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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

東京くみひも 龍工房 柔軟で丈夫 用と美 人と人とをつなぐ

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様々な組み方で組まれた「東京くみひも」
様々な組み方で組まれた「東京くみひも」

 和服わふくときに、女性じょせいならおびうえめる「帯締おびじめ」に、男性だんせいなら上着うわぎの「羽織はおりひも」によく使つかわれるのが「みひも」です。何本なんぼんもの絹糸きぬいと順番じゅんばん交差こうさすることで、いろいろなデザインのひもががります。完成かんせいしたみひもは「いき」がモットーの江戸えど職人しょくにんたましい宿やどっているかのように、つややかで丈夫じょうぶです。

 江戸時代えどじだいにはおおくの人形にんぎょう職人しょくにんなどがらしていたという日本橋にほんばし人形町にんぎょうちょう周辺しゅうへん東京都中央とうきょうとちゅうおう)。その一角いっかくに「りゅう工房こうぼう」の店舗てんぽけん作業場さぎょうばがあります。

自分専用(じぶんせんよう)の丸台(まるだい)を前(まえ)に組(く)みひもを作(つく)る福田隆(ふくだたかし)さん(奥(おく))と隆太(りゅうた)さん 拡大
自分専用(じぶんせんよう)の丸台(まるだい)を前(まえ)に組(く)みひもを作(つく)る福田隆(ふくだたかし)さん(奥(おく))と隆太(りゅうた)さん

 カラン、コロン、カラン、コロン……。

 工房こうぼうはいると、親子おやこみひもづくりをつづける福田隆ふくだたかしさん(59)と、息子むすこ隆太りゅうたさん(27)が正座せいざして、「まるだい」とばれる作業さぎょうだいでひもをんでいました。いときつけた「組玉くみだま」のぶつかるおとひびきます。まるだい職人しょくにんごとに自分じぶん専用せんようのものがあり、上板うわいたのことを「かがみ」とびます。「んでいる職人しょくにんこころがそこにうつされるとわれています」とたかしさん。

 映画えいがきみは。」をひとは、主人公しゅじんこう三葉みつはがおばあちゃんにみひもをおそわる場面ばめんがあったのをおぼえているかもしれません。劇中げきちゅうみひもを再現さいげんした公式こうしきグッズは、りゅう工房こうぼう製作せいさくしました。まさにあの場面ばめん原形げんけいがここにあったのです。

全国ぜんこくから職人しょくにん

 徳川幕府とくがわばくふによって「江戸えど」が日本にっぽん中心ちゅうしんとなり、国内こくない各地かくち職人しょくにんあつまったことで、東京とうきょうにはいまおおくの「江戸えど伝統工芸でんとうこうげい」がのこっています。ふるくからいろいろな用途ようと使つかわれてきたみひもも、ここでは「東京とうきょうくみひも」の名前なまえつたわり、やく10にん職人しょくにんわざをつないでいます。

 「いとへんのおもかべてみてください。むすぶ、つむぐ、る、えんきずな……。わたしたちの仕事しごと作品さくひんとおしてひとひととをつないでいくこと。そしてその仕事しごと未来みらいのこるように、わかひとたちにけついでいくことでもあるのです」とたかしさん。

 まるだいだけで50種類しゅるい以上いじょう模様もようができるというみひもは、日本にっぽん伝統でんとうげた総合そうごう芸術げいじゅつでもあるのです。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん吉田よしだ航太こうた

 ◆みひも

「幅広(はばひろ)」の組(く)み方(かた)は、まるで布(ぬの)のようです 拡大
「幅広(はばひろ)」の組(く)み方(かた)は、まるで布(ぬの)のようです

武士ぶしのよろいにも

 みひもは仏教ぶっきょう道具どうぐとともに古代こだい中国ちゅうごくからもたらされました。奈良時代ならじだい経典きょうてんつつむカバー(正倉院宝物しょうそういんほうもつ)や、広島ひろしま厳島いつくしま神社じんじゃつたわる「平家納経へいけのうきょう」のかざりひもに、みひもの技法ぎほうられます。武士ぶし時代じだいにはよろいやかぶと、あるいは茶道具ちゃどうぐ一部いちぶとしても使つかわれました。

 柔軟じゅうなん丈夫じょうぶなによりうつくしいという「よう」をそなえたみひもは、武具ぶぐ需要じゅようがなくなった明治以降めいじいこうおも和装わそう小物こものとして使つかわれてきました。現在げんざいでは、東京とうきょうのほか京都きょうと伊賀いが三重県みえけん)などの名産めいさんひんとなっています。

 ◆いと

「東京くみひも」の材料になる糸 拡大
「東京くみひも」の材料になる糸

国産こくさんきぬ

 ガの幼虫ようちゅうかいこがはきしろ絹糸きぬいとは、ツルツルしてうつくしいうえ丈夫じょうぶなのでなかなかれません。古代こだいから世界各地せかいかくち貴重きちょう織物おりもの「シルク」の材料ざいりょうとして使つかわれてきました。

