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江戸東京見本帳

江戸時代からのものづくりの技と伝統を、記者が老舗の工房を訪ねて紹介します。組紐、ガラス細工、紅など……驚きの世界です。

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江戸東京見本帳

江戸手描提灯 元気出る粋な墨文字

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 ひるはにぎやかなまちも、ちれば一気いっきくらになった江戸時代えどじだい。「よる」はすなわち「やみ」。電気でんきがなかった当時とうじ闇夜やみよをほのかにあかるくするのは、つきひかりか「ほのお」でした。ろうそくのほのおえないようにと、和紙わしかこった照明しょうめいが「あんどん」や「ちょうちん」です。なかでもちいさくりたたむことができるちょうちんは、日本にっぽん考案こうあんされ、江戸時代えどじだいになって一気いっきひろがった便利べんり照明しょうめいです。

 東京とうきょう名所めいしょ浅草寺せんそうじちかくにある「大嶋おおしま恩田おんだ」は、170ねんちかつづく「江戸えどがき提灯ちょうちん」の専門店せんもんてんです。6代目だいめ恩田おんだおさむさん(43)が、「提灯ちょうちん文字もじ」という独特どくとく文字もじを、まるみのあるちょうちんにたくみにえがいていきます。

骨(ほね)のでこぼこのすき間(ま)にも、筆(ふで)で墨(すみ)をしっかり塗(ぬ)り込(こ)んでいきます 拡大
骨(ほね)のでこぼこのすき間(ま)にも、筆(ふで)で墨(すみ)をしっかり塗(ぬ)り込(こ)んでいきます

文字もじいきお

 一見いっけんして「和風わふう」の雰囲気ふんいきたっぷりの提灯ちょうちん文字もじは、寄席よせ文字もじ勘亭流かんていりゅう相撲すもう文字もじなどといった「江戸えど文字もじ」の仲間なかまです。楷書かいしょ肉太にくぶとにしたような書体しょたいですが、ふとふで一気いっきくわけではありません。輪郭りんかくせんいてなかる「かご文字もじ」の一種いっしゅで、「はね」や「とめ」「はらい」を強調きょうちょうしたのが特徴とくちょうです。「江戸えど神髄しんずいは『いき』ですから、文字もじにもいきおいがあるのでしょう。おまつりのにぎわいや、商売繁盛しょうばいはんじょうへのおもいがめられた、元気げんき文字もじだとおもいます」と恩田おんださん。

火袋(ひぶくろ)に提灯(ちょうちん)文字(もじ)を描(か)く恩田(おんだ)修(おさむ)さん。火袋(ひぶくろ)は表面(ひょうめん)に霧吹(きりふ)きで水(みず)をかけ、中(なか)に棒(ぼう)を入(い)れて、和紙(わし)の蛇腹(じゃばら)がぴんと張(は)った状態(じょうたい)で作業(さぎょう)を進(すす)めます 拡大
火袋(ひぶくろ)に提灯(ちょうちん)文字(もじ)を描(か)く恩田(おんだ)修(おさむ)さん。火袋(ひぶくろ)は表面(ひょうめん)に霧吹(きりふ)きで水(みず)をかけ、中(なか)に棒(ぼう)を入(い)れて、和紙(わし)の蛇腹(じゃばら)がぴんと張(は)った状態(じょうたい)で作業(さぎょう)を進(すす)めます

職人しょくにん個性こせい

 ひとひと手作業てさぎょうえがかれる文字もじ家紋かもんは、職人しょくにんごとに個性こせいがあります。「最初さいしょ先代せんだいわざをまねておぼえるしかありません。自分じぶんなりの字体じたいができたかな、とおもえるまで5ねんはかかりましたね」。輪郭りんかくせんなかるのは、つま怜美さとみさん(42)の役割やくわりで、よりはやく、たくさんつくれるように分業ぶんぎょうするのも特徴とくちょうです。手描てがき提灯ちょうちんにち用品ようひんとして大量たいりょう消費しょうひされていたことがうかがえます。

