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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

江戸切子 華硝 江戸で生まれたガラス芸術

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「米つなぎ」模様のワイングラス。グラスの曲面に楕円の粒を均一に削る技は2代目・隆一さんしかできません
「米つなぎ」模様のワイングラス。グラスの曲面に楕円の粒を均一に削る技は2代目・隆一さんしかできません

 げると青空あおぞら東京とうきょうスカイツリーがっています。東京とうきょう亀戸かめいどはまさに「江戸えど下町したまち」。この一帯いったい戦後せんごちいさなガラス工場こうじょうならんでいました。ちかくにかわながれているため、水運すいうん使つかって原料げんりょう仕入しいれ、完成かんせいした製品せいひんそとはこんでいました。でも、現在げんざいはほとんどが住宅地じゅうたくちわってしまいました。「はなしょう」は、そんな住宅地じゅうたくち一角いっかくで、いまも「江戸切子えどきりこ」とばれるガラス工芸こうげいつくつづけている工房こうぼうです。

 「切子きりこ」とは「った」、つまり「カットした」という意味いみで、ガラスをけずって模様もようけた製品せいひんびます。ガラスの彫刻ちょうこくといわれることもありますが、実際じっさいには、砥石といしけずって模様もようえがいています。

ガラスをけず

華硝の工房。手前の2人は「割り出し」作業を、奥では削り作業をしています
華硝の工房。手前の2人は「割り出し」作業を、奥では削り作業をしています

 工房こうぼうはいってみました。まだわか職人しょくにんさんたちがそれぞれ、分担ぶんたんしながら切子きりこづくりにはげんでいました。作業さぎょうはまず、いろのついたガラスのうつわに、模様もよう目安めやすとなる縦横たてよこせんく「し」からはじまり、それに沿って「グラインダー」という研削けんさく使つかみずをかけながら円盤状えんばんじょう砥石といしけずります。おおきなせんけずる「あらり」、さらにダイヤモンドのこなられた砥石といしかみよりほそせんけずる「仕上しあげダイヤ」へとすすみます。高速こうそく回転かいてんする円盤えんばんにガラスがれる「キーン」というするどおと工場こうじょうないひびいています。

(右から)江戸切子が完成するまで
(右から)江戸切子が完成するまで

手磨てみがきがかがや

 この段階だんかいこまかな模様もようきざまれていますが、切子きりこかがやきは、しろっぽいけず部分ぶぶん透明とうめいにする「みがき」の作業さぎょうまれます。みずいたみがみが方法ほうほうと、薬品やくひんひたす「酸磨さんみがき」があり、工房こうぼうによってやりかたちがいます。

 はなしょう代目だいめ熊倉くまくら隆行たかゆきさん(40)は「うちではすべて(みが使つかった)手磨てみがきです」とむねります。「ガラスにわせて最適さいてきかがやきがつくれる」という手磨てみがきのわざ試行錯誤しこうさくごされた企業秘密きぎょうひみつです。グラスやぐいみなど、製品せいひんおおくは生活せいかつざっです。ごしごしあらえる強度きょうど繊細せんさいうつくしさは、このみがきのわざによって完成かんせいします。

細かい模様を削り出す熊倉隆行さん
細かい模様を削り出す熊倉隆行さん

 ひかりたるとキラキラとひか切子きりこグラスは、まるで万華鏡まんげきょうのよう。ひとひとつが手作てづくりの、ふたつとしておなじものはない芸術げいじゅつひんなのです。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん吉田よしだ航太こうた

いろ透明とうめいの2そう

 切子きりこほどこまえのグラスやうつわは、切子きりこ工房こうぼうとはべつ会社かいしゃつくっています。あか瑠璃色るりいろなど、一見いっけん全面ぜんめん一色いっしょくですが、じつは、無色透明むしょくとうめいのガラスの表面ひょうめんいろガラスがおおっていて「2そう」になっています。こうしたガラスを色被いろきせガラスといいます。表面ひょうめんいろガラスをけずり、なか透明とうめい部分ぶぶんすことで模様もようかびがりかがやきます。

