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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

江戸箒 白木屋伝兵衛 「古くて新しいエコ」な日用品

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「江戸箒」の説明をする高野純一さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
「江戸箒」の説明をする高野純一さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
作業場で江戸箒を仕上げていく職人の神原良介さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
作業場で江戸箒を仕上げていく職人の神原良介さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
選んだ穂を1本ずつ編み上げていく=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
選んだ穂を1本ずつ編み上げていく=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
希少な国産草を選別して最上の基準と判断された草を使用している江戸長柄箒=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
希少な国産草を選別して最上の基準と判断された草を使用している江戸長柄箒=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
各種ほうき=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
各種ほうき=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきなど=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきなど=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきと束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきと束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
それぞれヤシ(左)とシュロで作られた束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
それぞれヤシ(左)とシュロで作られた束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
羽二重正絹ハタキ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
羽二重正絹ハタキ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
はりみ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
はりみ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
草選りされた後にまとめられた穂=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
草選りされた後にまとめられた穂=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきそれぞれの編み上げが異なる=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきそれぞれの編み上げが異なる=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
収穫前のホウキモロコシ。トウモロコシに似ています=白木屋伝兵衛提供
収穫前のホウキモロコシ。トウモロコシに似ています=白木屋伝兵衛提供
原材料のホウキモロコシ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
原材料のホウキモロコシ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロの木
シュロの木
ササのほうきやはたきを使ってすすを払う神職や巫女ら=神戸市中央区の生田神社で2019年12月、峰本浩二撮影
ササのほうきやはたきを使ってすすを払う神職や巫女ら=神戸市中央区の生田神社で2019年12月、峰本浩二撮影

 としもあと1かげつあまり。部屋へやつくえのまわりはらかっていませんか? 12がつといえば大掃除おおそうじ季節きせつ。そんなとき役立やくだちそうなのが日本にっぽんふるくから使つかわれてきた「ほうき」です。

 この電化製品でんかせいひんがまだなかった時代じだい日本にっぽん、いや世界せかい掃除そうじ道具どうぐのエースはほうきでした。とくたたみ部屋へやおおかった日本にっぽん住居じゅうきょでは、シュロのかわやホウキグサといった、植物しょくぶつ穂先ほさきの「ぼうき」が使つかわれていました。イグサでできた畳表たたみおもて相性あいしょうがよく、使つかつづけるうちにたたみにつやがてきます。

 東京とうきょう京橋きょうばしにある江戸えどほうき老舗しにせ白木屋しろきや伝兵衛でんべえ」では、その伝統でんとういだ「江戸えどほうき」をいま手作業てさぎょうつくつづけています。店内てんない一角いっかくには作業場さぎょうばがあり、今年ことしで11ねんという職人しょくにん神原かんばら良介りょうすけさん(41)がれたつきで、ほうきをんでいました。

 「ちょうど今年ことしあたらしいくさはいったばかりです。あおくてかおりがいいでしょう」。模様もよううつくしい江戸えどほうきですが、その基本きほん使つかいやすさ。「あくまでも工芸こうげいひんではなく、使つか勝手がっていのち日用品にちようひんですからね」

裏切うらぎかる

 むかし生活必需品せいかつひつじゅひんとして全国各地ぜんこくかくちつくられていたぼうきですが、現在げんざい伝統でんとう姿すがたつくつづけているのは国内こくないすうしょ東京とうきょうではここだけです。店内てんない説明せつめいしてくれた高野純一たかのじゅんいちさん(48)によると、江戸えどほうき特徴とくちょうは、上質じょうしつのホウキモロコシがすしなやかなこしと、手首てくびへの負担ふたんすくなさだといいます。

 「たけ部分ぶぶんと、くさんだ穂先ほさきのバランスで、ったときかるさがわります。野球やきゅうのバットでも、どこをつかでかんじるおもさがちがうのとおなじです」

 かるさをす「重心じゅうしん分散ぶんさんさせる」かたは、白木屋しろきやなが歴史れきしなかつちかわれたもの。「ひとつの完成かんせいけいだとおもっています。えるところはありません」。手渡てわたされた長柄ながえ江戸えどほうきは、たしかに裏切うらぎかるさです。ぎゅっとまれた穂先ほさきのようにうごき、ゆかをはくとバネのような手応てごたえです。すべて手作業てさぎょうなので、ねんかんつくれるのは3にん職人しょくにんで2000ぼんほどだそうです。

現代人げんだいじん生活せいかつ

 「使つかれると、ほうきほど手軽てがる使つかいやすい掃除そうじ道具どうぐはないですよ」

 ごろ、自宅じたくでもほうきを使つかんでいる高野たかのさんは、マンションらしがおお現代人げんだいじん生活せいかつに、じつはとてもっているといいます。電気でんきがなくても、コードがとどかなくても使つかえる▽おと振動しんどうがしないので周囲しゅういにせずいつでも使つかえる▽せまくても、どんなかたち部屋へやでも、段差だんさがあるところでも使つかえる――。「ほうきだと、気付きづいたときにさっとしてはける。掃除そうじひと仕事しごとでなくなるんです」。穂先ほさきいたんだらって使つかい、みじかくなったら玄関げんかんように。用途ようとえながら使つかつづけ、使命しめいまっとうしたほうきは、最後さいごやしても有害物質ゆうがいぶっしつません。

