連載

江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

連載一覧

江戸東京見本帳

つまみかんざし かんざし杉野 晴れの日に満開の髪飾り

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷
桜(さくら)をイメージしたつまみかんざし。右(みぎ)の散(ち)る花(はな)びらのような装飾(そうしょく)を「下(さ)がり」、左(ひだり)の銀色(ぎんいろ)の飾(かざ)りは「銀(ぎん)びら」といいます
桜(さくら)をイメージしたつまみかんざし。右(みぎ)の散(ち)る花(はな)びらのような装飾(そうしょく)を「下(さ)がり」、左(ひだり)の銀色(ぎんいろ)の飾(かざ)りは「銀(ぎん)びら」といいます

 さくら前線ぜんせん日本列島にほんれっとうはるおとずれをげています。

 日本一にほんいちたかさをほこる「東京とうきょうスカイツリー」が徒歩とほ数分すうふん墨田区向島すみだくむこうじまでも、隅田川すみだがわ土手どてえられた桜並木さくらなみきごろに。ツリーのうえから見下みおろすと、まるで東京とうきょう下町したまちをあでやかなはなかざりがいろどっているかのようです。

 「いつもなら、おまつり(ぼくていさくらまつり)でにぎわう季節きせつなんですが、今年ことしはね……。はやく、このかみかざりをつけたひとたちがあつまれるようになってほしいですね」

 ここで伝統工芸品でんとうこうげいひんの「江戸えどつまみかんざし」の製造せいぞう販売はんばいをしている「かんざし杉野すぎの杉野すぎの商店しょうてん)」の杉野すぎのまもるさん(47)の手元てもとには、さくらえだをそのまま手折たおったような、かわいいかんざしがありました。ほかにもきくうめ椿つばき紫陽花あじさいふじなど、日本にっぽん季節きせつはなばなをかたどったかんざしがならんでいます。

結婚式(けっこんしき)で頭(あたま)に挿(さ)す純白(じゅんぱく)のつまみかんざし。通称(つうしょう)「花嫁(はなよめ)3点(てん)セット」。小(ちい)さいものは左右(さゆう)に、奥(おく)の大(おお)きい「勝山(かつやま)」は上(うえ)に挿(さ)します
結婚式(けっこんしき)で頭(あたま)に挿(さ)す純白(じゅんぱく)のつまみかんざし。通称(つうしょう)「花嫁(はなよめ)3点(てん)セット」。小(ちい)さいものは左右(さゆう)に、奥(おく)の大(おお)きい「勝山(かつやま)」は上(うえ)に挿(さ)します

ぬのをつまみはなびらに

 切手きってだい正方形せいほうけいきぬを「つまんで」はなびらをつくる「つまみかんざし」は、江戸時代えどじだい上方かみがた京都きょうと)ではじまり、江戸えど東京とうきょう)につたわったとわれます。女性じょせいかみかざるかんざしは古来こらい、いろいろな素材そざいつくられてきました。ぎんなどの金属きんぞくいし、べっこうつくったものはふるいものがそのままのこっていますが、ぶたというきぬぬのつくるつまみかんざしはのこっていません。

 「きぬかためるために、おこめでできたのりを使つかうため、むしやネズミがべてしまうんです。みずにぬれるとかたちくずれるし、ひかりぬの変色へんしょくもする。まるで、はかないはなのようです」

 江戸えどまちさかんにつくられるようになったのは幕末ばくまつのこと。以来いらいやく200ねんもなき職人しょくにんたちのによって、つまみかんざしの伝統文化でんとうぶんかがれています。

 結婚式けっこんしき日本舞踊にほんぶよう発表会はっぴょうかいなど人生じんせい舞台ぶたいはなえるのが、つまみかんざしです。成人式せいじんしき卒業式そつぎょうしき入学式にゅうがくしき七五三しちごさんなどいわ季節きせつわせて注文ちゅうもん集中しゅうちゅうします。すべて手作てづくりですが、工芸士こうげいしばれるプロの職人しょくにん現在げんざい高齢こうれいしゃばかりで、都内とないでも10にん以下いかにまでりました。一方いっぽうで、趣味しゅみとしてつまみかんざしづくりをたのしむひとえているそうです。

