打ち上げられるヌリ号ロケット=韓国の羅老宇宙センターで6月21日、AP
試験衛星と超小型衛星4機投入
韓国は6月21日夕方、国産ロケット「ヌリ号」の打ち上げと衛星の軌道投入に初めて成功しました(写真1)。
発射時刻は午後4時(日本時間も同じ)、発射場は、ソウルの南500キロの全羅南道高興郡にある羅老宇宙センター(図)。打ち上げの2分後、1段目エンジンが予定通り燃焼を停止し、2段目エンジンが燃焼を開始。打ち上げの4分後、ロケット先端部のフェアリング(衛星を保護する部分)が分離、そして打ち上げの約14分後、高度約700キロにおいて、性能試験用の衛星PVSAT(162キロ)と模擬衛星(1.3トン)を予定の軌道へ投入しました。
PVSATには、大学と研究所が開発・設計した4機の超小型衛星が搭載されています(写真2)。打ち上げから42分後には、南極の世宗基地に設置したアンテナによって、PVSATとの交信を成功させ、衛星の位置を確認しました。
ヌリ号ロケットとしては、昨年10月以来の再挑戦です。これで韓国は、重量1トン以上の実用衛星を自力で打ち上げた世界7番目の国となりました。
韓国は、2013年にロシアの技術協力を得て「羅老号」という小型ロケットの打ち上げに成功していますが、今回はその技術を後継・発展させ、航空宇宙産業を中心とする約300社の技術を集め、すべて韓国の技術で製造したロケットだけに喜びも格別でしょう。
ヌリ号の先輩である羅老号の開発も多難でした。09年、羅老号の初めての打ち上げではフェアリングの分離に失敗、10年には1段目飛行中に爆発事故が起き、13年に辛うじて打ち上げに成功しました。
羅老号は、ソ連邦崩壊の後にロシアが遭遇した経済的困難という状況で成立した韓露協力によって進められ、ロシアが1段目液体ロケット、韓国が2段目固体ロケットを開発する形で開発されました。打ち上げ用ロケットでは1段目のロケットが最も重要な役割を担うので、1段目エンジンがロシア製の羅老号を「韓国のロケット」と呼ぶことには無理がありました。
こうして開発に成功したヌリ号は、全長47.2メートル、直径3.5メートル、重量200トンで、1.5トンの衛星を高度600~800キロの軌道に投入する能力を有しています。
韓国は、今回の成功を受けて、27年までになお4回の打ち上げを計画しており、今後は実際の運用に向けた衛星などを搭載します。尹錫悦大統領も「航空宇宙庁を設置し、産業を支援する」と表明しており、政府の力強い支持が得られそうです。30年以降には無人月面探査にも乗り出す方針のようで、楽しみですね。
なお、「ヌリ」は「世の中」とか「世界」を意味する朝鮮の古い言葉です。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。