韓国・平昌冬季オリンピック(五輪)に続き、平昌冬季パラリンピックが始まった。スポーツの感動の日々は終わらない。編集長のボクがとても感動したのは銀メダリストの渡部暁斗選手(29)のあのことば。でもそれって、本当に感動していいの? 頭グルグルだ。【編集長・西村隆】
「骨の1、2本くれてやる」
渡部選手は、スキージャンプとクロスカントリースキーの両方の合計で競うノルディックスキー複合で銀メダルに輝いた。競技後になって、練習中にろっ骨を骨折し、痛みをこらえながらの滑りだったと発表された。渡部選手は「骨の1本、2本くれてやるという気持ちで臨んだ。けががなかったら金メダルを取れていたとは思っていない」と話した。
テレビのコメンテーターは「痛みを我慢して銀メダルとはすごい選手だ。けがを金メダルを逃したいいわけにも使わない」と手放しでほめていた。見ていたボクも、「選手生命をかけていたんだ。五輪はやっぱり感動するなあ」と同じ思いだった。
「医師もOKだった」
日本に帰ってきた渡部選手は空港での記者会見で、改めてけがについて話した。こちらはあまりニュースになっていない。スポーツ新聞の「デイリースポーツ」の電子版から引用して紹介しよう。
「僕はこういう年齢(29歳)だからいいけど、この報道を見た若い子が無理して試合に出ることが懸念(心配)。よい子はマネしないように。無理をするつもりはなかったし、出られないという判断だったら出場を辞退するつもりだったが、ドクター(医師)もOKだったので可能な限り努力した。これはイレギュラー(特別)なことで、五輪だったから無理して出た」
最初に伝えられた話とずいぶん違う。大切なことは2点。出場しないことを含めて冷静に判断したこと。そして医師の診断に従ったことだ。渡部選手は今月4日にはフィンランドでのワールドカップに出場し5位入賞している。医師の診断通り、元気なようだ。
毎小読者のキミへ
もしキミが選手で、コーチから「渡部選手のように、けがぐらい我慢して出場しろ」と言われたらどうする? スポーツ選手なら大人も子どもも「出ます」と答えてしまう。しかし、それでは治るけがも治らなくなって、ずっとスポーツができなくなってしまう。
日本体育協会公認ジュニアスポーツ指導員でもあるボクは、五輪メダリストを育ててきたフリースタイルスキーのコーチ、遠山健太さんの授業を受けた。遠山コーチは「ジュニアの選手も選手の親も、痛みを我慢してプレーすることを美しいことと思ってしまいます。無理すると引退につながります。痛みはきちんと親やコーチに話すことです」と念を押した。渡部選手も遠山コーチも、痛みを我慢することは、感動なんかではないと心配している。