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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

花火 鍵屋 夜空を見上げて 希望の光

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昨(さく)年(ねん)の第(だい)44回(かい)江戸川区花火大会(えどがわくはなびたいかい)の1シーン「はるかなる富士(ふじ)」。火花(ひばな)の滝(たき)で描(えが)かれた富士山(ふじさん)は、仕掛(しか)け花火(はなび)をつけたワイヤをクレーン車(しゃ)で高(たか)さ50㍍につり上(あ)げています。上空(じょうくう)220㍍では音楽(おんがく)に合(あ)わせて、いくつもの4号(ごう)玉(だま)が幅約(はばやく)300㍍にわたり大輪(たいりん)の花(はな)を咲(さ)かせました。まさに光(ひかり)と音(おと)の一大(いちだい)スペクタクルです=江戸川区(えどがわく)提供(ていきょう)
昨(さく)年(ねん)の第(だい)44回(かい)江戸川区花火大会(えどがわくはなびたいかい)の1シーン「はるかなる富士(ふじ)」。火花(ひばな)の滝(たき)で描(えが)かれた富士山(ふじさん)は、仕掛(しか)け花火(はなび)をつけたワイヤをクレーン車(しゃ)で高(たか)さ50㍍につり上(あ)げています。上空(じょうくう)220㍍では音楽(おんがく)に合(あ)わせて、いくつもの4号(ごう)玉(だま)が幅約(はばやく)300㍍にわたり大輪(たいりん)の花(はな)を咲(さ)かせました。まさに光(ひかり)と音(おと)の一大(いちだい)スペクタクルです=江戸川区(えどがわく)提供(ていきょう)

 あつ日本にっぽんなつ熱帯ねったいをつかの爽快そうかいにしてくれるのが、夜空よぞらいろどる「花火はなび」です。

 残念ざんねんながら今年ことしは、新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで、花火大会はなびたいかいのほとんどが中止ちゅうしになりました。でも、そのわりに、おきゃくさんをあつめない「サプライズ花火はなび」が各地かくちげられています。人々ひとびと元気げんきにする、花火はなびそのものの魅力みりょくうすれてしまったわけではありません。

昨(さく)年(ねん)の第(だい)44回(かい)江戸川区花火大会(えどがわくはなびたいかい)の模様(もよう)はユーチューブ「江戸川区公式(えどがわくこうしき)チャンネル えどがわ区民(くみん)ニュース」https://youtu.be/o19fMOZ9zp4で見(み)られます 拡大
昨(さく)年(ねん)の第(だい)44回(かい)江戸川区花火大会(えどがわくはなびたいかい)の模様(もよう)はユーチューブ「江戸川区公式(えどがわくこうしき)チャンネル えどがわ区民(くみん)ニュース」https://youtu.be/o19fMOZ9zp4で見(み)られます

 「もともと、江戸えど両国りょうごく花火大会はなびたいかいげん隅田川花火大会すみだがわはなびたいかい)は江戸時代えどじだいに、疫病えきびょうふうじを祈願きがんしてはじまったものです」

 東京都江戸川区とうきょうとえどがわくの「宗家花火鍵屋そうけはなびかぎや」15代目だいめ花火師はなびし天野安喜子あまのあきこさん(49)は、コロナ感染かんせん早期そうき終息しゅうそくねがいます。

「宗家花火鍵屋(そうけはなびかぎや)」15代目(だいめ)の天野安喜子(あまのあきこ)さん。法被(はっぴ)の裾模様(すそもよう)は鍵(かぎ)がモチーフになっていて、代(だい)によって少(すこ)しずつ違(ちが)うそうです 拡大
「宗家花火鍵屋(そうけはなびかぎや)」15代目(だいめ)の天野安喜子(あまのあきこ)さん。法被(はっぴ)の裾模様(すそもよう)は鍵(かぎ)がモチーフになっていて、代(だい)によって少(すこ)しずつ違(ちが)うそうです

 鍵屋かぎや創業そうぎょう江戸時代えどじだい初期しょきの1659ねん今年ことしで361ねんという、日本にっぽんもっとふる花火師はなびし屋号やごうです。花火はなびとはえんふか東京とうきょうですが、都市化としかすすんだいまは、けっして花火はなびげやすい土地とちではありません。建物たてもの密集みっしゅうしているため、げる花火はなびおおきさや場所ばしょにも制限せいげんがあり、そのうえまちひかりおおく、鍵屋かぎやではつねに「安全性あんぜんせい」と「うつくしさ」の両面りょうめんで、わざみがきをかけてきました。「そのひとつが遠隔操作えんかくそうさ開発かいはつです」と天野あまのさん。より安全あんぜんげるため、スイッチをせば点火てんかできる電気でんき点火てんか改良かいりょうつとめています。

