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的川博士の銀河教室

宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、JAXA名誉教授の的川泰宣さんが解説する長寿連載です。

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的川博士の銀河教室 696 天の川銀河中心のブラックホール

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(図1) 天の川銀河の想像図(左)と、天の川銀河中心領域のX線(青)と電波(ピンク)の合成画像(右)。右画像の中心にある電波源が「いて座Aスター」=NASA提供
(図1) 天の川銀河の想像図(左)と、天の川銀河中心領域のX線(青)と電波(ピンク)の合成画像(右)。右画像の中心にある電波源が「いて座Aスター」=NASA提供

国際チームが撮影に初成功

 私たちが住んでいる天の川銀河の中心には、太陽の400万倍の質量を持つ巨大きょだいブラックホールがあると言われてきました。以前から「いて座Aスター」と呼ばれてきた天体です(図1)。そのいて座Aスターが、史上初めて、電波とコンピューターの力を借りて、目に見える姿でとらえられました。写真1がそれです。いて座Aスターは、やはり巨大ブラックホールでした。

(写真1) 天の川銀河中心にある巨大ブラックホールの史上初の画像=EHT Collaboration提供 拡大
(写真1) 天の川銀河中心にある巨大ブラックホールの史上初の画像=EHT Collaboration提供

 この快挙をげたのは、地球上の八つの電波望遠鏡をつなぎ合わせて地球サイズの仮想的な望遠鏡に仕立てたイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:事象の地平面望遠鏡)です。写真1は、EHTの国際チームが、2017年に観測して得たさまざまなデータを平均したものです。

 ブラックホールは、何でもんでしまい、光も引き込まれると、そこから脱出だっしゅつできないので、私たちはブラックホールそのものを見ることはできません。でもそのまわりで光りかがやいているガスが作る明るいリングの中心に、「シャドー」と呼ばれる暗い領域として映しだすことができるのです。

(写真2) 2019年に発表された銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの画像=EHT Collaboration提供 拡大
(写真2) 2019年に発表された銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの画像=EHT Collaboration提供

 今回観測したブラックホールは地球から約2万7000光年の距離きょりにあります。見かけの大きさは月の上のドーナツ(直径8センチ程度)ほどの大きさしかありません。相手が何しろ遠く暗い天体ですから、研究チームは世界各地の八つの電波望遠鏡をコンピューターでたくみに結んだEHTと呼ばれる観測ネットワーク(図2)を作り、何日もかけて長時間露光ちょうじかんろこうして観測しました。

 国際協力の下で日本が運用に参加している南米チリのアルマ望遠鏡は、EHTの要となる観測局として大切な役割を果たしました。国際チームの一人は「リングの大きさがアインシュタインの一般相対性理論いっぱんそうたいせいりろんの予言と非常によく一致いっちしていることに衝撃しょうげきを受けた」と語っています。

 実は、EHTチームは19年にも、今回のいて座Aスターよりもずっと遠い5500万光年かなたのM87銀河(おとめ座方向)の中心にある巨大ブラックホールの画像も発表しています(写真2)。今回のいて座Aスターよりも距離が2000倍も遠い! ただしM87の巨大ブラックホールは、質量がいて座Aスターの2000倍も大きいのです。ブラックホールの半径は質量に比例するので、リングサイズもおよそ2000倍! だから、見た目にはほぼ同じリングサイズになるのです。

 写真1と2は、質量がずいぶんちがっていても、ブラックホールのごく近い範囲はんいだけを見ると非常によく似ていますね。EHTチームは他の銀河の中心にある巨大ブラックホールもどんどん観測し、さらに理解を深めていく予定です。科学者の奮闘ふんとうが、なぞの多いブラックホールの正体にせまる素晴らしい成果を生み出してくれることでしょう。


的川泰宣まとがわやすのりさん

 長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍かつやくしてきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉めいよ教授。1942年生まれ。


日本宇宙少年団(YAC)

 年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp


 「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣まとがわやすのりさんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載れんさい開始。カットのイラストは漫画家まんがか松本零士まつもとれいじさん。

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