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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

白酒 豊島屋本店 桃の節句の風物詩

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 した江戸時代えどじだい後期こうき出版しゅっぱんされた「江戸名所図会えどめいしょずえ」のいちページです。いまのガイドブックのようなもので、写真しゃしんわりにがあり、江戸えど名所めいしょ紹介しょうかいしています。

江戸名所図会(えどめいしょずえ) 初版(しょはん)発行(はっこう)は1834年(ねん) 見開(みひら)きの中央(ちゅうおう)に「酒(さけ)醬油(しょうゆ)相(あい)休(やす)み申(もうし)候(そうろう)」という大(おお)きな札(ふだ)があり、店(みせ)の前(まえ)に人(ひと)だかりがしています。この日(ひ)はお酒(さけ)の販売(はんばい)も休(やす)んで白酒(しろざけ)だけ売(う)ったようです。日本橋(にほんばし)に近(ちか)いため、魚(さかな)や野菜(やさい)などをかごに入(い)れて売(う)り歩(ある)く売(う)り子(こ)「天(てん)びん棒(ぼう)担(かつ)ぎ」の姿(すがた)も見(み)られます=国立国会図書館(こくりつこっかいとしょかん)デジタルアーカイブより
江戸名所図会(えどめいしょずえ) 初版(しょはん)発行(はっこう)は1834年(ねん) 見開(みひら)きの中央(ちゅうおう)に「酒(さけ)醬油(しょうゆ)相(あい)休(やす)み申(もうし)候(そうろう)」という大(おお)きな札(ふだ)があり、店(みせ)の前(まえ)に人(ひと)だかりがしています。この日(ひ)はお酒(さけ)の販売(はんばい)も休(やす)んで白酒(しろざけ)だけ売(う)ったようです。日本橋(にほんばし)に近(ちか)いため、魚(さかな)や野菜(やさい)などをかごに入(い)れて売(う)り歩(ある)く売(う)り子(こ)「天(てん)びん棒(ぼう)担(かつ)ぎ」の姿(すがた)も見(み)られます=国立国会図書館(こくりつこっかいとしょかん)デジタルアーカイブより

 ここにえがかれているのは、もも節句せっくをひかえた旧暦きゅうれきがつ現在げんざいの3がつ)、ひなまつりの名物めいぶつ白酒しろざけ」を様子ようすです。右上みぎうえるとみせ名前なまえは「豊島屋としまやさけてん」とあります。現在げんざい東京都千代田区とうきょうとちよだく神田かんだ猿楽町さるがくちょうにある「豊島屋本店としまやほんてん」の江戸時代えどじだい姿すがたです。

 豊島屋としまやが、江戸城えどじょうへの物資ぶっし荷揚にあ鎌倉かまくら河岸がし」(現在げんざい内神田うちかんだちかくに開業かいぎょうしたのは、徳川家康とくがわいえやす江戸幕府えどばくふひらすこまえの1596(慶長けいちょうがんねん。なんと、420ねん以上いじょう歴史れきしがある、東京とうきょうもっとふるい「酒屋さかやさん」です。3がつみっかのひなまつりをまえに、今年ことし伝統でんとう白酒しろざけ店頭てんとうならびました。

豊島屋(としまや)の白酒(しろざけ) 拡大
豊島屋(としまや)の白酒(しろざけ)

桃花酒とうかしゅ」にならい

 もも節句せっくおんなすこやかな成長せいちょういの行事ぎょうじがひなまつりです。ひな人形にんぎょうかざり、ひなあられやひしもちをおそなえし……みなさん準備じゅんびすすんでいますか? ひなまつりにかせないのが白酒しろざけです。

 「もちごめとこうじきんをみりんで仕込しこみ、石臼いしうすですりつぶしてつくります」

 そうはなすのはかれた豊島屋としまやの16代目だいめ社長しゃちょう吉村よしむら俊之としゆきさん(61)。いま江戸時代えどじだいからわらない材料ざいりょう手法しゅほうつくつづける白酒しろざけは、もちごめしろさがのこり、あまく、舌触したざわりもなめらかです。

 豊島屋としまやつたわるはなしによると、あるとき初代しょだい十右じゅう衛門えもんゆめなかかみびなさまあらわれ、白酒しろざけつくかた伝授でんじゅ。そのとおりにつくると、やさしい風味ふうみしろあまさけができたのだそうです。それを平安時代へいあんじだいからもも節句せっくまれていた「桃花酒とうかしゅ」になぞらえ「白酒しろざけ」としてしたところ大人気だいにんきに。まさに「江戸名所図会えどめいしょずえ」の場面ばめんです。最盛期さいせいきには、1にちに4だる(72リットル)で1400たる、一升瓶いっしょうびん換算かんさんすると5まん6000ぼんもの白酒しろざけれたとか。「やまなれば富士ふじ 白酒しろざけなれば豊島屋としまや」とうたわれる江戸えど風物詩ふうぶつしになりました。

豊島屋本店(としまやほんてん)の店先(みせさき)に立(た)つ16代目(だいめ)の吉村(よしむら)俊之(としゆき)さん 拡大
豊島屋本店(としまやほんてん)の店先(みせさき)に立(た)つ16代目(だいめ)の吉村(よしむら)俊之(としゆき)さん