わき感性かんせい大事だいじ

 現在げんざい鍵屋かぎやは、花火大会はなびたいかい総合そうごうプロデュースをしています。たとえば、東京とうきょう2大花火だいはなび大会たいかいひとつで、さくねんは139万人まんにんあつまった「江戸川区花火大会えどがわくはなびたいかい」では、1時間じかん15ふんげを仕切しきりました。

 どんな花火はなびをおきゃくさんにせるか――すべてはここからはじまります。やっつのシーンで構成こうせいしたスケッチには、刻々こっこく変化へんかしていく花火はなびさまこまかくかきまれていました。このイメージにそって花火製造業者はなびせいぞうぎょうしゃ連携れんけいして、花火はなびだまづくりや、仕掛しかけの準備じゅんびととのえられていきます。

 大会たいかい当日とうじつ天野あまのさんが陣取じんどるのは、げのつつがずらりとなら河川敷かせんしき安全あんぜん重視じゅうしなか現場げんばはたらやく100にんもの花火師はなびしたちを統括とうかつする、指揮者しきしゃのような存在そんざいです。げがはじまると、全体ぜんたいながれをながら、点火てんか瞬間しゅんかん指示しじするのが役割やくわりです。

 「重要じゅうようなのが『』ですね。その天気てんき季節きせつによって、げるリズムを微妙びみょうえて、おきゃくさんのワクワクかんします」

 おおきなおとひかり興奮こうふんするほど、あと余韻よいんはなんともえません。

 「花火はなびいろかたちひかりおとよっつの要素ようそかさなりってできる総合そうごう芸術げいじゅつです」

 15代目だいめ襲名しゅうめいして20ねんおも伝統でんとうですが、大切たいせつにしているのは「わきてくる感性かんせい」と天野あまのさん。

 「人間にんげんって、そら見上みあげると、元気げんき勇気ゆうきてくるでしょう。花火はなびには不思議ふしぎちからがあるとおもいます。ぜひ、本物ほんもの花火はなびて、活力かつりょくをもらってください」【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん吉田よしだ航太こうた須藤知子すどうともこ


 ◆花火はなびができるまで

 
 

一重芯物ひとえしんもの

 甲州こうしゅう花火はなび有名ゆうめい山梨県市川三郷町やまなしけんいちかわみさとちょう。そのやまあいにある斉木さいき煙火えんか本店ほんてんでは、鍵屋かぎや花火はなびつくっています。「斉木さいきさんの花火はなびいろ多彩たさいです」と天野あまのさん。花火師はなびし佐々木ささきひろしさん(32)につくかたきました。

1 配合(はいごう)剤(ざい)を作(つく)る 拡大
1 配合(はいごう)剤(ざい)を作(つく)る

 1 配合はいごうざいつく

 ほのおいろかたなどを変化へんかさせるこなをいろいろわせ、ふるいます。種類しゅるいりょう加減かげんで、ひかりいろおとなどがちがってきます。

 2 ほしけ……ほしつく

2 星(ほし)掛(か)け……星(ほし)を作(つく)る 拡大
2 星(ほし)掛(か)け……星(ほし)を作(つく)る

 直径ちょっけいやく2ミリメートルの粘土ねんどつぶに、配合はいごうざいみずをまぶしてつくります。おおきなかまでかきつづけ、すこおおきくなったら天日てんぴ乾燥かんそう。これを1にちに5かいかえすと、直径ちょっけいやく0.5ミリメートルおおきくなります。

2 星(ほし)掛(か)け……星(ほし)を作(つく)る 拡大
2 星(ほし)掛(か)け……星(ほし)を作(つく)る

 いろ変化へんかする花火はなびは、このほしけで仕込しこみます。「イメージどおりにできているかは完成かんせいしてからでないとためせないのがなやましい」と佐々木ささきさん

(1)玉(たま)の半分(はんぶん)に親導(おやみち)(導火線(どうかせん))をつけます。 拡大
(1)玉(たま)の半分(はんぶん)に親導(おやみち)(導火線(どうかせん))をつけます。

 3 たま

(2)玉(たま)皮(がわ)に沿(そ)って星(ほし)をすき間(ま)なく並(なら)べます。 拡大
(2)玉(たま)皮(がわ)に沿(そ)って星(ほし)をすき間(ま)なく並(なら)べます。

(1)たま半分はんぶん親導おやみち導火線どうかせん)をつけます。

(3)その上(うえ)に和紙(わし)を敷(し)きます。 拡大
(3)その上(うえ)に和紙(わし)を敷(し)きます。

(2)たまがわ沿ってほしをすきなくならべます。

(4)割火薬(わりかやく)(花火(はなび)玉(だま)を割(わ)るための火薬(かやく))を入(い)れます。 拡大
(4)割火薬(わりかやく)(花火(はなび)玉(だま)を割(わ)るための火薬(かやく))を入(い)れます。

