「いろいろな経験を」 石田さん
「読みやすさは宝物」 西原さん
「書きたいもの書く」 あさのさん
デビュー作「さよなら、田中さん」(小学館)が話題の中学生作家の鈴木るりかさん(14)が3月末、作家の石田衣良さん(58)、あさのあつこさん(63)、漫画家の西原理恵子さん(53)と東京都内で対談しました。小学4年の時から鈴木さんを見守ってきた3人と、作家としての才能や心構えについて話しました。【篠口純子】
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小学4年の時に初めて書いた小説が小学生限定の「12歳の文学賞」で大賞を受賞。小学6年まで3年連続で大賞を受賞しました。審査員を務めた石田さんたちからは「ぜひ書き続けてほしい」と絶賛されてきました。
昨年10月、受賞作品を書き直した2編に、書き下ろし3編を加えて「さよなら、田中さん」を刊行しました。貧しいけれど明るく元気な小学6年の女の子とお母さんを描いた連作短編集。これまで7万5000部を売り上げました。デビュー作で大ヒットに恵まれた鈴木さん。ちょっと戸惑いもあるようです。文学賞を主催した小学館が設けた対談で、先輩3人にアドバイスをもらいました。
石田さんは審査員として、初めて鈴木さんの作品を読んだ時のことを「人間の裏と表、社会の光と影を自分なりの目で見て、すくいあげて書いている。作家の目を持っている印象があった」と振り返ります。あさのさんも「人間の生身の声や息づかい、体温がこちらに迫ってくるように立体的に描かれていました。物語は破天荒な世界ではないのに、すごく迫力があった」と話します。
中学2年で刊行された「さよなら、田中さん」を読み、「順調に成長していると思いました。ものを見る目はできあがっているから、一人の人間としていろいろな経験をしてほしい」と石田さん。西原さんは「最初の2、3行でさっと入っていくことができ、読みやすい。マンガも最初の1ページが大事。読みやすいのは宝物だと思う」と話します。
鈴木さんが「作家や漫画家を10年以上続けられる秘訣は?」と質問しました。石田さんは「これから出版業界は厳しくなる。その中で生き残れるように頑張っていかないといけない」と現実の厳しさを指摘する一方で、「飽きないでまずは10年続けてほしい」とアドバイスしました。あさのさんも「デビューしたころは、他人の評価に一喜一憂したこともありました。売れるに越したことはないけれど、自分が書きたいものを書くことが大事」とエールを送りました。
鈴木さんはこの春から中学3年生になりました。志賀直哉や吉村昭を愛読し、最近は崔実さんの青春小説「ジニのパズル」や吉田兼好の随筆「徒然草」がおもしろかったといいます。読書以外に、絵を描くことや料理、ギターも好きです。
現在、次の小説を執筆中です。「中学校を舞台にした作品を書いています。自分の中で登場人物が動く光景をそのまま文章に書くことが、すごく楽しい。いつかアルバイトにも挑戦してみたいです。経験を作品に生かせるといいです」と話しました。