どもようではなかった

 「ども相手あいてではなく、ターゲットは大人おとな女性じょせいだったようです。当時とうじあまものすくなかったので、独特どくとくあま風味ふうみこのまれたのでしょう」

 豊島屋としまやでは1がつまつから旧暦きゅうれきの3がつみっか今年ことしは4がつ14)ごろまでは、一合いちごうびん(180ミリリットル)にはいった「江戸えど草分くさわけ 豊島屋としまや白酒しろざけ」を販売はんばいしています。吉村よしむらさんのおはなしいているあいだにも、「まいとしっています」という女性じょせい来店らいてんしました。400ねん伝統でんとうは、いまがれているのです。

 江戸えど時代じだい初日しょにちに、店主てんしゅが「しの口上書こうじょうがき」をげたとか。

 「にたぐいなき家伝かでんにて……これが自慢じまん白酒しろざけ……ちょっといっぱいめすときは、目元めもとほんのり桜色さくらいろ、どこかこころはるめきて……今年ことししいたしますれば……」

 いまでは、まとまったりょう白酒しろざけ製造せいぞう販売はんばいしているのは全国ぜんこく豊島屋本店としまやほんてんだけになりました。

 「げとしては一部いちぶにすぎませんが、もも節句せっく季節きせつ風物詩ふうぶつしですし、白酒しろざけ不可欠ふかけつ存在そんざいとしてつたわりつづけてきました。日本にっぽん文化ぶんかまもる、というほこりをって、つづけさせていただいています」と吉村よしむらさん。店頭てんとう装飾そうしょくがひなまつ一色いっしょくわるこの時季じきは、老舗しにせかがや季節きせつのようです。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん内藤ないとう絵美えみ大西おおにし岳彦たけひこ


巨大(きょだい)な清酒(せいしゅ)の仕込(しこ)みタンクがずらっと並(なら)んでいます 拡大
巨大(きょだい)な清酒(せいしゅ)の仕込(しこ)みタンクがずらっと並(なら)んでいます

 ◆蔵元くらもと

発酵はっこう主役しゅやくは「きん

 豊島屋本店としまやほんてんさけつく蔵元くらもとたずねて、東京都東村山市とうきょうとひがしむらやましにある豊島屋酒造としまやしゅぞうきました。白酒しろざけのほかに、主力しゅりょく商品しょうひんである「きんこん」「おくのかみ」などの日本酒にほんしゅとみりんをつくっています。高橋たかはしたくさん(54)がなか案内あんないしてくれました。

タンクの中(なか)は「もろみ」の状態(じょうたい)。約(やく)2.5㌧の酒米(さかまい)(うるち米(まい))の蒸(む)し米(まい)に、こうじ菌(きん)、酵母(こうぼ)菌(きん)、さらに地下(ちか)150㍍からくみ上(あ)げた富士山(ふじさん)の伏流水(ふくりゅうすい)約(やく)8000㍑などを加(くわ)えて寝(ね)かせると、タンクの中(なか)で発酵(はっこう)が進(すす)み、酒(さけ)に変(か)わっていきます。タンクの中(なか)では小(ちい)さな菌(きん)が一生懸命(いっしょうけんめい)に働(はたら)いています。 拡大
タンクの中(なか)は「もろみ」の状態(じょうたい)。約(やく)2.5㌧の酒米(さかまい)(うるち米(まい))の蒸(む)し米(まい)に、こうじ菌(きん)、酵母(こうぼ)菌(きん)、さらに地下(ちか)150㍍からくみ上(あ)げた富士山(ふじさん)の伏流水(ふくりゅうすい)約(やく)8000㍑などを加(くわ)えて寝(ね)かせると、タンクの中(なか)で発酵(はっこう)が進(すす)み、酒(さけ)に変(か)わっていきます。タンクの中(なか)では小(ちい)さな菌(きん)が一生懸命(いっしょうけんめい)に働(はたら)いています。

マッチョな「酵母こうぼ

 気温きおんひくくなるあき仕込しこみのスタートです。さむ季節きせつ仕込しこむのは、気温きおんひくいと、たいていのきん活動かつどうができずものくさらせるきんえないからなのだそう。「冬場ふゆばでも活動かつどうできる酵母こうぼきんはマッチョなんです」。酒造さけづくりのかなめきん高橋たかはしさんはそういます。

 日本酒にほんしゅ使つかこめはうるちまいなのにたいして、白酒しろざけのもとになる「みりん」には、もちごめ使つかいます。したこめこめこうじ、焼酎しょうちゅうわせやく2かげつ。こうじきんちからで、もちごめの「でんぷんしつ」が「とう」にわりあまくなります。どろりとした「もろみ」をこしてしぼった金色きんいろ液体えきたいが「みりん」です。豊島屋としまやのみりんは、アルコールが13%ほどあります。

発酵(はっこう)の進(すす)み具合(ぐあい)を確認(かくにん)する高橋(たかはし)拓(たく)さん 拡大
発酵(はっこう)の進(すす)み具合(ぐあい)を確認(かくにん)する高橋(たかはし)拓(たく)さん