 「りたためるというのが、最大さいだい特徴とくちょうですね。かるいので、はこぶのにも、収納しゅうのうするのにも便利べんりつきかりがたよりの江戸えど夜道よみちが、ちょうちんひとつあることで、ぐんと行動こうどう範囲はんいひろがったはずですよ」

水戸みとから江戸えど

 「火袋ひぶくろ」とよばれるちょうちんの本体ほんたいは、和紙わしたけひご、上下じょうげ口輪くちわ使つか、そしていとでできています。どれも身近みぢか素材そざいばかりです。

 江戸えど当時とうじから、和紙わしづくりがさかんだった水戸藩みとはん現在げんざい茨城県いばらきけん)は、関東かんとうのちょうちんづくりの中心地ちゅうしんちで、ここでつくられる「水府すいふ提灯ちょうちん」が水戸みとから江戸えどはこばれ、がき職人しょくにん文字もじ家紋かもんき、最終さいしゅうてき商品しょうひんとなります。

大勢(おおぜい)の人(ひと)でにぎわう浅草(あさくさ)の三社祭(さんじゃまつり)=2019年(ねん)5月(がつ)19日(にち) 拡大
大勢(おおぜい)の人(ひと)でにぎわう浅草(あさくさ)の三社祭(さんじゃまつり)=2019年(ねん)5月(がつ)19日(にち)

ひとじゃはら

 さくねんからつづ新型しんがたコロナウイルス感染症かんせんしょう流行りゅうこう全国ぜんこくてきまつりが中止ちゅうしになっています。まつりのよるいろどるちょうちんも注文ちゅうもん激減げきげん。700ねん歴史れきしほこ地元じもと浅草あさくさの「三社祭さんじゃまつり」も規模きぼ縮小しゅくしょうされ、影響えいきょう深刻しんこくです。

 「でも、そんなときだからこその、ちょうちんの役割やくわりというのもあるのかな」と恩田おんださん。和紙わししにる“ともしび”は、やわらかく、あたたかみがあって、ひとせる不思議ふしぎちからがあるといます。

 もうひとつ、ちょうちんにはむかしからおまもりの役割やくわりもあるのだそうです。「『邪気じゃきってくれる』ともわれます」。ちょうちんの蛇腹じゃばらじゃはらう(邪払じゃばら)とは、江戸えどらしく、しゃれがきいています。

 「ちょうちんのかりをていると、きっと元気げんきてきますよ」。和紙越わしごしのほのおかぶすみ一色いっしょく力強ちからづよ文字もじちいさくてもえることのない江戸えどがき提灯ちょうちんは、どんな時代じだいいきやみらします。【ぶんもり忠彦ただひこ写真しゃしん宮武みやたけ祐希ゆうき

丸(まる)型(がた)ちょうちん 拡大
丸(まる)型(がた)ちょうちん

いろいろなちょうちん

 大嶋おおしま恩田おんだでは、(1)まるがた(2)なががた(3)なが細型ほそがた(4)御用ごようがた(5)小田原おだわらがた――などにけています。

長(なが)型(がた)ちょうちん 拡大
長(なが)型(がた)ちょうちん

 うえからつるして蛇腹じゃばらばしたままにするタイプのほかには、「ゆみ」をつけて火袋ひぶくろばした状態じょうたいたもつ「弓張ゆみはり提灯ちょうちん」があります。弓張ゆみはりくことができ、あるいてもゆらゆらしません。時代劇じだいげきとりものてくる「御用ごよう提灯ちょうちん」で有名ゆうめいです。「御用ごよう」や「とう火付ひつけ盗賊とうぞくあらためという役所やくしょ)」といたものをもとめる時代劇じだいげきファンもすくなくないとか。

