春(はる)の日(ひ)差(ざ)しの下(もと)、入学式(にゅうがくしき)の看板(かんばん)を前(まえ)に記念(きねん)撮影(さつえい)する新(しん)1年生(ねんせい)
Q なぜ学校は4月から始まるのですか?(東京都、小3、小幡優衣さん)
「会計」に合わせた? 確かな理由は不明
A 小学校は「4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる」と国の規則で決められ、全国どこでも4月が新学年の始まりです。
1986年に広島大学の沖原豊さんたちが、学校が4月始まりになった歴史を詳しく調べています。
明治時代初めの1872年に「学制」によって全国に小学校が作られ、86年の「小学校令」で、義務教育になりました。それより前は、子どもたちは寺子屋などで読み書き計算を勉強していました。一斉に授業をするわけではなく、入りたい時に入れる場所でした。江戸時代の教育が専門の、日本女子大学学術研究員の橋本昭彦さんは「昔は正月になると1歳年を取ると考えていたため、節目の1月などの区切りに入門する人も多かった」と言います。
明治時代になると、近代的な国を造るため、ヨーロッパやアメリカをお手本にした学校が作られました。ドイツから医師を招いて授業を行った、今の東京大学医学部の前身にあたる学校は、9月が入学時期でした。1886年にできた帝国大学(現在の東京大学など)が取り入れてから、9月入学の学校が増えました。
86年に小学校が義務教育になったころ、小学校の4月入学を進める動きが出始めました。87年には、筑波大学の前身で、先生になるための高等師範学校が、4月入学を実施しました。前年に、会計年度(役所などに入ったお金と出ていったお金を計算するための区切り)が、それまでの「7月~翌年6月」から、「4月~翌年3月」に変更されたことが大きな理由としてあげられています。学校にかかるお金の多くが税金から支払われていたため、会計年度と合わせた方が便利だったためとされています。ただ、それまでは会計年度とずれていたこと、同じく税金を使っていた帝国大学は9月から4月入学に変えなかったことを考えると、決定的な理由ではないのではないかと、「学校ことはじめ事典」の著者の佐藤秀夫さんは指摘しています。
86年には、20歳以上の男性に軍隊に入ることを課す「徴兵令」も改正され、徴兵検査を受ける人の届け出の締め切りが9月から4月に変更されました。千葉県尋常師範学校が、4月入学に変更した時の知事への説明では、理由の一つが優秀な学生を軍隊に取られることを心配したものでした。ただ、会計年度も徴兵令も、いずれも確かな理由ではありません。明治時代中ごろの92年には小学校はほぼ全国的に4月始まりになり、1900年には「小学校令施行規則」で、4月1日に学年が始まり、翌年3月31日に終わると決められました。
一部の大学は9月入学、小学校や高等師範学校は4月入学という、入学時期が二つあった時期が続きましたが、3月に卒業してから9月に入学するまでの期間が問題になり、大正時代に4月入学に統一されました。
日本では当たり前の4月始まりですが、文部科学省の「世界の学校体系」などによると、アメリカ、イギリスやフランス、中国では9月に始まることが多く、南半球のオーストラリアやブラジルでは1月や2月始まりが多いようです。日本でも2011年に東京大学が、海外の大学への留学や留学生の受け入れ機会を増やすことを目的に、入学時期を9月にすることを検討しました。また20年に新型コロナウイルス感染の広がりで、学校が長期間休校した時にも検討されるなど、学年の区切りの変更はたびたび議論されています。【田嶋夏希】