「殺人ロボット反対キャンペーン」の集まりで、マスコットの平和ロボット、デビッド君(左)らと一緒に議論する中満さん(右はじ)=Thomas Hajnocziさん提供
禁止すべき新たな武器
今日は「未来の世代のための軍縮」、新しい科学技術と安全について話しましょう。
人間の歴史は常に、新しい発明を豊かになるため活用し、その発明が自分たちの安全を脅かさないように努力する、という繰り返しでした。典型的な例が、20世紀の原子力の発見と核兵器の問題です。原子力は平和的に利用されれば、病気を治したり、農業の品種改良や害虫駆除に役立ったりしますが、原爆は多くの人の命を奪いました。
私たちの生きる21世紀では、人工知能(AI)やサイバー技術など、生活のあらゆる面を根本的に変える新技術がすごい速度で発達しています。すでにいくつかの分野で、私たちの安全を脅かす事態が出てきました。
例えば、ウクライナでは2015年と16年の真冬に、インターネットを使ったサイバー攻撃で、大規模な停電が発生し、多くの人々が被害を受けました。現在、世界中で39秒に1度、何かしらのサイバー攻撃が行われていると言われています。もし再び大規模な戦争が起きるとすれば、サイバー攻撃から始まるだろうとも言われます。
AIが自らの判断で人間を殺す通称「殺人(キラー)ロボット」(正式には「自律型致死兵器システム」)を作ることはもう可能です。こんなものがもし実際に使われるようになったら、未来の戦争は想像できないものになるでしょう。
まるで映画のようですが、例えばテロ集団がAIやサイバー技術を使って核兵器の指令系統にハッキング(不法侵入)して、戦争を起こす可能性もゼロではありません。3Dプリンター技術を悪用し、簡単に武器を作ることも可能になるかもしれません。
殺人ロボを規制
このような新技術は、原爆のように政府が膨大な資金をかけて開発するのではなく、若者がパソコンで作ることもできます。そしてそれが、軍事目的に転用されてしまう可能性があります。
国連では近年、このような問題に早急に対応しなければならないとの意識が高まり、真剣な議論が始まっています。AIの分野では今年8月、武力行使の決定は機械でなく必ず人間がしなくてはならないなど、11の原則を採択することができました。これらを具体的にどう実施していくかを、これから2年かけて議論します。国連事務総長は「機械が人間の命を奪う決定を下すことは到底受け入れられることではなく、国際法で禁止されなくてはならない」との立場を明確にしています。
そして12月の前半2週間は、国連でサイバー空間での安全保障に関する重要な話し合いが行われます。サイバー空間は、人間にとって、陸・海・空・宇宙に続く五つ目の空間です。ここには国境がありません。国際法がどのように適用され、どのような原則に従って行動すべきかを早急に決めなくてはなりません。サイバー空間で紛争が起きた際の解決方法も考えなければなりません。
まず全世界のサイバー分野の民間企業や市民団体の代表を含めて議論します。通常、国連は各国政府の交渉の場ですから、これは大変珍しいことです。しかし民間の研究者によって技術革新が行われているのですから、彼らとの協力が必要です。
新しい科学技術は、うまく使えば私たちを豊かにし、夢をかなえてくれます。決して、私たちの安全に脅威を与えるものであってはいけません。
感想文を募集します
中満さんのコラムの感想文を募集します。抽選で30人に、中満さんの本「危機の現場に立つ」(ルビ付き)を2冊ずつプレゼントします。1冊は通っている学校に寄贈します▽感想文は、小学校3年生以下は200字以上、4年生以上は400字以上です。送り先は〒100-8051(住所不要)毎日小学生新聞編集部「中満さん感想文係」か、メールでmaishou@mainichi.co.jpへ。住所、氏名、年齢、電話番号を明記してください。締め切りは12月16日必着。優秀作は紙面で紹介することを予定しています。学校など団体での応募も歓迎します▽これまでのコラムは、毎小のサイトにまとめて掲載しています。
中満泉さん[国連事務次長]
1963年生まれ。アメリカの大学院を経て89年に国連入り。難民保護や国連平和維持活動、核兵器禁止条約の採択などのために働いてきた。著書に児童書「危機の現場に立つ」など。