周回しゅうかいおくれ? 時代じだい先頭せんとう

 「たけとホウキグサという天然素材てんねんそざいだけでできたむかしながらのほうきをわたしたちは大切たいせつに、黙々もくもくつくつづけてきました。それがいまでは環境かんきょうやさしい道具どうぐというあらたな価値かちになりました。ずっと周回遅しゅうかいおくれ(時代遅じだいおくれ)のほうきづくりをつづけてきたところ、なかほう激変げきへんして、いまでは時代じだい先頭せんとうはしっている……。そんなかんじですかね」

 そうってわら高野たかのさん。だれもがあたらしい生活様式せいかつようしきさがしている昨今さっこんですが、案外あんがい過去かこらしのなかに、そのヒントがありそう。江戸えどほうきには、「エコなかた」とわれる江戸時代えどじだいひとたちのらしの知恵ちえが、まっているのです。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん内藤ないとう絵美えみ

ホウキモロコシ 産地さんちのこすために

 江戸箒えどほうき特有とくゆうこしむ「ホウキモロコシ」はアフリカ原産げんさんのイネ植物しょくぶつ。5がつはじめにはたけたねをまくとぐんぐんそだち、8がつわりにはたかさ2~4メートルに。稲穂いなほのような穂先ほさきからはらったものが、ほうきの材料ざいりょうになります。白木屋しろきやではおも茨城いばらき・つくばさん神奈川かながわ三浦みうらさん山形やまがた東根ひがしねさんのものを使つかっています。むかし稲作いなさく以外いがい換金かんきん作物さくもつとして各地かくちつくられてきましたが、生産者せいさんしゃ高齢化こうれいかもあり、産地さんち一方いっぽうです。危機ききかんじた白木屋しろきやでは、ほうき文化ぶんか継承けいしょう一環いっかんとして生産せいさん農家のうか指導しどうあおぎ、社員しゃいん総出そうで栽培さいばいから収穫しゅうかくまでをしはじめました。


 ■掃除そうじ道具どうぐあれこれ

 ●ほうき ≫ポイントは穂先ほさき

 「おな方向ほうこうばかりではくと、穂先ほさきにくせがつくので、ときどきくるりと回転かいてんさせて使つかうといいですよ」と神原かんばらさん。使つかわないときは、つるして保管ほかんしましょう。

 ●はりみ ≫和紙わしの「ちりり」≪

 ほうきであつめたごみやちりをすくうのにかせないのがちりり。白木屋しろきやでは、たけひごの骨組ほねぐみに和紙わしり、最後さいご防虫ぼうちゅう効果こうかもある柿渋かきしぶって仕上しあげた和製わせいちりり「はりみ」もつくっています。原形げんけい農具のうぐの「」ですが、「はいる」を連想れんそうする縁起えんぎをこめたネーミングとか。プラスチックや金具かなぐちがって静電気せいでんきこらず、あつめたちりがきれいに処理しょりできます。

 ●さい利用りようでたわしに

 なべ食器しょっきなどをゴシゴシとあらときにつかう「たわし」も、もとは使つかふるしたほうきの穂先ほさきをほどき、しばって再利用さいりようしたのがはじまりでした。とくにほうきの原料げんりょうにもなるシュロは繊維せんい丈夫じょうぶなため、ひろ使つかわれてきました。昭和しょうわになるとやすいパームヤシが使つかわれるようになります。その、カメのようなかたちをした「かめたわし」がだいヒットし、たわしの代名詞だいめいしのようになりました。

 ≫シュロいろいろ≪

 左端ひだりはしがシュロのかわ。シュロのほうきは江戸えどほうきよりも歴史れきしふるぼうき。繊維せんいつよく、かつては、ほうきを再利用さいりようして、いろいろなたわしがつくられました

 ●はらきよめる縁起物えんぎもの

 ごみやちりをはらうのがほうき本来ほんらい役割やくわりですが、危険きけん邪気じゃき病気びょうきわるいことを「おはらいする」ための縁起物えんぎものでもあります。安産祈願あんざんきがん無病息災むびょうそくさい五穀豊穣ごこくほうじょう家内安全かないあんぜんなどねがいはさまざま。一方いっぽう、12がつ13にちには「すすはらい」が全国ぜんこく寺社じしゃなどであります。いわゆる大掃除おおそうじです。いちねん心身しんしんのけがれをはらい、きよらかな気持きもちでしんねんむかえるための行事ぎょうじで、まいとし風物詩ふうぶつしとしてニュースにもなります。


 ●「白木屋しろきや中村なかむら伝兵衛でんべえ商店しょうてん

東京都中央区京橋とうきょうとちゅうおうくきょうばし3の9の8

https://www.edohouki.com

0120・375・389

 創業そうぎょう江戸時代えどじだい後期こうき天保てんぽうがん(1830)ねんいま東京とうきょう銀座ぎんざ畳表たたみおもてあつか商店しょうてんとして創業そうぎょう。2代目だいめのころに現在げんざい中央区京橋ちゅうおうくきょうばし移転いてん当時とうじこのあたりはたけかんする仕事しごとあつまる「たけ河岸がし」とばれていたそうです。白木屋しろきやでは「江戸えどほうき」のほか各種かくしゅほうきや掃除そうじ道具どうぐ製造せいぞう販売はんばいしています。


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は12がつ22にち一部地域いちぶちいきは23にち)に掲載けいさいします。

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