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的川博士の銀河教室

宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、JAXA名誉教授の的川泰宣さんが解説する長寿連載です。

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的川博士の銀河教室 637 「パーシビアランス」(その2) 時速2万キロ 火星大気に突入!

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図1 地球から火星までパーシビアランスを運んできたクルーズ・ステージ=NASA提供 拡大
図1 地球から火星までパーシビアランスを運んできたクルーズ・ステージ=NASA提供

 米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた火星探査車「パーシビアランス」。軌道修正きどうしゅうせいのためのエンジン噴射ふんしゃや通信を受け持ち、カプセルを守りながら火星まで運んでくれたのは「クルーズ・ステージ」(図1)です。火星の大気圏たいきけんに突入する10分前にカプセルをはなしました。カプセルには、降下船とパーシビアランスが収まっており、クルーズ・ステージ全体の構成は図2のようになっています。切り離されたカプセルは、秒速5キロちょうもうスピードで運行しながら、毎分2回転のスピンで姿勢の安定を保ちます。

 突入9分前、スピンによる安定から三軸じく安定に移り、目標とする大気圏突入角度を維持いじします。カプセルは、この角度で火星大気に衝突しょうとつする計画なのですが、もしこれより浅い(小さい)角度で突入すると、火星の大気ではね返されてしまいます。逆に突入角度が深い(大きい)と、火星大気とのたたかいで発生した熱などで体がボロボロになり、加えて高い圧力を受けてバラバラになりながら消滅しょうめつしてしまうのです。だから、突入する角度を正確に維持できるかどうかが極めて重要なのですね。

図3 NASAが作成したパーシビアランスの入ったカプセルの着陸シーケンス(NASA提供提供の図をもとに作成) 拡大
図3 NASAが作成したパーシビアランスの入ったカプセルの着陸シーケンス(NASA提供提供の図をもとに作成)

 さあこれからが勝負どころ。めざす着陸地点は、かつて液体の水が流れていたと考えられるジェゼロ・クレーター。最大の目的である生命の痕跡こんせき発見が期待できる半面、大きな岩やがけけて安全に着陸するのは容易ではありません。NASAは、図3のような着陸までのシーケンス(動作の流れ)を作成しました。

 2月18日(日本時間)。米カリフォルニア州パサデナ市にあるジェット推進研究所(JPL)内のミッション・コントロールには、この歴史的着陸を指揮・実行するスタッフが配置に就きました。そして次の日の早朝、カプセルが火星大気に突入! このときの秒速は5.9キロ、時速にすると2万キロ超にも達します。カプセルを放出したクルーズ・ステージは、そのまま火星大気圏にみ、きてしまいました。せっかく自分の体の中にカプセルを保護しながら目的地まで届けてホッとした直後、そのカプセルにすぐに別れを告げて、自分はドロンとけてしまい、この世からもおさらばするのですから、思えば過酷かこくな運命ですね。

 さて一人旅に移ったカプセルには、火星表面に着陸して動き回る探査車パーシビアランスと、その着陸を助ける役目の降下船が入っています。これからいよいよ着陸オペレーションのラストスパートです。ミッション・コントロールには、熱い緊張きんちょうがみなぎってきました。つづきは次回に。(つづく)


的川泰宣まとがわやすのりさん

 長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍かつやくしてきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉めいよ教授。1942年生まれ。


日本宇宙少年団(YAC)

 年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp


 「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣まとがわやすのりさんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で

2008年10月から連載れんさい開始。カットのイラストは漫画家まんがか松本零士まつもとれいじさん。

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