<=1面からつづく>
パングラムの次は、リポグラムを紹介します。特定の文字を使わずに、文章を作る方法です。歌人の山田航さんに「ま」「い」「し」「ょ」「う」を使わずに、アンデルセンの童話「マッチ売りの少女」を書き直してもらいました。有名な物語に挑戦しても良いですし、日記を書いてみるのもオススメです。
●元にした文章
「マッチ売りの少女」(青空文庫より)
原作 アンデルセン
翻訳 結城浩
ひどく寒い日でした。雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜--今年さいごの夜でした。この寒さと暗闇の中、一人のあわれな少女が道を歩いておりました。頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。家を出るときには靴をはいていました。ええ、確かにはいていたんです。でも、靴は何の役にも立ちませんでした。それはとても大きな靴で、これまで少女のお母さんがはいていたものでした。たいそう大きい靴でした。かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、少女はその靴をなくしてしまいました。二台の馬車が猛スピードで走ってきたからです。
(C)1999 Hiroshi Yuki
「そもそも、タイトルに使われている『マッチ』も『売り』も『少女』も使えなくなるんだけど……」と山田さん。そこで類語辞典を取り出しました。「これを駆使して言い換えられる別の言葉を探してみよう」と始めました。
「『少女』は、まあ『娘』でいいか。『マッチ』は辞書を引いたところ昔の呼び方で『りんすん』という言葉があるんだな」。「りんすん」は漢字で「燐寸」と書きます。ここまでは順調でしたが、問題は「売り」。「販売」は「い」が入るので使えません。「『りんすん商』とかも考えたけどやはり『し』『ょ』『う』が入るし……」
そこで思いついたのが「屋」でした。「『りんすん屋』。ちょっと大正ロマンっぽい。かわいそうな感じが薄れて立派な店舗を構えてるようなイメージになっちゃうけれど、しかたない」
こうしてできあがったのは、次の文章でした。
●リポグラム文章
「りんすん屋の娘」
その日はひどく寒かった。雪も降ってて、すっかり暗くなり、もはや夜--本年ラストの夜だった。この寒さと暗闇の中、一人のあわれな娘が道を徒歩でぶらり散策。髪の毛を何かで覆わず、かかとも何かで包むこともなく。自宅を出るときには靴を身につけてた。ああ、確実に身につけてた。でも、靴は何の役にも立たなかった。それはとても大きな靴で、過去には娘のお母さんのかかとを包んでたものだった。とても大きな靴だった。哀れなことに、道をめっちゃランニングで渡ったとき、娘はその靴をどこかに忘れちゃったんだ。馬匹がひく乗り物がすげえスピードで駆けてきたからだ。それもダブルで。
●挑戦しよう
「マッチ売りの少女」(青空文庫版)の後半に登場する文章を「ま」「い」「し」「ょ」「う」を使わずに書き換えましょう! 使えない部分を水色で示しています。
1 少女はもう一本壁にこすりました。
2 「いま、誰かが亡くなったんだわ!」と少女は言いました。
3 「お願い、わたしを連れてって! マッチが燃えつきたら、おばあちゃんも行ってしまう。あったかいストーブみたいに、おいしそうな鵞鳥みたいに、それから、あの大きなクリスマスツリーみたいに、おばあちゃんも消えてしまう!」