「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」にちなんでICANと名付けられた品種のバラ。うしろはICAN国際運営委員の川崎哲さん(左)と女優のサヘル・ローズさん=東京都多摩市で5月23日
2003年3月20日の夜明け前、アメリカ軍とイギリス軍がイラクへの攻撃を始めました。ミサイルが、首都バグダッドの中心部に撃ち込まれ、火の手が上がる様子がテレビに映し出されています。
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「イラク戦争がいよいよ始まった」。その時、イラクに近い中東の国、カタールにあるアメリカ軍前線司令部にいた私は、急いで記事を書き始めました。なのに……。
書けません。
アメリカは「イラクは核兵器など大量破壊兵器を隠している。世界にとって危険だ」と戦争を始めました。しかしカタールを含めた中東の人々や記者は、疑っていました。「イラクは本当に大量破壊兵器を持っているの?」「フセイン政権がイラク国民を苦しめているとしても、なぜアメリカ軍が攻撃するのか」「攻撃に巻き込まれた市民はどうなるのか」
バグダッド市民の上にミサイルが落ちている……それはアメリカ側から見れば「空爆」です。小さくガッツポーズをしたアメリカ人記者がいました。でも、イラクの市民からみれば「空襲」です。明らかに涙ぐんでいる中東の記者がいました。空爆? 空襲? どちらが正しいの?
日本の当時の総理大臣、小泉純一郎さんはアメリカ支持を表明していました。だから日本政府の立場に立てば「空爆」です。しかし私は政府ではありません。一人の記者、一人の人間として、どの視点に立つべきなのでしょうか。
大阪市の小学4年生、Kさんからの手紙には「どうして日本の自えい隊は世界のためには力をかせないのですか? けん法9条のせいかと思います。日本ががんばれば、アメリカの死ぬ兵士が少なくなると思います。おしえてください」とありました。
私の考えが正しいかどうかは分かりません。でも私はこう考えています。
「世界のため」って、それは本当は「誰のため」なんでしょうか。それは常に正しいのでしょうか。もし間違っていて、そのために誰かを殺したり、誰かが殺されたりしたら、誰が責任を取るのでしょうか。そもそも責任なんて取れるのでしょうか。
イラク戦争で亡くなった市民の数は、少なくとも10万人以上と言われています。しかも、イラクには大量破壊兵器はありませんでした。アメリカ大統領が作った独立調査委員会も05年に認めています。
「日本は戦争はしない」と定めた憲法9条がなければ、自衛隊はアメリカ軍と一緒にイラクの市民を殺害していたかもしれません。
選挙の監視、地雷除去、紛争地域の難民支援、災害援助など、世界には命がけの、大切な仕事が山ほどあります。日本は、武力でない手段で世界に貢献すべきだと私は考えています。
Kさんは私とは違う考えかもしれないけれど、それはそれでいいのです。時代は変わっていき、未来はあなたたち若者のもの。じっくり考え、自分で選んでください。
Kさん、質問をありがとう。【編集長・太田阿利佐】