東南アジア諸国連合(ASEAN)の旗の前で取材に応じる小野日子さん=ジャカルタの日本大使館で
外交官の小野日子さん(54)=旧姓・関=は、第24回青少年読書感想文全国コンクールで「ガラスのうさぎ」を読んだ作品で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞しました。当時、女子学院中学校(東京都)1年の12~13歳で、主人公の敏子と同い年でした。今はインドネシアで日本と外国を結ぶ仕事をする小野さんは、「『ガラスのうさぎ』の感想文を書いたことが私の原点」と語ります。【ジャカルタ武内彩】
原点は感想文
3月10日は1945年に東京大空襲があった日です。小野さんは東京大空襲をテーマにした「ガラスのうさぎ」を読んだことに加え、高校2年の時に訪れた広島で被爆者の方から体験を聞いたことにも背中を押されました。「平和な世界の実現に役立つ仕事がしたい」。一橋大学に進み、まだ女性外交官が少ない時代でしたが、「恐れずに挑戦しよう」と88年に外務省に入りました。外交官だった皇后雅子さま(56)の1年後輩に当たります。
インドネシアの首都ジャカルタで仕事を始めたのは2017年です。ジャカルタには東南アジア諸国連合(ASEAN)の事務局があります。ASEANは東南アジア地域の平和や発展を目指して力を合わせる国々のグループで、10か国が加盟しています。小野さんは日本の代表部の公使として、日本の知識や技術をASEANに伝えるのを支える仕事をしています。
例えば、日本が洪水や地震など過去の自然災害から学んだ教訓や経験を共有したり、ASEAN諸国の震災後の復興を支援したりしています。また、海に流れ出るプラスチックごみを減らす取り組みに力を入れています。
今年夏には東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが開かれます。小野さんは組織委員会で広報官を務めたこともあります。国連総会では2019年12月、大会期間中の休戦を呼びかける決議が採択されました。五輪もスポーツを通じて平和のとうとさを訴えるイベントです。
文化や暮らしも大切
「平和」は、戦争や武器だけに関わるものではありません。ASEANでの取り組みのように文化や毎日の暮らしを守ることも大切です。「みんなが安心し、心も体も豊かに生きられる社会こそ平和な社会だと思います」と小野さん。「ガラスのうさぎ」から読み取ったことを原点に、これからも平和な世界を追い続けます。=2面につづく
1979年2月6日の毎日新聞朝刊に掲載された関日子さんの読書感想文
■戦争はわからないけれど
日子さんの読書感想文のタイトルは「戦争はわからないけれど」。日子さんの家では「終戦の日」の8月15日が、すいとんの日だというエピソードから始まります。すいとんは小麦粉を団子にして汁に入れる食べ物で、戦争中によく食べられました。お母さんは戦争を忘れないように食卓に出してきました。日子さんは「ガラスのうさぎ」で敏子の強さに共感しながら、生きることの大切さを考えました。そして感想文をこう結びました。「ガラスのうさぎ――この無力でこわれやすいもの。こんなにやさしく力弱い動物をこわしたのはだれ? 私はそれを憎む。戦争を憎む。」