逆境を力に連覇
2018年2月16日、平昌オリンピック(五輪)フィギュアスケート男子のショートプログラム(SP)が行われました。世界中のファンが見守る中、羽生結弦さんの演技が始まりました。前年11月に右足首をけがして以来のぶっつけ本番。ショパンのピアノ曲「バラード第1番」の静かな旋律にのって4回転ジャンプを決め、111・68点の高得点を出します。
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羽生さんは「自分の弱さが見えた時は、自分が強くなりたいという意志がある時」と語ったことがあります。多くの逆境をはね返してきました。
高校1年生の時は、宮城県仙台市のリンクで練習中に東日本大震災にあい、避難所で4日間を過ごしました。その後は練習場所の確保に苦労しました。初出場で金メダルを獲得した14年ソチ五輪の後は、中国での国際大会の練習中に他の選手と氷の上でぶつかってけがをし、おなかの手術も経験しました。
平昌五輪前に右足首をいためた後も、前向きでした。ジャンプの時に体がうまく使えるように筋肉に関する論文を読み、トレーニングの方法を研究。いつもと違う角度からスケートを見直しました。
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SPの翌日のフリーでも4回転ジャンプを次々と着氷し、206・17点の高得点を出します。羽生さんは演技後、4分半の演技を耐え抜いた右足首をそっと両手で包みました。五輪のこの種目では66年ぶりとなる連覇が決まると、涙を浮かべて「ありがとう」と繰り返しました。【まとめ・武本亮子】
平昌五輪男子フリーで演技する羽生結弦=江陵アイスアリーナで2018年2月、手塚耕一郎撮影
◆忍法帳
何がすごいの?
羽生さんの持ち味は、スピードに乗って正確に踏み切り、回転軸が細く美しいジャンプが跳べることです。着氷後もスピードが落ちません。ジャンプの直前にも足の細かい動きを入れるため、短い距離の助走で難しいジャンプを跳んでいます。演技に使用している曲を的確に捉える表現力も卓越しています。
プロフィル
1994年生まれ、宮城県出身。4歳からフィギュアスケートを始めました。あこがれの選手は2006年トリノ五輪男子金メダルのエフゲニー・プルシェンコさん(ロシア)。世界選手権では14年と17年に金メダル。18年に国民栄誉賞を受賞。現在も日本のエースとして活躍中です。