火災を乗り越え、8回連続成功
日本の無人補給機「こうのとり(HTV)」8号機を載せたH2Bロケットが、さる9月25日午前1時5分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。ロケットは約15分後に計画どおり高度287キロ付近で「こうのとり」を分離し、予定の軌道に投入しました。
「こうのとり」は、高度400キロ付近で地球を周回している国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士のための水・食料品やバッテリー、大学が開発した小型人工衛星などおよそ5.3トンの物資を搭載して、当初は11日に打ち上げる予定でした。しかし、発射台で発生した火災(写真1)のため打ち上げは延期。三菱重工業は火災の原因として、エンジン付近から排出される液体酸素が、発射台の耐熱材に吹きかかり続けたことで静電気が発生した可能性が高いと判断。その耐熱材をアルミシートで覆って静電気防止策を講じ、このたびの打ち上げに至ったものです。
これで、「こうのとり」は10年前に1号機を打ち上げて以降、8回の打ち上げのすべてが成功したことになります。
ロケットの打ち上げは、何度繰り返しても、そのたびにさまざまな条件に左右されて、意外な事故の起きる作業です。今回の発射台の火災も、エンジニアたちにとって厳しい出来事でした。新たな事態に直面しても、冷静かつ科学的に状況を分析・対処して打ち上げに成功した人たちに、心から拍手を送りましょう。
「こうのとり」8号機は、徐々に高度を上げながらISSとの速度差を縮めていき、最後にはISSと同じ速度で飛行することによって、さる9月28日夜、約10メートルの距離まで接近。ISSに滞在中の宇宙飛行士が、長さ17.6メートルのロボットアームを操作して、「こうのとり」をキャッチしてくれました(写真2)。つづいて29日午前3時前にドッキングに成功しました。
この間の軌道運用は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターにある管制室で行っています。私はいま10年前の「こうのとり」1号機の時の管制室の様子を思い浮かべていますが、その時には初めての運用でトラブルも頻発し、メンバーも非常に緊張して苦労の連続でした。いまはその頃と比べて習熟度が大きく上がり、自信に満ちた作業に見えます(写真3)。日本には、今後新しいタイプの宇宙船も登場することでしょうが、その場合も見事に乗り越えていってくれるものと期待しています。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。