日本ではお正月に、おせち料理やお雑煮を食べる風習があります。それぞれの料理には、おめでたい新年にふさわしい願いやいわれがあります。料理が持つ意味や、お正月ならではの材料、盛りつけの仕方などを、東京都新宿区で日本料理教室を開く藤田貴子さんに聞きました。【浅川淑子】
一年の節目にいただく料理
藤田さんはおせち料理の始まりについて、「もともと年神様へのお供え物。お供えした後、自分たちで分かち合っていただく風習が平安時代の宮中で始まり、やがて庶民にも広まりました」と言います。年神様は、新年に家族の健康や作物の実りをもたらす神様。地域でとれた作物を材料にした料理が、特色あるお雑煮やおせち料理を生み出しました。
「おせち」という名は、季節と季節の節目である行事「節句」に由来します。今でも3月の桃の節句や5月の端午の節句などの風習は残っていますが、お正月は一年で最も盛大な節句に当たります。藤田さんは「一年の節目に、気持ちや考えをあらためる意味を込めて、おせち料理をいただきましょう」と話します。
家族の健康や繁栄祝う
おせち料理には、家族の健康や繁栄への願いが込められています。ニシンの卵である数の子は「子宝・子孫繁栄」、クリきんとんやキンカンは黄金色にちなんで「金銀財宝」。カタクチイワシを使った田作りは、「田んぼで豊作の願いを込めて『五万米』と呼び、肥料に使っていたことに由来しています」。ほかにも、「喜ぶ」の語呂に合わせて昆布を使ったり、「めでたい」魚であるタイをいただくこともあります。
正月野菜をふんだんに
おめでたい意味のある野菜も使われます。イモのようにほくほくしたクワイは、大きな芽が出ることから縁起物とされます。キントキニンジンは普通のニンジンよりも赤く、白いダイコンとあえて華やかな紅白なますに。サトイモの一種であるエビイモは煮崩れしにくく、変色もしにくいため、「茶色っぽくなりがちなおせち料理の中で、白いアクセントになります」と言います。
華やかな飾り切りも
華やかに見せる飾り切りも特徴の一つ。お煮しめに入れるシイタケは、長生きの象徴である亀の甲羅形に。コンニャクは、短冊形に切って中央に切り込みを入れ、端をくぐらせて手綱形にし、新年の気持ちを引き締める意味を込めます。こうした飾り切りをすることで、味をしみこませる工夫にもなると言います。
色合いを考えた盛り付けを
おせち料理は、黒豆など3日以上時間をかけて作るものもあれば、「できた直後が一番ふっくらとしておいしい」という伊達巻きなどもあります。その多くは、新年の数日間保存がきくように調理され、年末に重箱に詰めてお正月を迎える伝統があります。詰めるときは「松葉、千両、竹など緑色の飾りを加えると鮮やかに。鶴形に型抜きしたダイコンなどもあしらって、赤、白、緑が入るようにしましょう」とすすめます。さらに藤田さんは「昔のように全品を作るのは大変かもしれませんが、『必須の三肴』と言われる3品だけでもいい。心のこもった手作りの味を、小学生のみなさんにも伝えていきたい」と話します。新年に家族や親せきとおせち料理を囲むとき、日本の伝統を思い返して味わってみましょう。