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的川博士の銀河教室

宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、JAXA名誉教授の的川泰宣さんが解説する長寿連載です。

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的川博士の銀河教室 641 宇宙に寺院をつくる 京都の醍醐寺が計画

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 京都には世界遺産がいっぱいあります。そのうちの一つ「醍醐寺だいごじ」(真言宗醍醐派しんごんしゅうだいごは総本山)が、ベンチャー企業きぎょう「テラスペース」と組んで、仏像をせた人工衛星を打ち上げる計画を進めています。3月8日には、その「宇宙寺院」の成功をいのる法要が営まれました(図1)。

 計画通りにいけば、2023年に打ち上げられます。発表によると、テラスペースが開発する縦横20~30センチほどの箱形の人工衛星を高度約500キロの地球周回軌道きどうに送り、衛星の半分には寺に伝わる本尊(大日如来だいにちにょらい)や曼荼羅まんだらを収め、もう半分には衛星の機器やセンサー類を積みます(図2)。世界から寄せられた数々かずかずの願い事もデータとして搭載とうさいします。「宇宙寺院」の現在位置や上空の通過時間帯を配信して宇宙の寺を身近に感じてもらいます。

 醍醐寺では、地域や国のわくえた目線で平和や安全を祈る寺院が欲しいと長年考えていたそうです。宇宙寺院の名称めいしょうは「浄天院じょうてんいん劫蘊寺ごううんじ」といいます(図3)。「劫」はインド哲学てつがくの用語で、極めて長い宇宙論的な時間の単位です。また「蘊」も仏教用語で、「五蘊」といって人間の存在を構成する五つの要素を表現する言葉です。

 1961年に旧ソ連のユーリ・ガガーリン宇宙飛行士が人類で初めて宇宙に打ち上げられて以来、たくさんの宇宙飛行士が宇宙へ飛び立っています。普通ふつうの人が宇宙へ出かける時代も目前にせまっているようで、そのような民間宇宙旅行が盛んになれば、当然宇宙での「死」の問題も視野に入れなくてはならなくなるでしょう。もちろん「宇宙と宗教」をめぐる問題には、複雑な背景がありますが、いずれ真剣しんけんに議論しなければならないテーマだと思います。

 「宇宙と宗教」に関連して私が思いだすのは、68年12月のクリスマスイブに月を周回しつつあったアポロ8号の飛行士たちが、地球のみなさんへのメッセージとして、旧約聖書の「創世記」を読んだことです。そして、月はいつも同じ面を地球に向けているので、月面に墓地を作れば、お墓参りに出かけなくても毎日お月さまに向かって拝んでいれば……という横着で一見罰当ばちあたりなアイデアが出たこともあります。

 宇宙飛行士の友人から聞いた話では、「天にましますわれらが神よ、と言っても、宇宙にいると、一体どっちを向いて拝めばいいのか困ってしまう」という「深刻な笑い話」も耳にしました。

 今でも私たちは国際宇宙ステーション(ISS)の通過時刻をアプリやウェブサービスで調べて、ISSの光を地上からながめることができますね。何年か後には、宇宙寺院の通過時刻を確かめて、夜空をあおいで参拝したりする人が出てくるかもしれませんね。


的川泰宣まとがわやすのりさん

 長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍かつやくしてきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉めいよ教授。1942年生まれ。


日本宇宙少年団(YAC)

 年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp


 「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣まとがわやすのりさんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載れんさい開始。カットのイラストは漫画家まんがか松本零士まつもとれいじさん。

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