復活は生みの苦しみ
いよいよ2019年の「銀河教室」も大づめを迎えました。今年の最後として、日本の宇宙飛行士たちにも関係の深い、米国の有人飛行について述べましょう。
2011年にスペースシャトルが引退した後、中国を除くすべての国の宇宙飛行士たちは、ロシアのソユーズに乗って宇宙に飛び立っています。米国は、自力で有人飛行する時代を再び迎えるために、いくつかの計画に取り組んでおり、その実現があと一歩のところまで来ています。ですが、現在そのために生みの苦しみを味わっているようです。
まず月をめざす計画(月ゲートウエー、アルテミス)では、輸送の主役は、開発中の超大型ロケットSLS(スペース・ローンチ・システム)です。このロケットはボーイング社が製造し、欧州宇宙機関(ESA)と共同開発の新型宇宙船「オリオン」を搭載して宇宙飛行士を運ぶのですが、計画が遅れ、2020年に予定した月周回無人飛行での使用は難しいようです。
地球周辺の有人輸送は、スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」を「ファルコン・ロケット」で運ぶ方法と、ボーイング社の宇宙船「スターライナー」を「アトラス・ロケット」で運ぶ方法を「お墨付きミッション」に指名して競わせています。こちらも2019年のいくつかのテスト飛行で、新たな問題が発生し、土壇場で必死の取り組みをしています。日本の野口聡一飛行士の3回目の飛行と関連しているので、気になるところです。
まずスペースX社は、3月に「クルードラゴン」の試験機を無人で打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングさせ、地球に帰還させる試験に成功した(写真1)まではよかったのですが、4月に行われた燃焼試験で爆発事故が起き、機体が損傷しました。スラスター(小型のロケットエンジン)の酸化剤が漏れて、チタン製部品と反応し、発火したことが原因という調査結果が明らかになり、その後燃焼テストを実施しています。
ボーイング社の方では、「スターライナー」のテスト機をさる12月20日に打ち上げてISSと無人でドッキングさせるつもりでしたが、どうやらタイマーの不具合で初期の軌道飛行中に燃料を使いすぎ、ドッキングをあきらめて地上へ帰還しました(写真2)。
スペースX社は次の段階として飛行士の緊急脱出システムの検証、ボーイング社は再度の無人飛行やパラシュートシステムの検証など、遅れ気味ながら夜を日に継いで課題に取り組んでいるところです。米航空宇宙局(NASA)の長官は「2020年の早い時期に有人飛行テスト」と催促じみた発言をしていますが、飛行士の安全こそが最も重視されなくてはいけません。政治的な忖度を優先することのないよう、落ち着いて進めてほしいと願っています。
ではみなさん、どうかよいお年をお迎えください。2020年が素晴らしい一年になるといいですね。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。