 日本にっぽんでは明治めいじ新産業育成政策しんさんぎょういくせいせいさく絹糸きぬいと生産せいさんえましたが、現在げんざいはわずかにのこるのみ。国内こくない流通りゅうつうする99%以上いじょう外国産がいこくさんです。

 りゅう工房こうぼういとにもこだわり、日本にっぽん絹糸産業きぬいとさんぎょう支援しえんするみをしています。群馬県産ぐんまけんさんいと使つかい、いろいろないろめます。化学かがく染料せんりょうのほか、植物しょくぶつなどを使つかった草木染くさきぞめもします。

 ◆挑戦ちょうせん

昨年秋(さくねんあき)のラグビー・ワールドカップ日本大会(にほんたいかい)で優勝(ゆうしょう)した南(みなみ)アフリカの選手(せんしゅ)たち。首(くび)からさげているメダルのリボンは龍工房(りゅうこうぼう)の組(く)みひもです=2019年(ねん)11月(がつ)2日(ふつか) 拡大
昨年秋(さくねんあき)のラグビー・ワールドカップ日本大会(にほんたいかい)で優勝(ゆうしょう)した南(みなみ)アフリカの選手(せんしゅ)たち。首(くび)からさげているメダルのリボンは龍工房(りゅうこうぼう)の組(く)みひもです=2019年(ねん)11月(がつ)2日(ふつか)

あたらしい用途ようと

 「りゅう工房こうぼう」では、伝統でんとうてき帯締おびじめなどをつくつづける一方いっぽうで、おもわか隆太りゅうたさんが中心ちゅうしんとなってあたらしいみひもの世界せかい挑戦ちょうせんしています。つつじょうめる特性とくせいかし、ボールペンのじくや、かさほね装飾そうしょくに、「幅広はばひろ」のかたではカメラのストラップに。さくねんあき日本にっぽんひらかれたラグビー・ワールドカップでは、上位じょうい入賞にゅうしょうしゃ授与じゅよされたメダルのリボンにも使つかわれました。隆太りゅうたさんは「いろいろなあたらしい用途ようと素材そざい挑戦ちょうせんしていきたいです」とはなしています。

「東京くみひも」を組む龍工房の福田隆太さん=東京都中央区で2月 拡大
「東京くみひも」を組む龍工房の福田隆太さん=東京都中央区で2月

 ◆だい

 いと作業さぎょうをするだいは、「まるだい」のほか「角台かくだい」「あやたけだい」「高台たかだい」などの種類しゅるいがあり、ひものかたちやデザインによって使つかけます。帯締おびじめの代表的だいひょうてきかた御岳みたけぐみ」には、まるだい使つかいます。いとかれたヨーヨーのような「たま」が24あり、それを複雑ふくざつ順番じゅんばん交差こうさすることで均一きんいつ模様もようはいったひもができがります。150~160センチメートルのながさになるまで1週間しゅうかんちかくかかります。

 ◆いろいろなかた ( )は使つかだい

唐組(からぐみ) 拡大
唐組(からぐみ)

御岳組みたけぐみ丸台まるだい

 だいあなをのぞくと、いとまじわってひもになっているのがわかります。このかた御岳組みたけぐみです

綾竹組あやたけぐみ綾竹台あやたけだい

貝ノ口浮舟組かいのぐちうきふねぐみ高台たかだい

唐組からぐみ高台たかだい

江戸組二本原えどぐみにほんばら角台かくだい


龍工房(りゅうこうぼう)の看板製品(かんばんせいひん)・帯締(おびじ)めを手(て)にする福田隆(ふくだたかし)さん(左(ひだり))。隆太(りゅうた)さんが持(も)っているバッグは組(く)みひもの技術(ぎじゅつ)で作(つく)っています 拡大
龍工房(りゅうこうぼう)の看板製品(かんばんせいひん)・帯締(おびじ)めを手(て)にする福田隆(ふくだたかし)さん(左(ひだり))。隆太(りゅうた)さんが持(も)っているバッグは組(く)みひもの技術(ぎじゅつ)で作(つく)っています

 ●「りゅう工房こうぼう

http://ryukobo.jp

東京都中央区とうきょうとちゅうおうく日本橋富沢町にほんばしとみざわちょう4の11

 いまからやく130ねんまえ家業かぎょうとしてみひもづくりをはじめました。1963ねんたかしさんのちちである万之助まんのすけさんがいま工房こうぼう東京都中央区日本橋富沢町とうきょうとちゅうおうくにほんばしとみざわちょう)を創業そうぎょうさくねん現代げんだい名工めいこう」にえらばれたたかしさんが2代目だいめ隆太りゅうたさんが3代目だいめいでいます。


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は5がつ26にち一部地域いちぶちいきは27にち)に掲載けいさいします。

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