岩手県西磐井郡萩荘村の西光寺保育所が行った牛車による園児の送り迎え=1952年10月
今年の「えと」は「丑」です。えとの中でも人間に身近な牛は、家畜として、食べものや労働力、衣料、肥料、心の安らぎなど富や豊かさをもたらしてきました。人間と深い関わりを持つ牛について、みなさんはどのぐらい知っているでしょうか。【石塚孝志】
日本人との出合い
邪馬台国の卑弥呼の時代(3世紀)に、日本のことを書いた中国「魏」の国の歴史書「魏志倭人伝」には、日本に牛や馬がいなかったことが載っています。「牛の博物館」(岩手県奥州市)館長補佐の川田啓介さんは「日本に牛が来たのは、5世紀の古墳時代に朝鮮半島から来た渡来人が、家畜として連れてきたとみられます」と話します。
ワクチンのヒントに
18世紀のイギリスでは、感染すると高い熱が出て死んでしまうこともある天然痘という病気に悩まされていました。医学者のジェンナーは、ウシの乳しぼりをする人から聞いた「牛痘(牛がかかる天然痘)にかかった人は、天然痘にはかからない」という話をヒントに天然痘の予防法を開発しました。「ワクチン接種(vaccination=ラテン語で牛を意味するvaccaから)」と名付け、1798年に発表しました。これが世界で最初のワクチンと言われています。
(「日本製薬工業協会HP『くすり研究所』監修:望月眞弓・慶応大学薬学部教授」など参考)
ラスコーの壁画にも
フランスのラスコー洞窟の壁画を知っていますか? 紀元前2万年~紀元前1万年の大昔の人が描いたものです。壁画に原牛(オーロックス)と呼ばれる牛が描かれていて、当時は狩りの対象でした。
今から8000年ほど前、このオーロックスが西アジアのイラン高原北部で最初に牛で家畜になったといわれます。「牛の博物館」館長補佐の川田さんは「大型動物の牛が家畜になったいきさつははっきりしませんが、小型動物のヤギやヒツジはすでに家畜になっていたので、食べるために捕まえた牛が子牛を産み、その子牛を飼い慣らすことから始まったのではないでしょうか」と話しています。