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的川博士の銀河教室

宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、JAXA名誉教授の的川泰宣さんが解説する長寿連載です。

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的川博士の銀河教室 640 「パーシビアランス」(その5止) 火星初のヘリコプター

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写真 インジェニュイティー。胴体はティッシュペーパーの箱くらいの大きさしかない=NASA/JPL提供 拡大
写真 インジェニュイティー。胴体はティッシュペーパーの箱くらいの大きさしかない=NASA/JPL提供

 火星の地上で活動を始めた探査車「パーシビアランス」の車体下面には、ヘリコプター型のドローンが折りたたんで積んであります。「インジェニュイティー」(Ingenuity)と名付けられた火星初のヘリコプターです。質量は1.8キロ。胴体どうたいの大きさはティッシュペーパーの箱ぐらいしかありません(写真)。地球の100分の1ほどのうすい大気しかない火星で、飛ぶかどうか注目されていますが、開発したNASA(米航空宇宙局)のジェット推進研究所(JPL)のチームは自信満々じしんまんまんで、飛行の安定性を実証し、1カ月にわたってテスト飛行を何度も試みます。

 こんなに薄い大気の中を飛行するヘリコプターは、全体をうんと軽く作る必要があることはもちろんですが、高速で回転する大きなつばさを備えなければなりません。「インジェニュイティー」のローターはおよそ1.2メートルの翼2枚が毎秒40回転でたがいに逆回転する仕組みです(図1)。しかも、着陸地点のジェゼロ・クレーターは夜間の気温がマイナス90度にまで下がる過酷かこく環境かんきょうですから、部品にも高い品質が求められます。JPLのチームは非常に高い技術的なハードルをいくつもえて、ついに完成させたのです。

 動力は電気。太陽電池で充電じゅうでんされるリチウムイオンバッテリーが搭載とうさいされています。飛行中の平均消費電力は350ワット。1日当たり90秒の飛行が可能。飛行高度は最大約5メートルで、飛行範囲はんいは300メートルです。

 「パーシビアランス」は、適切な場所を探し出し、「インジェニュイティー」を火星の大地に降ろします。そして1カ月以上かけて機器のチェックをした上で、問題がなければ、5月ごろにはテスト飛行に移ります(図2)。飛べることが実証されれば、広い範囲を飛び回って、将来は「パーシビアランス」のようなローバー(探査車)のために理想的な走行ルートを偵察ていさつし見つけ出すことができるようになるので、火星探査の質を大いに高めるのに役立つでしょう。さらに、高解像度の画像を取得したり、宇宙飛行士のための偵察、がけや火山など、ローバーでは行けないような場所の地形調査やサンプル回収も期待できますね。

写真 インジェニュイティー。胴体はティッシュペーパーの箱くらいの大きさしかない=NASA/JPL提供 拡大
写真 インジェニュイティー。胴体はティッシュペーパーの箱くらいの大きさしかない=NASA/JPL提供

 「インジェニュイティー」という名前は、日本語では創意工夫とか巧妙こうみょうさという意味を持ちます。米国アラバマ州の高校生バニーザ・ルパーニさんが提案して、数多くの候補の中から選出されました。応募おうぼ時のエッセーでルパーニさんは、「創意工夫インジェニュイティー偉業いぎょうの達成を可能とするものであり、私たちの視野を宇宙の隅々すみずみまで広げることを可能とするものでもあります」と書きました。空を飛ぶことにあこがれ続けた人類が地球で動力飛行を成功させたのは100年ちょっと前。その翼は火星の空でも羽ばたきつつあるわけです。

 さる2月22日にはインジェニュイティーから、電子機器の動作を維持いじするためのヒーターが起動したことが確認されており、2月27日には「パーシビアランス」が、「インジェニュイティー」のソフトウエアの更新こうしんに成功しています。頑張がんばれ、インジェニュイティー!(完)


的川泰宣まとがわやすのりさん

 長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍かつやくしてきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉めいよ教授。1942年生まれ。


日本宇宙少年団(YAC)

 年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp


 「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣まとがわやすのりさんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載れんさい開始。カットのイラストは漫画家まんがか松本零士まつもとれいじさん。

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