デビュー作「さよなら、田中さん」が9万5000部の大ヒットとなった中学生作家、鈴木るりかさん(14)。今年秋に連作短編集を刊行する予定です。読書の楽しさや新作について聞きました。【篠口純子】
生きるヒントは本に
--デビューしてから変わりましたか。
鈴木さん 直後は取材や書店回りで目まぐるしい日々が続きましたが、今は落ち着きを取り戻しています。先生や同級生、先輩方も変わらない態度で接してくれます。本を読むときは装丁や文字の大きさ、厚さ、いつの発行かが気になるようになりました。
--家の隣に図書館があって、小さいころから通っていたそうですね。
鈴木さん 「好き」「嫌い」という意識を持つ前から生活の中に本がありました。ご飯を食べるのと同じように、本を読むことが当たり前になっていました。小さいころは、字が読めなくても絵本の絵を見ながらストーリーを考えていました。
--印象に残っている本は。
鈴木さん アリの女の子を主人公にした「ありこちゃんのおてつだい」という絵本があって、ユーモラスな絵が好きでした。図鑑も好きで、ザリガニやチョウの写真を見て、物語をつくっていました。少し大きくなってからは世界名作全集。「あしながおじさん」や「赤毛のアン」を読みました。高学年になって、志賀直哉などを読むようになりました。
--どうやって本を選びますか。
鈴木さん ジャンルは問わず、最初の数行を読んで決めることが多いです。例えば、太宰治の「葉」の「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。(中略)これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った」。何があったのか、先が読みたくなりました。最近読んでおもしろかったのは、夏目漱石の「硝子戸の中」。漱石の最後の随筆集で、独特のユーモアがありながら生と死をテーマにしています。一編一編は短いけれど重みのある作品です。文豪と呼ばれるような人でも日常のささいなことで悩んでいることが分かります。
--読書の楽しさとは。
鈴木さん 自分をここではない、どこかに連れて行ってくれるところです。そして、どんなに科学が進んでも人間の心は変わりません。1000年前に書かれた古典にも共感できます。悩みがあったら、答えのヒントは世界中の本のどこかに書かれていると思います。本を読んで多くのことを知り、自分が生きていくうえで力になっていくと思います。
--次の作品はどんな内容ですか。
鈴木さん 中学生を主人公にした連作短編集です。中学校が舞台ですが、小学生でも大人でも楽しく読めるものを目指して書いています。
--どんな時にお話が生まれますか。
鈴木さん 生活の中で目に入ったものや耳にしたものが、ある時、回路みたいに頭の中でつながってストーリーが生まれます。これからもいろいろなことを体験して、作品にいかしていけるといいです。読む人に希望を与えられる小説家になりたいです。
貧しくても底抜けに明るい母親と2人で暮らす小学6年生の田中花実が主人公の「さよなら、田中さん」。100字感想文を書こうキャンペーンを実施中(https://www.shogakukan.co.jp/pr/sayonara/)
プロフィル
2003年、東京都生まれ。小学4年から3年連続で、「12歳の文学賞」(小学館主催)大賞を受賞。17年10月、連作短編集「さよなら、田中さん(小学館)で作家デビュー。現在、東京都内の中学3年生。