レストラン入り口のショーケースに並ぶ食品サンプル。「どのお店に入ろうか」「何を食べようか」と考えるとき、参考にすることはありませんか? 本物そっくりで、匂いまでしてきそうです。一体どうやって作っているのでしょうか。最近の流行は? 食いしん坊の知りたいんジャーが探りました。【大井明子】
昔からあるのかな?
食品サンプルが生まれたのは、大正末期から昭和初期ごろ(1920~30年代)と言われていますが、はっきりしていません。このころ外食が広まり、コロッケ、オムレツ、カレーライスなどの洋食が流行しました。食品サンプルがあると、慣れていない人でも料理がわかるので便利だったのです。
最初はろうで作っていました。樹脂で作るようになったのは70年代後半から80年代。ろうより長持ちするだけでなく、細かい部分まで表現できるので、よりリアルでおいしそうに見える食品サンプルができるようになりました。
海外にはないのかしら?
食品サンプルは日本生まれ。日本の飲食店がアジアに進出するときに、一部で使われるようになりましたが、アジア以外ではほとんど見られません。細かい所まで気を配ってできた食品サンプルは、海外では芸術作品のようにとらえられることもあり、岩崎では中東の大金持ちから「家に飾るため」とたくさんの注文が入ったこともあるそうです。
岩崎の広報、黒川友太さんは、「日本には昔から、『食事を目で楽しむ』文化があります。食品サンプルは、日本のこうした文化にマッチしているのでは」と話します。
食べちゃだめ?
いくらおいしそうでも、食べられません。食品サンプルはビニール樹脂でできています。
食品サンプルメーカーの岩崎(東京都大田区)では、一つ一つ、本物の料理にシリコーン樹脂を流しかけ、型を取って作ります。できた型にビニール樹脂を流し込み、オーブンで加熱すると固まります。型から取りだした食品サンプルに、職人さんがエアブラシ(スプレーのように絵の具を吹き付ける道具)や筆で焦げ目などの色をつけて仕上げます。
「同じハンバーグでも、お店によって大きさや形、牛肉と豚肉の割合、焼き加減などが違います。レストランはたくさんあって、競争が激しいので、隣のお店と同じではだめ。食品サンプルにも、お店ごとの個性が求められます」と、工場で製造を担当する寺島貞喜さんは話しています。
「インスタ映え」流行してる?
食品サンプルには、飲食店の流行がそのまま反映されます。最近のキーワードは「インスタ映え」。レストランで見た目がきれいなものや変わっている食べ物を写真に撮り、インターネットの写真共有アプリ「インスタグラム」などに投稿することが流行しています。このため食品サンプルも、蛇口からジュースやビールが出ているもの、料理を作っている途中を表したものなど、目を引くもの、驚くようなものの注文が増えているそうです。
外国人観光客にも人気らしいぞ
食品サンプルは、言葉がわからなかったり、日本の料理に詳しくない外国人観光客にとっても、指でさして注文できるので便利です。海外にはほとんどないため、外国人観光客が珍しがって写真を撮ることも少なくありません。食品サンプルを作ることができる制作体験も人気なほか、土産物として買う人も多いそうです。