朝、具合が悪くて起き上がれない病気があることを知っていますか? 「起立性調節障害」という病気で、10代前半の思春期でかかる人が多く、「怠けている」と誤解されてつらい思いをする患者もいます。病気への周囲の理解が欠かせないといいます。【斎藤広子】
「布団に体が吸いついているような異様な感覚でした」。東京都世田谷区に住む高木修造さん(23)は病気の症状が特に重かった10代のころをそう振り返ります。
中学1年生の秋、体に小さな水ぶくれが帯のようにできる「帯状疱疹」が出た後に、体調を崩しました。小学校にはほとんど遅刻をしたことがなかったのに、体調を崩してからは朝はめまいがするようになり、食欲が出ず、朝食と昼食が取れなくなりました。ふわふわする感覚が続いて疲れやすくなったといいます。「何かがおかしいと思っていましたが、いくら病院に通っても病名がわからず不安でした」と話します。
高校2年生の春にはスポーツテストの長距離走で突然倒れ、3か月間布団から起き上がれなくなりました。「何でおれなのかな」と布団の中で考えていたといいます。このころ神経内科などを受診し、「起立性調節障害」と診断されました。
中学生の約1割
起立性調節障害は10~16歳で発症する人が多いといわれる病気です。軽症を含めれば中学生の約1割がこの病気にあたるという研究結果もあり、注目されています。午前中の症状が重く、午後には体調が戻る場合もあり、家族からも「怠けている」と誤解を受けやすいところがあります。
この病気に詳しい東京医科大助教の小児科医・呉宗憲さんによると、夜更かしをせず、しっかりと睡眠時間をとっているのに、▽朝なかなか起きられない▽立ちくらみやめまいがひどい▽どうきや息切れ▽疲れやすい--などさまざまな症状があるといいます。
原因は、思春期の急激な体の成長に対して、自律神経(心臓や胃腸、血管などの活動を調整する神経)の働きが追いつかなくなることと考えられています。「特効薬はありませんが、治療法はあります。周囲の理解や生活の見直しを含め、正しい対処をしていけば、多くの人は症状が楽になっていきます」と話します。
呉さんのもとには、毎日たくさんの子どもたちが受診にきます。「この病気に限らず、子どもたちの『朝起きられない』にはいろいろな原因があると感じます。きみが今抱えている問題に対して、ぼくら小児科医はきっと何かの役に立ちます。『これは病院に行くような病気じゃない』と思っても、ぜひ小児科医を頼ってみてほしいです」と話します。
病気への理解を
高木さんはその後、患者同士で悩みを相談し合いたいと、2012年に患者や家族の交流を始め、昨年春にNPO法人「起立性調節障害の会」を作りました。『怠けている』と周囲に誤解されて苦しんでいる患者も多いといいます。「家族や友達、先生など一人でも病気のことをわかって、受け止めてくれる人がいると患者の大きな支えになります。この病気への正しい理解が進んでほしいです」と話しています。
起立性調節障害で起こりやすい症状
□立ちくらみやめまいをよく起こす
□立っていると気分が悪くなり、ひどいと失神する
□入浴時や嫌なことを見聞きすると気分が悪くなる
□少し動くとどうきや息切れがする
□朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
□顔色が青白い
□食欲が出ない
□腹痛をときどき訴える
□疲労感がある、疲れやすい
□頭痛
□乗り物に酔いやすい
※もともとの病気がなく、3項目以上当てはまり、生活に困っている場合は受診した方がよい