せる意の「各自」の言葉が数多く並ぶ。

 だが、質量とも練習が楽なわけではない。「自由度が高く、逆にしっかりしなければと思った」。宮尾将遊撃手(2年)は振り返る。裁量に任されるのは「自ら考え課題を解決しなければ」というプレッシャーでもある。全体練習の後も、それぞれが体幹トレーニングなどを黙々とこなす。宮尾選手がチームを支える1番打者に成長したのも、日々の努力のたまものだ。

 延岡学園(宮崎)の三浦正行監督(66)は「ミスをしても、空振りをしてもいい」が口癖だ。大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で捕手を務め、中国プロリーグでも指導。失敗を恐れ、萎縮するチームほど長期的には成長に乏しいと痛感している。「失敗しても取り返せばいい。自分で考え楽しむことで、チームが磨かれる」

 「自分たちが勝つことで野球の将来を変えていきたい」。両チームは、甲子園でもスタイルを貫く。

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 23日開幕するセンバツ。独自の育成方針を掲げたり、地域を挙げた支援を受けたりしながら、出場チームは選手をまとめ上げてきた。憧れの舞台にかけるナインの思い、地元住民らの熱意に迫る。