ちょうちんの歴史れきし

 げてあかりといて提灯ちょうちん。その原形げんけいができたのは室町時代むろまちじだいのついたかごかみったようなものといわれます。ほそったたけにした「」をほねに、丈夫じょうぶ和紙わしり、上下じょうげ伸縮しんしゅくできる構造こうぞうは、安土桃山時代あづちももやまじだいごろの発案はつあんとされ、日本にほん独自どくじのものです。戦国時代せんごくじだい本格的ほんかくてき普及ふきゅうしたのが江戸時代えどじだいはいってから。夜間やかん移動いどう可能かのうになる、画期的かっきてき発明はつめいでした。

現代的げんだいてき使つかかた

 むかし伝統でんとうてきろうそくが光源こうげんでした。ちょうちんのそこにはろうそくてがいていて、いろいろなかたちいろのろうそくでかりをたのしむことができます。現在げんざい代用品だいようひんとして電池でんちしきやコードしき電球でんきゅう使つかえ、防火ぼうか対策たいさくもされ安全あんぜん居間いまのランプシェードにするなど、使つか場面ばめんひろがりました。

大嶋(おおしま)屋(や)恩田(おんだ)の新作(しんさく)、四角(しかく)いちょうちん 拡大
大嶋(おおしま)屋(や)恩田(おんだ)の新作(しんさく)、四角(しかく)いちょうちん

新作しんさくは「四角しかく

 今年ことし6がつあたらしいタイプの「四角しかくがた提灯ちょうちん」が誕生たんじょうしました。「ちょうちんはまるいもの」という従来じゅうらい概念がいねんやぶった、恩田おんださんの新作しんさくです。一見いっけん、あんどんのようにえますが「上下じょうげりたためる」ので、やはり、ちょうちん。「これまでにないあたらしい用途ようとにも挑戦ちょうせんしてみたいですね」と恩田おんださん夫妻ふさいはなします。

オンライン体験たいけん教室きょうしつ

 「おおくのひと手描てがきの技術ぎじゅつってもらいたい」という先代せんだい5代目だいめ恩田おんだ俊二しゅんじさん(72)のおもいから、15ねんほどまえから体験たいけん教室きょうしつも。現在げんざいはコロナのため、対面たいめん教室きょうしつはおやすみですが、わりに体験たいけんキットを販売はんばい。オンラインでの教室きょうしつはじめました(10人以上にんいじょうけ)。最初さいしょはちょうちんのでこぼこに苦戦くせんするそうですが、大丈夫だいじょうぶ。ちゃんとアドバイスしてくれます。「自分じぶんだけのオリジナルちょうちんができると、たのしいですよ」と怜美さとみさん。


江戸(えど)手(て)描(がき)提灯(ちょうちん)「大嶋(おおしま)屋(や)恩田(おんだ)」 拡大
江戸(えど)手(て)描(がき)提灯(ちょうちん)「大嶋(おおしま)屋(や)恩田(おんだ)」

 ●江戸えどがき提灯ちょうちん大嶋おおしま恩田おんだ

東京都台東区駒形とうきょうとたいとうくこまがた2の6の6

https://www.chochin-ya.com/

 江戸えど末期まっきの1854(あんせいがんねん浅草寺せんそうじ門前もんぜん位置いちする駒形こまがた初代しょだい恩田おんだ音次郎おとじろうがちょうちんはじめました。みせまえはし江戸通えどどおりは、水戸街道みとかいどう愛称あいしょうばれる国道こくどう6ごうで、ちょうちんの産地さんちである水戸みととつながっています。いまむかしも、このみちとおってちょうちんがはこばれています。


 次回じかいの「江戸東京えどとうきょう見本帳みほんちょう」は7がつ27にち一部地域いちぶちいき28にち)に掲載けいさいします。これまでの連載れんさい一部いちぶは、ウェブサイト「The Mainichi」で英語えいごむことができます。

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