(3)そのうえ和紙わしきます。

(5)半円(はんえん)ずつ作(つく)り、合体(がったい)。 拡大
(5)半円(はんえん)ずつ作(つく)り、合体(がったい)。

(4)割火薬わりかやく花火はなびだまるための火薬かやく)をれます。

(5)半円(はんえん)ずつ作(つく)り、合体(がったい)。 拡大
(5)半円(はんえん)ずつ作(つく)り、合体(がったい)。

(5)半円はんえんずつつくり、合体がったい

(6)はみ出(だ)した和紙(わし)を切(き)り取(と)り、テープで固定(こてい)します。 拡大
(6)はみ出(だ)した和紙(わし)を切(き)り取(と)り、テープで固定(こてい)します。

(6)はみした和紙わしり、テープで固定こていします。

火薬(かやく)の詰(つ)まり具合(ぐあい)は音(おと)で確認(かくにん) 拡大
火薬(かやく)の詰(つ)まり具合(ぐあい)は音(おと)で確認(かくにん)

 火薬かやくまり具合ぐあいおと確認かくにん

4 玉(たま)貼(は)り 拡大
4 玉(たま)貼(は)り

 4 たま

 たまめがわったたまに、のりをったクラフトなんじゅうにもり、天日てんぴかわかします。花火はなびひらおおきさにおうじて、ってはかわかしをかえし、強度きょうど調整ちょうせいします。

 上空じょうくう花火はなびがきれいなきゅうえがけるかは、割火薬わりかやく玉貼たまはりの枚数まいすうのバランスでまります


和火わび」と「洋火ようび

 日本にっぽん花火はなびいろは「和火わび」と「洋火ようび」にかれます。伝統でんとうてきなだいだいいろで、ようあかあおみどりむらさききんぎんの7しょく基本きほんです。火薬かやく金属きんぞく化合物かごうぶつなどをぜることで、えるとき化学反応かがくはんのう炎色反応えんしょくはんのう)をこし発色はっしょくします。たとえばあかはストロンチウム、あお酸化銅さんかどうです。こうした金属きんぞく化合物かごうぶつ日本にっぽんはいってきたのは明治以降めいじいこう。つまり、江戸時代えどじだい花火はなびは「和火わび一色いっしょくでした。

 ●平和へいわ象徴しょうちょう

 中国ちゅうごく発明はつめいされた火薬かやくはヨーロッパにつたわり、武器ぶきとして使用しようされる一方いっぽうで、平和利用へいわりようとして「花火はなび」が発展はってんしました。日本にっぽんには戦国時代せんごくじだい、ポルトガルじんによって鉄砲てっぽうとともに火薬かやくつたわり、天下統一てんかとういつにも影響えいきょうおよぼしました。江戸時代えどじだいになって平和へいわとなり、花火はなび材料ざいりょうとしての用途ようとえました。花火はなび平和へいわ象徴しょうちょうでもあるのです。

 ●江戸えど風物詩ふうぶつし

 「鍵屋かぎや」は、奈良ならから江戸えど初代しょだい弥兵衛やへえが、1659ねん隅田川すみだがわちかくの日本橋横山町にほんばしよこやまちょう開業かいぎょう植物しょくぶつのアシのくだに、った火薬かやくたまをつけた手持ても花火はなびしたのがはじまりです。だい飢饉ききん大勢おおぜい病死びょうししゃていた1733ねん慰霊いれい病気びょうき終息しゅうそくいのった隅田川すみだがわ川開かわびらき(水神祭すいじんさい)で花火はなびげたのが、なつ花火大会はなびたいかい起源きげんといわれます。1808ねんには鍵屋かぎやからのれんけした「玉屋たまや」も創業そうぎょう。「かぎや~」「たまや~」という庶民しょみんごえとともに、花火師はなびしたちが花火はなびうつくしさをきそ風景ふうけいは、江戸えどなつ風物詩ふうぶつしとして、浮世絵うきよえにもおおえがかれました。

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 ●宗家花火鍵屋そうけはなびかぎや

〒132-0033 東京都江戸川区東小松川とうきょうとえどがわくひがしこまつがわ2の28の21

 「鍵屋かぎや」の由来ゆらいは、守護神しゅごしんだったお稲荷いなりさんをまもるキツネのいっぴきが「かぎ」をくちにくわえているところから、屋号やごうにしたとか。15だいはじめて女性じょせい襲名しゅうめい。「ようやく女性じょせいかみ宿やどるとわれる現場げんばはいれる時代じだいになりました」と天野安喜子あまのあきこさん。


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は9がつ22にち一部地域いちぶちいきは23にち)に掲載けいさいします。

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