病院へ、自宅へ 定期便で寝たまま移動
JACは、鹿児島空港や奄美群島などをプロペラ機でつないでいます。観光や里帰りの人々だけでなく、患者も乗せます。
処置を急ぐ患者は自衛隊のヘリコプターやドクターヘリで搬送しますが、島外の大きな病院へひとまず移る人や、退院して島にある自宅で療養する人は、定期便の飛行機を利用します。中には、体への負担を減らすため、寝たまま乗る場合もあります。JACでは年数十件ほどあるそうです。
ただ、これまでは、座席の背もたれを倒して、簡単なストレッチャー(移動できるベッド)をシートベルトで固定する方法しかありませんでした。利用できる患者が限られていました。
昨年春に新しい飛行機ATRを導入したことで、体を起こす角度を調整できる本格的なストレッチャーを使えるようになりました。カーテンも取り付けられ、患者のプライバシーにも配慮できます。
ボーディングスロープも新調
ATR就航と同時に、専用のボーディングスロープもお目見えしました。乗客が飛行機に乗り降りする時に使うスロープです。新しいスロープの傾きは緩やかで、ストレッチャーのまま機内に移動できます。車椅子や杖を使う人、小さな子どもを連れた家族にとっても便利になりました。
ボーディングスロープの配備や運用を担当するJAC空港部業務グループの上田平全さんは「島からの移動手段は飛行機しかないという方々がどれほど多く、島の暮らしに飛行機がどれだけ重要なのかはJACで働き始めてから知りました。安全で楽しく移動してもらえるよう、スタッフとして支えていきたいです」と話しています。
島に恩返ししたい 医師・平島さん
漫画にも登場する医師の平島修さんは、鹿児島・奄美大島で離島医療を担い、若い医師を育てることにも力を入れています。
平島さんは医師になって13年目です。最初に島にやってきたのは11年前、奄美大島の南にある瀬戸内町の瀬戸内徳洲会病院で研修を受けました。
研修といっても、病院の医師は院長のほかに、1年先輩の医師と平島さんだけです。近くには他の病院はありません。住民は平島さんら医師を信頼してやってきます。経験が浅いからといって「診られません」とは言えません。不安を感じながらも患者と向き合い、経験を積むことができました。平島さんは「島でお医者さんにしてもらった。島に恩返しをしたい」と思うようになりました。研修を終え、他の病院で働いた後、再び奄美大島で働くことを希望して島に戻りました。
今は、奄美大島の名瀬徳洲会病院で働き、週に1回、隣の喜界島の病院で患者を診ています。離島で働く医師を増やしたいと、週末には全国各地の医学生や研修医、若手医師らの勉強会に足を運びます。そこで話すのは「手当ての医療の大切さ」です。患者の顔を見ることもなく、血液などの検査結果とにらめっこをして診断する医師がいます。患者に触れて診る大切さを説く平島さんは「手を当てることで心が温かくなる診察ができると、島の患者さんや家族から学びました。島から日本の医療を変えたい」と話しています。