空の下、合唱団の歌の指導をする音楽教諭の臼井真さん(左)=神戸市灘区の市立高羽小で2020年12月18日、長尾真希子撮影
26年前、阪神大震災の被災地から誕生した歌「しあわせ運べるように」を作詞・作曲した兵庫県神戸市立高羽小学校の音楽の先生、臼井真さん(60)が3月に定年退職を迎えます。わずか10分で書き上げた歌は、神戸で歌い継がれ、中国・四川省など世界中の被災地にも広がっています。「僕の最大の功績は、この歌を作り、人の役に立てたこと。これからも歌で震災の記憶を伝えていきたい」。臼井さんは、新たな誓いを胸に刻んでいます。
昨年12月末。高羽小のグラウンドにはマスクを外し、10か月ぶりに大きな声で歌を練習する子どもたちの姿がありました。「『どうかこの歌が、災害で苦しむ世界中の人々にしあわせを運んでくれますように』。そんな祈るような思いを歌に乗せて歌おう」。新型コロナウイルス感染の広がりを防ぐため、2メートル間隔で立ち、歌える喜びをかみしめる子どもたちに、臼井さんはこう語り掛けました。
阪神大震災は1995年1月17日に起きました。臼井さんは兵庫県神戸市東灘区で被災し、自宅は全壊。2週間後、がれきに覆われ、変わり果てた神戸の街を見て、頭の中に湧き上がってきたのが「しあわせ運べるように」の歌詞とメロディー。<地震にも負けない/強い心をもって>。こみ上げる思いを慌てて紙切れに書き留めました。
震災から約1か月後、当時勤務していた旧吾妻小学校(同市中央区)の避難所で歌い始めた歌は、すぐに神戸じゅうに広がり、傷ついた世界中の人々の心を励ます「奇跡の歌」となりました。「子どもたちの歌声に涙を流す多くの被災者の姿を見て、この歌には不思議な力があると確信しました」
教員生活38年の最後となる1年は、音楽会などの学校行事にいつも以上に意欲的に取り組むつもりだった臼井さん。しかし、新型コロナの影響で、学校が再開した昨年6月以降も満足に練習ができませんでした。感染予防のため、児童による合唱団も以前の半分の51人に縮小するしかありませんでした。合唱団は毎年、光の祭典「神戸ルミナリエ」の点灯式などさまざまなイベントでも歌声を披露しましたが、昨年は中止が相次ぎました。
子どもたちに熱い指導を行う音楽教諭の臼井真さん=神戸市灘区の市立高羽小で2020年12月18日、長尾真希子撮影
17日に歌声を披露
それだけに17日にかける臼井さんの思いは強いです。この日は、同市中央区の東遊園地で開かれる追悼行事「1・17のつどい」と、この歌が初めてお披露目された旧吾妻小学校跡地の「コミスタこうべ」で歌う予定です。同校6年の田崎幾斗さん(12)は「気持ちを込めて全力で歌いたい」と語ります。
「17日にこの場所で歌うことに意味がある。助かったこの命。身を引き締めて、挑みたい」と臼井さん。今後は、震災を風化させないために、歌に込めた思いを全国に伝える活動を続けるつもりです。
毎日新聞のサイト(https://video.mainichi.jp/)から動画が見られます。【長尾真希子】