つまみかんざし作(づく)りに使(つか)う道具(どうぐ) 拡大
つまみかんざし作(づく)りに使(つか)う道具(どうぐ)

手作業てさぎょうでこつこつと

 実際じっさい工程こうていを、まもるさんのつま聡子さとこさん(45)が実演じつえんしてくれました。

ピンセットを使(つか)い正方形(せいほうけい)の小切(こぎ)れを三角(さんかく)に2回(かい)折(お)ります 拡大
ピンセットを使(つか)い正方形(せいほうけい)の小切(こぎ)れを三角(さんかく)に2回(かい)折(お)ります

 使つか材料ざいりょうは3センチメートル四方しほうった数種類すうしゅるいきぬ小切こぎれ▽でんぷんのり(ひめのり)▽厚紙あつがみせい台紙だいし針金はりがね――くらいのものです。

 まず、のりをいたたいらにひろげます。きぬちいさくりたたみ、ピンセットでのりのうえけるようにき、のりをわせます。りたたむかたちは、まる花弁かべんをイメージした「まるつまみ」と、さきがとがったほそはなびらの「けんつまみ(かくつまみ)」のおもに2種類しゅるいです。

折(お)った小切(こぎ)れをのりの上(うえ)にピンセットを使(つか)って植(う)え付(つ)け、のりをしみ込(こ)ませます。手前(てまえ)は丸(まる)つまみ、奥(おく)は剣(けん)つまみ 拡大
折(お)った小切(こぎ)れをのりの上(うえ)にピンセットを使(つか)って植(う)え付(つ)け、のりをしみ込(こ)ませます。手前(てまえ)は丸(まる)つまみ、奥(おく)は剣(けん)つまみ

 「基本的きほんてき花弁かべんかたちはこのふたつです。これがいろいろなはなになります」。のりのうえすうふんぬのにのりがなじんだら、台紙だいしうえひとひといてはなにしていきます。こうしてつくったちいさなはなをいくつもわせ、最後さいごいとでしっかりと固定こてい完成かんせいです。

針金(はりがね)のついた円(まる)い台紙(だいし)に、花(はな)びらを置(お)き花(はな)にします。屋根(やね)に瓦(かわら)を敷(し)く(ふく)作業(さぎょう)と似(に)ていることから、この作業(さぎょう)を「ふく」と言(い)います 拡大
針金(はりがね)のついた円(まる)い台紙(だいし)に、花(はな)びらを置(お)き花(はな)にします。屋根(やね)に瓦(かわら)を敷(し)く(ふく)作業(さぎょう)と似(に)ていることから、この作業(さぎょう)を「ふく」と言(い)います

 「最初さいしょまるつまみいつつでうめかたちからやってみください」と聡子さとこさん。基本きほん単純たんじゅん手作業てさぎょうなので、手先てさき器用きようでこつこつとものつくるのがきなひといているそうです。

つまみ細工ざいくあたらしい髪飾かみかざりを

つまみ細工(ざいく)など12個(こ)の髪(かみ)飾(かざ)りがあります 拡大
つまみ細工(ざいく)など12個(こ)の髪(かみ)飾(かざ)りがあります

 明治以降めいじいこう日本にっぽんでは着物きもの機会きかいってきたのにともない、かんざしを使つか機会きかいりました。

 「デジタルすす時代じだいに、すべてが手作業てさぎょうという、きわめてアナログな商品しょうひんですが、だからこそ、おなじものがふたつとない作品さくひんたのしめます。つまみ細工ざいくをいろいろな使つかかたたのしんでほしいですね」

 杉野すぎのさん夫妻ふさいねがいが、ちいさなかみかざりのなかで、おおきく花開はなひらいていました。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん丸山博まるやまひろし


江戸時代(えどじだい)後期(こうき)の絵師(えし)、歌川(うたがわ)広重(ひろしげ)の「江都(えど)名所(めいしょ)隅田川(すみだがわ)はな盛(ざかり)」=国立国会図書館(こくりつこっかいとしょかん)デジタルアーカイブより 拡大
江戸時代(えどじだい)後期(こうき)の絵師(えし)、歌川(うたがわ)広重(ひろしげ)の「江都(えど)名所(めいしょ)隅田川(すみだがわ)はな盛(ざかり)」=国立国会図書館(こくりつこっかいとしょかん)デジタルアーカイブより

