「江戸箒」の説明をする高野純一さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
作業場で江戸箒を仕上げていく職人の神原良介さん=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
選んだ穂を1本ずつ編み上げていく=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
希少な国産草を選別して最上の基準と判断された草を使用している江戸長柄箒=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
各種ほうき=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきなど=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
シュロを使ったほうきと束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
それぞれヤシ(左)とシュロで作られた束子=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
羽二重正絹ハタキ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
草選りされた後にまとめられた穂=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきそれぞれの編み上げが異なる=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ほうきの使い方=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
収穫前のホウキモロコシ。トウモロコシに似ています=白木屋伝兵衛提供
原材料のホウキモロコシ=東京都中央区で10月6日、内藤絵美撮影
ササのほうきやはたきを使ってすすを払う神職や巫女ら=神戸市中央区の生田神社で2019年12月、峰本浩二撮影
今年もあと1か月余り。部屋や机のまわりは散らかっていませんか? 12月といえば大掃除の季節。そんな時に役立ちそうなのが日本で古くから使われてきた「ほうき」です。
この世に電化製品がまだなかった時代、日本、いや世界の掃除道具のエースはほうきでした。特に畳の部屋が多かった日本の住居では、シュロの木の皮やホウキグサといった、植物が穂先の「和ぼうき」が使われていました。イグサでできた畳表と相性がよく、使い続けるうちに畳につやが出てきます。
東京・京橋にある江戸箒老舗「白木屋伝兵衛」では、その伝統を引き継いだ「江戸箒」を今も手作業で作り続けています。店内の一角には作業場があり、今年で11年目という職人の神原良介さん(41)が慣れた手つきで、ほうきを編んでいました。
「ちょうど今年の新しい草が入ったばかりです。青くて香りがいいでしょう」。編み込み模様が美しい江戸箒ですが、その基本は使いやすさ。「あくまでも工芸品ではなく、使い勝手が命の日用品ですからね」
見た目裏切る軽さ
昔は生活必需品として全国各地で作られていた和ぼうきですが、現在も伝統の姿で作り続けているのは国内で数か所。東京ではここだけです。店内を説明してくれた高野純一さん(48)によると、江戸箒の特徴は、上質のホウキモロコシが生み出すしなやかな腰と、手首への負担の少なさだといいます。
「手で持つ竹の柄の部分と、草を編んだ穂先のバランスで、持った時の軽さが変わります。野球のバットでも、どこを持つかで感じる重さが違うのと同じです」
軽さを生み出す「重心を分散させる」編み方は、白木屋の長い歴史の中で培われたもの。「一つの完成形だと思っています。変えるところはありません」。手渡された長柄の江戸箒は、確かに見た目を裏切る軽さです。ぎゅっと編み込まれた穂先は振り子のように動き、床をはくとバネのような手応えです。すべて手作業なので、年間に作れるのは3人の職人で2000本ほどだそうです。
現代人の生活に合う
「使い慣れると、ほうきほど手軽で使いやすい掃除道具はないですよ」
日ごろ、自宅でもほうきを使い込んでいる高野さんは、マンション暮らしが多い現代人の生活に、実はとても合っているといいます。電気がなくても、コードが届かなくても使える▽音や振動がしないので周囲を気にせずいつでも使える▽狭くても、どんな形の部屋でも、段差があるところでも使える――。「ほうきだと、気付いた時にさっと出してはける。掃除が一仕事でなくなるんです」。穂先が傷んだら切って使い、短くなったら玄関用に。用途を変えながら使い続け、使命を全うしたほうきは、最後、燃やしても有害物質が出ません。
周回遅れ? 時代の先頭に
「竹とホウキグサという天然素材だけでできた昔ながらのほうきを私たちは大切に、黙々と作り続けてきました。それがいまでは環境に優しい道具という新たな価値になりました。ずっと周回遅れ(時代遅れ)のほうき作りを続けてきたところ、世の中の方が激変して、今では時代の先頭を走っている……。そんな感じですかね」
そう言って笑う高野さん。誰もが新しい生活様式を探している昨今ですが、案外、過去の暮らしの中に、そのヒントがありそう。江戸箒には、「エコな生き方」と言われる江戸時代の人たちの暮らしの知恵が、詰まっているのです。【文・森忠彦、写真・内藤絵美】
ホウキモロコシ 産地を残すために
江戸箒特有の腰を生む「ホウキモロコシ」はアフリカ原産のイネ科の植物。5月初めに畑に種をまくとぐんぐん育ち、8月終わりには高さ2~4メートルに。稲穂のような穂先から実を取り払ったものが、ほうきの材料になります。白木屋では主に茨城・つくば産、神奈川・三浦産、山形・東根産のものを使っています。昔は稲作以外の換金作物として各地で作られてきましたが、生産者の高齢化もあり、産地は減る一方です。危機を感じた白木屋では、ほうき文化継承の一環として生産農家に指導を仰ぎ、社員総出で栽培から収穫までをし始めました。
■和の掃除道具あれこれ
●ほうき ≫ポイントは穂先≪
「同じ方向ばかりではくと、穂先にくせがつくので、ときどきくるりと回転させて使うといいですよ」と神原さん。使わないときは、つるして保管しましょう。
●はりみ ≫和紙の「ちり取り」≪
ほうきで集めたごみやちりをすくうのに欠かせないのがちり取り。白木屋では、竹ひごの骨組みに和紙を張り、最後に防虫効果もある柿渋を塗って仕上げた和製ちり取り「はりみ」も作っています。原形は農具の「箕」ですが、「実が入る」を連想する縁起をこめたネーミングとか。プラスチックや金具と違って静電気が起こらず、集めたちりがきれいに処理できます。
●再利用でたわしに
鍋や食器などをゴシゴシと洗う時につかう「たわし」も、もとは使い古したほうきの穂先をほどき、しばって再利用したのが始まりでした。特にほうきの原料にもなるシュロは繊維が丈夫なため、広く使われてきました。昭和になると安いパームヤシが使われるようになります。その後、カメのような形をした「亀の子たわし」が大ヒットし、たわしの代名詞のようになりました。
≫シュロいろいろ≪
左端がシュロの木の皮。シュロのほうきは江戸箒よりも歴史が古い和ぼうき。繊維が強く、かつては、ほうきを再利用して、いろいろなたわしが作られました
●払い清める縁起物
ごみやちりを払うのがほうき本来の役割ですが、危険や邪気、病気、悪いことを「お払いする」ための縁起物でもあります。安産祈願や無病息災、五穀豊穣、家内安全など願いはさまざま。一方、12月13日には「すす払い」が全国の寺社などであります。いわゆる大掃除です。一年の心身のけがれを払い、清らかな気持ちで新年を迎えるための行事で、毎年、風物詩としてニュースにもなります。
●「白木屋中村伝兵衛商店」
東京都中央区京橋3の9の8
https://www.edohouki.com
0120・375・389
創業は江戸時代後期の天保元(1830)年。今の東京・銀座で畳表を扱う商店として創業。2代目のころに現在の中央区京橋に移転。当時この辺りは竹に関する仕事が集まる「竹河岸」と呼ばれていたそうです。白木屋では「江戸箒」のほか各種ほうきや掃除道具を製造、販売しています。
次回の「江戸東京見本帳」は12月22日(一部地域は23日)に掲載します。