あまつくる「こうじ」

 「こうじきんがこのあまさをつくっているんですね。外国がいこくひとにはびっくりされますが、砂糖さとう使つかいません。栄養価えいようかたかからだにもいい」と高橋たかはしさん。さけかぎらず、しょうゆやみそなど、高温こうおん多湿たしつ日本にっぽんきんかした発酵食品はっこうしょくひんゆたかです。「このくらでも主役しゅやくきんたち。職人しょくにんきん気持きもちよくはたらいてくれるような環境かんきょうまもっているだけなんです」

 ここにも、ひかえめにはな職人しょくにん伝統でんとうわざいきづいていました。

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杉玉すぎたま

 つく酒屋ざかやではまいとし新酒しんしゅ季節きせつになると玄関げんかんさきに「杉玉すぎたま」がかざられます。緑色みどりいろあたらしい杉玉すぎたまは、「おいしい新酒しんしゅができましたよ」というしるし時間じかんがたつと、茶色ちゃいろわっていきます。


 ◆小説しょうせつに 鎌倉河岸かまくらがし捕物控とりものひかえ

 江戸えど舞台ぶたい難事件なんじけん解決かいけつに4にん若者わかものいど人気にんき時代物じだいものシリーズ。作者さくしゃ佐伯泰英さえきやすひでさんは「江戸名所図会えどめいしょずえ」の豊島屋としまやて、小説しょうせつ構想こうそうおもいついたそうです。主人公しゅじんこう一人ひとり「しほ」は豊島屋としまや看板娘かんばんむすめ設定せっていです。小説しょうせつにも登場とうじょうするみせ名物めいぶつ豆腐とうふ田楽でんがく」は、関東大震災かんとうだいしんさいによる倒壊とうかいから100ねんまえ再開さいかいしたアンテナショップ「豊島屋としまやさけてん」(神田錦町かんだにしきちょう2の2の1)で提供ていきょうしています(現在げんざい緊急事態きんきゅうじたい宣言せんげん休業きゅうぎょうちゅう)。


 ◆甘酒あまざけ白酒しろざけ

 ひなまつりに白酒しろざけわりとしてどもがむものに「甘酒あまざけ」があります。甘酒あまざけのうち「こめこうじ」と「うるちまい」でつくったものは、アルコールぶんがないのでどもでもめますが、酒造さけづくりの工程こうている「酒粕さけかす」を使つかった甘酒あまざけは、さけよりはひくいもののアルコールぶんがあるので注意ちゅうい必要ひつようです。白酒しろざけはみりんとおなじように、アルコールが7%あり、どもはそのままんではいけません。加熱かねつ処理しょりしアルコールぶんばしましょう。炭酸水たんさんすい牛乳ぎゅうにゅうわせたり、シャーベットにしたりしてもおいしいそうです。


 ●「豊島屋本店としまやほんてん

 東京都千代田区とうきょうとちよだく神田かんだ猿楽町さるがくちょう1の5の1

 https://www.toshimaya.co.jp/

 当時とうじ豊島郡としまごおり」とばれていた一帯いったい地名ちめいから名付なづけた豊島屋としまやは1596ねんなだ兵庫県ひょうごけん)からはこばれる「くだざけ」をあつかさけ問屋どんやと、それをふるまう居酒屋いざかやとして「鎌倉かまくら河岸がし」(現在げんざい東京都千代田区内神田とうきょうとちよだくうちかんだ)で創業そうぎょう。1923(大正たいしょう12)ねん関東大震災かんとうだいしんさいみせ倒壊とうかいちかくの神田美土代町かんだみとしろちょう移転いてん酒屋さかやとして再建さいけんしますが、そこも44(昭和しょうわ19)ねん11がつ翌年よくねん東京大空襲とうきょうだいくうしゅうへとつづ空襲くうしゅう焼失しょうしつし、現在げんざい神田かんだ猿楽町さるがくちょううつってきました。歴史れきしてき災害さいがいに2もあったため、「残念ざんねんながら、江戸時代えどじだいのものはなにのこっていないんです」と吉村よしむらさん。それでも白酒しろざけづくりの伝統でんとうえることなく、つづいています。

豊島屋酒造(としまやしゅぞう)の入(い)り口(ぐち)にある給水(きゅうすい)タンク。「金(きん)婚(こん)」は創業(そうぎょう)以来(いらい)続(つづ)く銘柄(めいがら)です 拡大
豊島屋酒造(としまやしゅぞう)の入(い)り口(ぐち)にある給水(きゅうすい)タンク。「金(きん)婚(こん)」は創業(そうぎょう)以来(いらい)続(つづ)く銘柄(めいがら)です

 ●「豊島屋酒造としまやしゅぞう

 東京都東村山市久米川町とうきょうとひがしむらやましくめがわちょう3の14の10

 https://www.facebook.com/toshimayasyuzou/


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は3がつ23にち一部地域いちぶちいきは24)に掲載けいさいします。

 協力:江戸東京きらりプロジェクト

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