体験たいけんできるよ

 はなしょうでは、一般いっぱんひとけの教室きょうしつ開設かいせつ職人しょくにんさんの指導しどうけながら、本格ほんかくてき切子きりこづくりに挑戦ちょうせんできます。やく100にん参加さんかしており、なかには中学生ちゅうがくせいも。「危険性きけんせいはないので、小学生しょうがくせいでも体験たいけん可能かのうです。夏休なつやすみの自由研究じゆうけんきゅう挑戦ちょうせんしたもいました。いろいろと工夫くふうすること、モノをつくることがきなひとにはたのしいとおもいます」と隆行たかゆきさん。

 ※実施状況じっしじょうきょうはホームページをごらんください。

ひとひとつがちがかがや

 隆一りゅういちさんによると、外国がいこくには日本にっぽん切子きりこ同様どうように「カットガラス」がありますが、海外かいがいはガラスを研削機けんさくきしたけずるのに、日本にっぽんうえけずります。「うえでやったほうこまかな仕事しごとができます。AI(人工知能じんこうちのう)を使つかえば精密せいみつ作業さぎょう機械きかいでできますが、一個いっこいっちがかがやきと華麗かれいさこそが江戸切子えどきりこ醍醐だいご」と隆一りゅういちさん。

 ◆はじまり

ビードロ加賀屋かがや久兵衛きゅうべえ

 「江戸切子えどきりこ」は江戸時代えどじだいわりごろ、江戸えど日本橋にほんばしちかくのビードロ(ガラス)加賀屋かがや久兵衛きゅうべえがメガネなどに使つかうイギリスせいガラスをけずって模様もようけたのがはじまりとされます。ガラスはもともと、長崎ながさき出島でじまにオランダ商人しょうにんたちがはこんできたものですが、江戸時代えどじだい後半こうはんにはびんやメガネの材料ざいりょうとして流通りゅうつうはじめました。ヤスリなどを使つかって模様もようけたのでしょうが、貴重きちょうなガラスにキズをけるのは、なか実験じっけんだったかもしれません。それから100ねん以上いじょう途絶とだえることなく、見事みごと職人しょくにんわざによってつくられつづけている江戸切子えどきりこは2002ねんくに伝統的工芸品でんとうてきこうげいひん認定にんていされています。

 ◆模様あれこれ

 模様もようおおくは着物きものがらからたものです。「矢来やらい」「籠目かごめ」「魚子ななこ」などの伝統でんとうてき模様もようがあり、いずれもよけややくよけ、健康けんこうなどの意味いみふくんでいます。これとはべつはなしょうには伝統でんとう模様もようから発展はってんさせた「あさつなぎ」「こめつなぎ」「たま市松いちまつ」「いときくつなぎ」などの独自どくじのデザインもあります。なかでも米粒こめつぶかさなったような「こめつなぎ」は2代目だいめ熊倉くまくら隆一りゅういちさん(72)しかできない名作めいさく。2008ねん北海道ほっかいどう洞爺湖とうやこサミットで各国かっこく首脳しゅのうおくられたワイングラスもこのデザインでした。

 ◆伝統でんとう模様もよう

矢来やらい

 するどが「る」。邪気じゃきはら

籠目かごめ

 かごのひとひとつが「見張みはる」。よけ

魚子ななこ

 うろこ模様もよう脱皮だっぴあらわし「やくとし再生さいせいする」。やくよけ

 ◆はなしょうオリジナル模様もよう

 あさつなぎ

 たま市松いちまつ

 いときくつなぎ

 こめつなぎ


 ●江戸切子えどきりこみせ はなしょう

 東京都江東区とうきょうとこうとうく亀戸かめいど3の49の21

 03・3682・2321

 https://www.edokiriko.co.jp/

 亀戸かめいど天満宮てんまんぐうちかくにある「はなしょう」では1かい工房こうぼうで8にん職人しょくにん日々ひび切子きりこ制作せいさくつづけています。製造せいぞうから直販ちょくはんまでをおこない、3かい店舗てんぽにはいろとりどりの切子きりこならんでいます。1まんえん程度ていどからすうじゅうまんえんまで。おもにおいわいごとのプレゼントようもとめるにんおおいそうです。

協力きょうりょく 江戸東京えどとうきょうきらりプロジェクト


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は6がつ23にち一部地域いちぶちいきは24)に掲載けいさいします。

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