墨堤ぼくていさくら

 杉野すぎの商店しょうてんがある墨田区向島すみだくむこうじまは、江戸時代えどじだいからつづ繁華街はんかがいの「浅草あさくさ」からると「隅田川すみだがわこうがわ」にあるため、こう名付なづけられました。隅田川すみだがわ土手どてさくら名所めいしょとなったのは、江戸時代えどじだい八代はちだい将軍しょうぐん徳川吉宗とくがわよしむねが1717(享保きょうほう2)ねんさくらえたことからなどといわれます。さくらまいとしたくさんのひとることで、土手どてかたつつみ頑丈がんじょうにする目的もくてきもあったそうです。こうしたまち姿すがた浮世絵うきよえにもおおえがかれています。


  拡大
 

 ●羽二重はぶたえきぬ

 伝統工芸品でんとうこうげいひんとしての「江戸えどつまみかんざし」は絹糸きぬいと織物おりものつくります。おもに「羽二重はぶたえ」とよばれる上質じょうしつぬの使つかいます。普通ふつう織物おりもの平織ひらおり)の場合ばあい縦糸たていと横糸よこいとを1ぽんずつでるところを、縦糸たていとほんにすると、よりやわらかく光沢こうたくがある「羽二重はぶたえ」のぬのになります。布地ぬのじ種類しゅるいによって肌触はだざわりがちがいますが、きぬやわらかくてのりの吸収きゅうしゅうもいいため、いろいろなかたちつくりやすいのです。

  拡大
 

 ●重要じゅうような「のり」

 基本的きほんてきには江戸時代えどじだいわらない材料ざいりょう工程こうていなかで、唯一ゆいいつおおきくわったのが「のり」の材質ざいしつ。もともと、おこめ原料げんりょうにしたでんぷんしつののりを使つかっており、伝統工芸品でんとうこうげいひんとしてはいまおなじです。しかし戦後せんごになって粘着ねんちゃくりょくつよ接着剤せっちゃくざい開発かいはつされたことで、丈夫じょうぶ多様たよう材質ざいしつ布地ぬのじ使つかえるようになり、つまみ細工ざいくはばひろがりました。「のり」で出来栄できばえがおおきくわってくるそうです。


ブーケのような、つまみ細工(ざいく)の髪(かみ)飾(かざ)りセット「アレンカ」 拡大
ブーケのような、つまみ細工(ざいく)の髪(かみ)飾(かざ)りセット「アレンカ」

普段ふだんにも

 和服わふく特別とくべつにしかられなくなった現在げんざいれのだけでなく普段ふだんにも使つかえるつまみ細工ざいくかみかざりを聡子さとこさんがデザインしました。一見いっけんブーケのようですが、10~15ほんのつまみ細工ざいくかみかざりでできています。洋服ようふくわせて自分じぶんわせをアレンジして使つかうことができます。使つかわないときは、ばなのようにしてかざっておけます。季節きせつわせて、いろいろなお花畑はなばたけをそろえるのも、たのしそうです。


 ●「杉野すぎの商店しょうてん

杉野守(すぎのまもる)さん(右(みぎ))と聡子(さとこ)さん夫妻(ふさい) 拡大
杉野守(すぎのまもる)さん(右(みぎ))と聡子(さとこ)さん夫妻(ふさい)

 東京都墨田区向島とうきょうとすみだくむこうじま3の20の7

 https://sugino.business.site/

 終戦しゅうせんの1948ねん杉野すぎのまもるさんの祖父そふにあたる好美よしみさんが、小間物こまものとして向島むこうじま創業そうぎょう明治以降めいじいこう墨田区すみだく紡績ぼうせき関連かんれん産業さんぎょうおおく「イトヘンのまち」ともわれ、「最初さいしょはハンカチやマスクなどをっていたのではないか」とまもるさん。その花街かがいちか周辺しゅうへんにつまみかんざし職人しょくにんがいたこと、さらに、ゴムりのぬのかざり「シュシュ」の製造せいぞう販売はんばいがけたことから、かみかざりと造花ぞうか中心ちゅうしん製造せいぞう販売はんばいをしています。


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は4がつ27にち一部地域いちぶちいきは28にち)に掲載けいさいします。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る