なぜ寝るとき、ヒツジの数を数えるの?数えるほど眠れなくなります(東京都町田市、小6、男子)
◆コーノさん
集中しすぎると
眠れなくなるときってあるよね。明日朝早く起きなければならないときに限って眠れなくなったりするね。あなたは、日本語で「ヒツジが1匹、ヒツジが2匹……」とか言ってないかな。それじゃ眠れなくなるはずだよ。ヒツジを数えると眠れるというのは、もともと英語を話す国で考えられた方法だよ。だから、ヒツジは英語で「sheep」というから、「ワン・シープ、ツー・シープ……」と数えるんだ。
「シーープ」とのばして発音すると、深く呼吸する感じがする。日本語でも寝ている時「すー、すー」とか寝息をたてるけど、それに似た音で、呼吸が整って、落ち着く気がする。これならば「ヒツジが1匹」より眠れそうだね。
でも、数えるのに集中すれば、結局は同じことで、やっぱり眠れなくなると思うな。それよりももっと眠りやすくなる方法はたくさんあると思うよ。わたしは、寝る少し前にお風呂に入ると、よく眠れるけど、試してみて。
◆ムラセさん
「中途半端」が大切
よく分かるなあ。僕も、眠ろうって思いすぎて眠れなくなる時がある。考えれば考えるほど、やりたいことができなくなる。こういうことはよくある。本を読むことに集中しようと意識しすぎると、逆に本に集中できなくなる。
だから、眠るためにはむしろ眠ろうとしていることをちょっとだけ忘れないといけない(完全に忘れちゃダメだよ)。眠ろうと意識はしないけど、眠りに落ちるのを待つ。「中途半端」が大切だ。
ただ、寝ることの難しいところはここだ。読書は、やることがはっきりしているから、読書しようという意識を少し忘れれば集中しやすい。だけど、寝る時はやることがはっきりしない。ジッと動かないとか、意識がうすらいでいくのを待つとか、何をどうしていいか分からない。中途半端が難しい。
ヒツジの数を数えるのは、実はこの「中途半端」になるのに役に立ったりする。やることがはっきりして、数を数えたくなってしまうのだと思うよ。
◆ツチヤさん
社会で生きる私たち
逆から考えてみよう。あなたは無人島で一人で暮らしている。木の実や魚が豊富で食べ物には困らず、仕事をせずとも一人で生きていける。そのときあなたは、寝るときにヒツジの数を数えるだろうか?
たぶん数えないだろう。眠くなったら好きなだけ寝て、いつでも好きなときに起きられる生活の中では「寝なくちゃ!」と思うようなことがそもそも起こらないからだ。
僕らがそんな生活を送れないのは、他の人たちと一緒に社会の中で生活しているからだ。無人島ではなく町や村で暮らす僕らは、一日だって他の人と全く関わらずに生きることはできないんだ。このため僕らは、周りの人と一緒のリズムで生活しなくちゃならない。だから、たとえ眠れなくても、朝になったらちゃんと起きて、みんなと一緒にいつもの生活を繰り返さなければならない。
僕らがヒツジの数を数えてまで必死で寝ようとするのは、僕らが社会的な動物だからなんだ。<イラスト・熊谷理沙>
◆哲学カフェは、一つだけの正解がない問いを語り合う哲学対話です。
■ツチヤさん…土屋陽介
勉強は苦手だが考えるのは好きな子どもを経て大学で哲学と出会う。哲学対話と落語が好き。開智国際大准教授
■コーノさん…河野哲也
心とからだの関係に関心がある。子どもと哲学の話し合(はな あ)いをするのが好き。イヌと走るのが趣味。立教大教授
■ゴードさん…神戸和佳子
なぜ生きるのか考えていたら、哲学者に。口癖は「そもそも」。公立・私立の中学高校で非常勤講師
■ムラセさん…村瀬智之
考える事が好きで哲学を学んだ。賢い人はどんな人かを考え中。ラジオを愛する40代。東京高専准教授
■マツカワさん…松川えり
科学と社会の関係に関心がある。小食なのに食いしん坊。哲学対話を開催する団体「カフェフィロ」副代表
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