<みんなの目>
アメリカの最高裁判所のギンズバーグ判事(87)が亡くなりました。共和党のトランプ大統領は後任の判事を選ぼうとしていますが、民主党は「11月の大統領選挙で選ばれた人が決めるべきだ」と反発しています。これはどういうことなのでしょうか。
判事に定年なし
日本もアメリカも裁判所には、まず地方裁判所があり、そこでの判決が不服なら、高等裁判所に「もう一度判断して」と頼むことができます。これを「控訴」といいます。高等裁判所にあたるものはアメリカでは控訴裁判所といいます。そこでの判決にも不服なら、最終的に最高裁判所に訴えることができます。ここでの判断が最終決定です。
ここまでは日本とアメリカはよく似ているのですが、違いもあります。たとえば日本の最高裁判所の判事(裁判官)は長官を含めて15人ですが、アメリカは9人しかいません。判決は多数決で決めるので、わざと奇数にしているのです。
日本の最高裁判事の定年は70歳ですが、アメリカの最高裁判事に定年はありません。本人が辞めるか亡くなるかしない限り、ずっと裁判官でいられるのです。これは「お前なんか辞めさせてやる」という圧力をかけられることなく良心にしたがって判決を出せるようにするためです。
「期待の星」が…
9人の判事のうち、ルース・ベイダー・ギンズバーグさんが9月18日、亡くなりました。ギンズバーグさんは最高裁判所の女性の判事としては2人目で、女性の地位向上や差別反対の立場から最高裁の中の保守派の男性判事と激論を交わしてきました。
同性婚を認めてもいいというリベラルな立場だったので、リベラルな立場の人が多い民主党支持者からは「期待の星」と呼ばれ、愛されていました。頭文字をとって「RBG」という愛称で呼ばれていたほどです。
ギンズバーグさんが亡くなったため、トランプ大統領は後任を選ぼうとしています。最高裁判事が欠員となった場合は、大統領が後任を指名し、議会上院で過半数の賛成があれば就任します。ところが、これが大変な論議を生んでいます。
保守派の影響力強まる?
トランプ大統領は保守的な立場の共和党の大統領。リベラルなギンズバーグさんの後任に保守的な判事を任命しようとしているのです。これまでの判事は保守派が5人、リベラル派が4人ですが、ギンズバーグさんの後任が保守派になれば、保守対リベラルは6対3となり、最高裁判所はいまよりずっと保守的になりそうです。
保守派の中には同性婚を認めるべきではないと考える人もいます。最高裁は2015年に同性婚を認める判決を出していますが、「同性婚を認めるかどうか」という裁判が再び起こされたら、前の判決がくつがえされるのではないかという見方が出ています。
トランプ大統領のこの動きに対して、民主党は「まもなく行われる大統領選挙で当選した人が判事を任命すべきだ」と主張しています。民主党のバイデン候補が当選すれば、後任もリベラル派にできるからです。
果たしてどうなるのか。最高裁の判事をめぐっても対立するのが今のアメリカなのです。<え・藤井龍二>
池上彰さん[ジャーナリスト]
1950年長野県生まれ。NHKで報道記者やニュースキャスターを務めた。2005年からフリーのジャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。著書に「池上彰の親子で新聞を読む!」など多数。