食べ物の好ききらいに発達障害が関係する場合のあることがわかってきました。発達障害の人は音や光、味、におい、肌ざわりなどを感じる力が、ふつうの人より鋭すぎたり、鈍すぎたりすることがあります。それらが影響して、食べるのがつらい――そんな気持ちを伝える絵本ができました。
自らの体験をもとに絵本「あっくんはたべられない 食の困難と感覚過敏」を出版した菊間章紘さん
東京造形大学1年の菊間章紘さん(19)は今年3月、絵本「あっくんはたべられない 食の困難と感覚過敏」(世音社)を出版しました。好ききらいが多い自分の体験がもとになっています。題名にむずかしい言葉も入っていますが、主人公のあっくんは小学生です。
あっくんは時間内に給食を食べられず、居残りをさせられます。お母さんは、あっくんが大好きなハンバーグの中に、きらいな野菜を混ぜます。「どうしていつもぼくをだますの?」「食べられないのにはちゃんと理由があるんだ。でも誰にもわかってもらえない」
菊間さんは発達障害の一つ、注意欠如・多動症です。発達障害の人は、障害がない人であれば気にならない食べ物の舌ざわりやにおいが気になることがあります。菊間さんは幼いころから汁気のあるくだもの、野菜、魚などが食べられませんでした。
知らない食材やメニューを受け入れられないこともあります。給食に出る「ちまき」や「ちらしずし」などの季節の行事食には手をつけなかったそうです。
専門家による研究も進んでいます。東京学芸大学の高橋智教授と立命館大学の田部絢子准教授らの調査では、発達障害の人の中には食べ物をこわく思ったり、気持ち悪く感じたりする人がいることがわかりました。
絵本「あっくんはたべられない 食の困難と感覚過敏」の一場面
学校の給食の時間に「正しい食べ方」として習う「三角食べ」も、苦手に感じる発達障害の人は少なくないそうです。主食、おかず、汁物を交互に食べるので、味が混ざるからです。
安心できる環境を
だれでも「気持ち悪いもの」を口に入れるのはいやです。そういう体験をくり返すと、食べることがこわくなるそうです。高橋さんは「まずは本人が安心して食事をとれる環境を整えることが大切」と話しています。
菊間さんは少しずつ食べられるものが増えてきました。大好きな絵を描く体調をととのえるため、苦手なフルーツも口にするようになりました。「僕みたいな子どもたちに、食べられないのは悪いことじゃないと伝えたい。でも、永遠に食べられないと決めてしまうのでなく、食べられるようになる可能性があることも伝えたい」と話しています。【塩田彩】