小児科医(しょうにかい)の湯浅(ゆあさ)正太(しょうた)さん
難病や障害がある子のきょうだいは、自分の気持ちを出しにくく、さまざまな悩みを抱え込みがちです。きょうだいとして育った亀田総合病院(千葉県鴨川市)の小児科医、湯浅正太さん(40)は、自分の体験をもとにした絵本「みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし」(日本図書センター)を出版しました。「ひとりじゃないよ」と語りかけます。
絵本は、障害のある弟がいる小学生の男の子が主人公。弟のことは好きだけれど、みんなと同じようにできないことをはずかしく思ったり、心配したり、複雑な感情におしつぶされそうになります。しかし、弟の「おにいちゃん みんなとおなじくできないよ」という言葉をきっかけに、弟のことをよくわかりたいと思うようになります。
難病や障害がある子どものきょうだいを「きょうだい児」といいます。きょうだい児は、「病気や障害の原因は自分のせいではないか」「自分がしっかりしないといけない」など、さまざまな悩みを抱えています。感情がコントロールできずに突然怒ったり、集中できなくなって勉強の成績が下がるなど学校生活に影響が出たりすることもあります。状況を理解していない大人にしかられると、自信をなくしてしまいます。
弟(おとうと)への複雑(ふくざつ)な気持(きも)ちを「ボクのこころはグチャグチャ」と表現(ひょうげん)しています。「みんなとおなじくできないよ 障(しょう)がいのあるおとうととボクのはなし」より=日本図書センター提供
「自分のせい」
湯浅さんも小学生のころ、弟がみんなと同じようにできないことの原因が自分にあるのではないかと自分を責め、毎晩ふとんの中で泣いていたそうです。小児科医となった今では、「間違った考え方に支配されていた」と振り返ります。
湯浅さんは親の愛情と、友達に恵まれました。友達が弟と一緒に遊んでくれたり、優しい言葉をかけてくれたりしました。「味方がいると感じ、社会に対する希望が持てた。まわりにきょうだい児がいたら、味方になってほしい」
悩みを理解することが重要ですが、きょうだい児への支援は行き届いていません。「親はどの子にも同じように接したいと思っています。でも、どんなに優れた親でも病気や障害がある子どもの世話で心の余裕をなくすこともあります。社会全体の問題ととらえるべきです」。社会が家庭を支えることで、親に心の余裕が生まれます。
「みんなとおなじくできないよ 障(しょう)がいのあるおとうととボクのはなし」(日本図書(にほんとしょ)センター)
みんな違っていい
湯浅さんはこの絵本を通して、「きょうだい児に、きみはひとりじゃないと伝えたい。悩むことが当然。あるがままを受け入れてほしい」と言います。また、子どもたちが個性を認め合い、「みんなそれぞれが違っていい」という気持ちを持ってもらいたいと願っています。【篠口純子】