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的川博士の銀河教室

的川博士の銀河教室 629 月クレーター論文からの初夢

約8億年前に月や地球に降り注いだとされる大量の隕石のイメージ図=大阪大提供

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世界の科学者を結ぶ筋書きに?

 私たちの住んでいるこの惑星(わくせい)では、火山や地震(じしん)・津波(つなみ)などの地殻変動(ちかくへんどう)や侵食(しんしょく)活動が頻繁(ひんぱん)に起きるので、昔あったクレーターなどもその痕跡(こんせき)はほとんどありません。特に今から6.5億~6.4億年前ごろや7.3億~7.0億年前ごろなどには、地球の全体がすっぽりと氷河に覆(おお)われた「スノーボールアース」(全球凍結(ぜんきゅうとうけつ))と呼ばれる時代があったのです。

 地球ができた46億~45億年前以来、この太陽系では、激しい衝突(しょうとつ)が幾度(いくど)となく起きていることが分かっており(図1)、地球や月にはたくさんの小さな天体がぶつかってきました。その激しい衝突の痕跡が、地殻変動や全球凍結のために地球から失われたのならば、同じ頃に同じ「悲劇」に見舞(みま)われた月の表面を克明(こくめい)に調べれば、地球への衝突のことも分かる――そんな問題意識で研究をした大阪大学の寺田(てらだ)健太郎(けんたろう)さんの論文を読みました。非常に面白かったので、皆(みな)さんにお年玉代わりにお裾分(すそわ)けをします。

 日本の月探査機「かぐや」のデータを活用して月のクレーターを調べた寺田さんたちの研究方法の詳細(しょうさい)は省略して、その結果を紹介(しょうかい)すると、全球凍結の前、今から8億年前に、地球や月は「宇宙からの重爆撃(ばくげき)みたいな事件」に襲(おそ)われました。直径100キロ以上の大きさの小惑星(しょうわくせい)が他の天体との衝突で破砕(はさい)され、月には直径数キロ~10キロサイズの破片が次々(つぎつぎ)と衝突しました。その痕跡は月面のたくさんのクレーターが証拠立(しょうこだ)てています。同じことが地球にも起きていたと思われます。計算によると、地球と月を襲った天体の量は、6550万年前に恐竜(きょうりゅう)を絶滅(ぜつめつ)させた天体衝突の30~60倍にも達します。

 興味深いことに、その「小惑星シャワー」の原因となったのは、「オイラリア族」と呼ばれるグループの母天体だった可能性が高いのです。「オイラリア族」のグループは、8.3億年前に分裂(ぶんれつ)し、破片は、地球近傍(きんぼう)の小惑星になったのではないかと考えられています。その地球近傍小惑星(ちきゅうきんぼうしょうわくせい)には、はやぶさ2が訪れた「リュウグウ」や、米国の探査機「オシリス・レックス」が訪れている「ベンヌ」も含(ふく)まれています(図2)。

 さらに昨年暮れに中国の「嫦娥(じょうが)5号」が持ち帰った月の石が、その「重爆撃事件」の痕跡を浮(う)かび上(あ)がらせる可能性もあります。これから始まるサンプルリターンの成果分析(ぶんせき)は、世界中の科学者の研究を一つの筋書きに合流させる期待を持たせます。新型コロナで分断された国家間のギスギスした関係を修復する道に、宇宙探査が少しでも貢献(こうけん)できるといいですね。ワクワクしながら見守ることにしましょう。


的川泰宣(まとがわやすのり)さん

 長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍(かつやく)してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉(めいよ)教授。1942年生まれ。


日本宇宙少年団(YAC)

 年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp


 「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣(まとがわやすのり)さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載(れんさい)開始。カットのイラストは漫画家(まんがか)の松本零士(まつもとれいじ)さん。

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