君がいたからがんばれた
観客の声援に応えていた小平奈緒選手が、右手の人さし指を口にあてました。2018年2月18日、韓国・平昌オリンピック(五輪)スピードスケート女子500メートル。小平選手が36秒94の五輪新記録を出し、スタンドからは大歓声が上がっていました。「シーッ」。次の組の選手が集中できるように、「静かにして」とお願いしたのです。
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小平選手は、ワールドカップ15連勝という好調を維持して平昌五輪にのぞんでいました。その最大のライバルが、地元・韓国の李相花選手でした。
李選手は10年バンクーバー五輪女子500メートルで、冬季五輪スピードスケートでは韓国女子初となる金メダリストとなったヒロインです。14年のソチ五輪で連覇を達成し、この大会では3連覇がかかっていました。実は小平選手と李選手は、長年はげまし合いながら競ってきた親友同士でした。以前から2人は、「来年はファイトしよう」「良いレースがしたいね」と話していました。
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小平選手の直後に滑った李選手は37秒33で、2位にとどまりました。小平選手はそっと李選手を抱きしめ、声をかけます。「チャレッソ」(韓国語で「よくやったね」)。そして「相花のことをリスペクト(尊敬)しているよ」。李選手は笑顔になり、2人は一緒に滑りました。
全力で戦い、たたえ合う2人。その姿は五輪が求めるフェアプレーの精神そのもので、五輪史に残る名シーンとなりました。【まとめ・武本亮子】
◆忍法帳
韓国でも大反響
平昌五輪での小平選手と李選手の友情は、韓国でも共感を呼びました。2019年4月、2人に「2018平昌記念財団」から「韓日友情賞」が贈られました=写真。韓国の首都ソウルでの授賞式で、小平選手は「思いがけず大きな注目を浴びたが、あのような情景は私たちにとってはごく日常の自然なものだった」と話しました。
◆プロフィル
李相花
1989年生まれ、ソウル出身。五輪は2006年トリノ五輪から18年平昌五輪まで、4大会連続で出場。19年に現役を引退しました。
小平奈緒
1986年生まれ、長野県出身。2010年バンクーバー五輪団体追い抜きで銀メダル。18年平昌五輪では、女子1000メートルで銀メダルも獲得しました。